朴槿恵(パク・クネ)大統領と大統領府が、国民年金所得代替率の引き上げ関連議論に最初から“越権”とブレーキをかけた理由は、与野党の議論自体が「増税なき福祉」という現政権の国政基調と真っ向から対立するという認識のためだ。与野党が対立している「名目所得代替率50%」が完全に実現されなくても、所得代替率引き上げの方向に進められると、政府財政(税金)の投入または保険料の引き上げなど、政府にとって望ましくない状況をもたらしかねないと判断しているのである。
特に、財政支出を減すために始めたこと(公務員年金の改編)に、与党がより大きな財政支出事案(国民年金所得代替率の引き上げ)を巻き込んだのが、大統領府の最大の不満だ。大統領府内部で「一文惜しみの百知らず」という言葉が出ていることからも、こうした雰囲気が窺える。増税は、政府発足以前から、朴大統領が極度に忌避してきたものであり、保険料引き上げも国民の立場からすると、事実上「増税」に映ると考えている。大統領府が10日、「所得代替率を50%に引き上げれば“税金爆弾”がなんと1702兆ウォン(約187兆5048億円)にも達する」と保険料引き上げを税金爆弾と表現したのは、大統領府が意識的に国民にこのような認識を煽ろうとしたものと見られる。
大統領府や与党の一部から「保険料が引き上げられると、企業の負担も増え、投資や雇用創出などが困難になる」とか「(加入者たちの)可処分所得が減り、景気萎縮が悪化する」という主張が出てくるのも、これまで朴大統領と大統領府増税を拒否してきた論理と同じだ。
政治的には政権発足3年目の今年、公務員年金改革を仕上げてから労働、金融、教育分野の改革につなげる、というのが大統領府のロードマップだった。だが、公務員年金改革が国民年金の改編議論に流れ込んだことで、既存の構想が全体的に崩れたのも、大統領府を当惑させている。公務員年金の議論よりもはるかに複雑で、世代間、階層間の利害が鋭く対立する国民年金の議論が本格化すれば、任期後半に入る朴槿恵政権としては、この問題に対するこれといった成果も出せないまま、攻防を繰り広げただけで任期が終わる可能性もあると考えているわけだ。
大統領府関係者は「国民年金の議論は、改憲同様、次回政権を握る未来権力が時間をかけて慎重に議論する必要がある事案として捉えるべきだ」とし、国民年金の議論を主導する意思がないことを明らかにした。
韓国語原文入力: 2015-05-10 19:58