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自分の中の尹錫悦を消し去ってしまわなければならない【コラム】

登録:2025-07-17 01:58 修正:2025-07-17 09:46
尹錫悦前大統領が9日、拘束前被疑者尋問(令状実質審査)を受けるために瑞草区のソウル中央地裁に出頭している=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が再拘束後に見せる姿は、無残で情けない。裁判にも出てこず、特検の出頭要請にも応じない。看守が引きずり出そうとしても自分の房から出てこない。

 手の施しようがない。つい最近まで大韓民国の大統領だったとは信じられない。全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領、盧泰愚(ノ・テウ)元大統領もここまでではなかった。拘束令状の審査の際には「みな私たちのもとを去った」と述べた。自己憐憫(れんびん)なのか、同情心の誘発を狙った演技なのかは知らぬが。

 2022年3月9日の大統領選挙で記号2番(国民の力)の尹錫悦候補に投票した人々は、当惑していることだろう。これほどまでに低劣な人物だとは知らなかったはずだ。このような時には、人よりひどい悪態をつかないと決まりが悪い。尹錫悦に対する非難が全国にあふれているのはそのためだ。

 これらあらゆる事態の責任は、すべて尹錫悦にあるのだろうか。本当にそうだろうか。今、私たちはみな、率直になる必要がある。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)は、2019年7月の検察総長の任命前に尹錫悦ソウル中央地検長の弱点を知っていた。

 「かっとなる性格だ。自己制御がうまくできないことが多い。『尹錫悦師団』という言葉が登場するほど、部下の面倒をよく見る」

 それでも検事総長にしたのは、尹錫悦検事がチョ・グク民情首席との面接で検察改革の意志を表明したからだ。うそにだまされたわけだ。

 尹錫悦検察総長はすぐに文在寅大統領に盾突き、保守既得権勢力の英雄となった。2020年1月に世界日報は、リサーチアンドリサーチに委託して次期大統領候補の適合度を調査した。尹錫悦検察総長は10.8%で、イ・ナギョン元首相に次いで2位に急浮上した。自由韓国党のファン・ギョアン代表を誤差範囲内で追い抜いた。

 2020年4月15日の第21代総選挙で「共に民主党」が180席を獲得して圧勝を収めると、保守既得権勢力は恐怖した。次期大統領候補に適当な人物がいなかったからだ。彼らのアンテナに尹錫悦が引っかかった。2020年12月に朝鮮日報のキム・デジュン顧問が「尹錫悦に注目する」と題するコラムを書いている。

 「彼の人気は彼の勇気、哲学、信念、正義感に感動した国民の自発的評価であるわけだ。そして文政権の左派独裁に対する反作用でもある」

 これほど称賛されたら揺るがずにはいられない。尹錫悦は2021年3月に総長を辞し、6月に大統領選への出馬を宣言した。

 政治経験のまったくない彼に大統領をやる力量があるのか、公正と常識を立て直す道徳性が備わっているのか、多くの人が疑問を呈した。しかし、政権奪還に目がくらんだ保守既得権勢力にとっては、そのようなことは問題ではなかった。2021年11月に出た「国民の力」の大統領候補を選ぶ党内選挙の結果がそうだった。民意はホン・ジュンピョ候補を勝たせたが、党内の意思は尹錫悦候補を勝たせた。

 あの時から彼は若干おかしかった。民主党を「アカ」扱いした。

 「左翼革命の理念、そして北朝鮮の主体思想、こういったものを学んで民主化運動の隊列に加わり、まるで民主化闘士であるかのように今まで内輪で助け合いながら生きてきた集団が、今の文在寅政権の成立後は国と国民を略奪している」(2021年12月29日の慶尚北道党選挙対策委員会の発足式にて)

 大統領になってからはさらにひどくなった。野党を反国家勢力扱いした。

 「従北(北朝鮮に追従する)主体思想派は進歩でも左派でもない。敵対的な反国家勢力との政治協力は不可能だ」(2022年10月19日の国民の力院外党協委員長との昼食にて)

 「共産全体主義に盲従し、ねつ造扇動で世論を歪曲し、社会をかく乱する反国家勢力が依然として幅を利かせている」 、「共産全体主義勢力は常に民主主義運動家、人権運動家、進歩主義活動家に偽装し、虚偽扇動といやしく反人倫的な工作を繰り返してきた」(2023年の8・15祝辞)

 怪物へと変わりゆく大統領を放置した結果こそ、まさに2024年の12・3非常戒厳だった。怪物大統領を作り出した最大の責任はもちろん、保守既得権勢力が唯唯諾諾と従ってきたことにある。しかし、政治の両極化と確証バイアスの時代に「ストロングマン」を渇望する有権者の助力と支持も、その一翼を担った。

 例えば、尹錫悦大統領が推し進めた「建暴(建設労組は暴力団)」というレッテル貼りと、強引な医学部増員には、多くの人々が歓呼した。結局、私たちの多くが尹錫悦という怪物大統領を作り出した共犯者であるわけだ。

 だからこそだ。私たちはさらに多くの共存の知恵を学び、忍耐力を育まなければならない。怪物は憎しみを食べて育つ。自分と考えの異なる人々を一掃すべきだという心を捨てなければ、怪物大統領はいつでも再び現れるだろう。恐ろしいことだ。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1208304.html韓国語原文入力:2025-07-16 16:49
訳D.K

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