国民年金所得代替率の引き上げをめぐり政界が熱気を帯びだしている。国民年金の持つ世代間の公平性と所得再分配の問題など、敏感な側面が浮き彫りになるにつれ、欧州などの先進国のように年金政策に対する立場によって政権の命運が変わる、いわゆる「年金政治」が本格化されるかについても関心が集まっている。
国会保健福祉委員会所属の野党幹事のキム・ソンジュ新政治民主連合議員は5日、「福祉国家への道において老後保障の中心は年金だと考えている」とし「ヨーロッパでは年金政策が(政治や選挙の)明暗を分けるメガトン級の問題だ。韓国でも年金政治が本格化したものと思われる」と述べた。韓国はすでに高齢化社会に突入して久しいが、高齢者の貧困率は2013年現在48.0%で、高齢者2人のうち1人が貧困状態だ。高齢者の自殺率も、経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち1位を占めている。OECD加盟国の65歳以上の高齢者10万人当たりの自殺率は、2000年22.5人から2010年に20.9人に減ったが、同じ期間、韓国は34.2人(5位)から80.3人(1位)に増えた。増加率が2.3倍に達するほどの急速な上昇だ。ここには、経済的理由がかなりの影響を及ぼしたものと見られる。実効性のある高齢者の貧困対策が切実とされ、その重要な政策として公的年金強化論が提起されたのも、そのためである。また、高齢化に伴い高齢者層が主な有権者となる「シルバー民主主義」社会を備え、各政党が高齢の有権者の“心”を掴まなければならなくなった政治的理由も無視できない。
ただし、基本的に国民年金は、財政の持続可能性と世代間公平性の問題を軽減するために、「多く納めて少なく受け取る」構造に向かって改編が進められてきたため、加入者の不満と不安は相当なものだ。与野党が合意した「多く納めて多く受け取る」形式の国民年金再編の方向について、国民が手放しで喜ばないのもそのためだ。
長期間保険料を納めて上の世代を扶養し、後々になってようやく年金を受け取ることになる若い世代にとり、国民年金保険料の引き上げは事実上の増税に等しく、そう簡単には同意できない。さらに、高所得者の年金納付額で低所得者の年金を支援する「所得再分配」機能は、中流階層の加入者が国民年金に非友好的な態度を取る原因にもなり得る。「私が作る福祉国家」のオ・ゴノ共同運営委員長は5日、「基金の枯渇を防ぐためには、加入者の権利の弱体化は避けられず、利害関係者が反発せざるを得ない」とし「政治的爆発力が大きい事案なだけに、このような対立を調整する政界の役割が一層重要である」と説明した。
実際に年金が持つ破壊力は政権をも交替させる。 2003年、ドイツでは、社民党政権が財政の安定のために年金額を減らす形の年金改革を果敢に推進したが、支持層の労働者層が大挙離脱して政権を明け渡す結果となるなど、2000年代半ばのヨーロッパでは、年金問題が最も重要な政治的議題として浮上した。ヤン・ジェジン延世大学教授(行政学)は「年金は、市場による配分ではなく、世代間・所得間の分配を政治の領域で決めること」だとし、「高齢者や中流階層など年金に敏感な“有権者”の利害関係をどのように代弁するのかが、今後の韓国政治にも主要な議題として浮上するだろう」と予想した。
一方、アン・チョルス新政治連合議員はこの日、「広範囲な公論化過程と財源づくりについて責任ある議論が先行しなければならない」と与野党の年金合意を批判した。彼は「わずか4カ月で、国民年金所得代替率50%引き上げるという難題を、社会的合意に基づいて解決していけるのか疑問」だとし、政府と国会、市民社会、専門家などが参加する「汎国民大妥協機構」の結成を提案した。
韓国語原文入力: 2015-05-05 20:10