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米大使襲撃、興奮する韓国と冷静な米国

登録:2015-03-06 22:47 修正:2015-03-07 06:55

 [韓国]
 朴大統領「背後明らかにするように」指示
 セヌリ党も「従北勢力」調査の相槌
 一部では「逆風」を懸念し冷静さを維持

 マーク・リッパート駐韓米国大使襲撃事件と関連し、朴槿恵(パク・クネ)大統領をはじめとする与党が「従北勢力」や「背後を厳重に処罰」に言及し、今回の事件を政治的に増幅させようとする態度を示している。

 中東4カ国を歴訪中の朴大統領は5日、襲撃事実の報告を受けた直後、「韓米同盟に対する攻撃」と規定したのに続き、6日には「白昼に米国大使がテロに遭ったことは、韓国政府と国民にとって衝撃的で、ありえない出来事」だと声を高めた。朴大統領はまた、「この人(被疑者キム・ギジョン氏)が複数回にわたってこのようなことを行ってきたので、果たしてどのような目的でこのようなことをしたのか、単独なのか、それとも背後がいるのか、すべてを徹底的に明らかにし、二度とこのようなことが再発しないようにしなければならない」とし、徹底した「背後捜査」を指示した。検察に事実上捜査方針を示したのである。

 朴大統領がこのように強硬な態度を示したのは、まず、米国が韓国の最も重要な安全保障のパートナーという現実認識と、「不純な外部勢力の存在」への疑惑が重なった結果と思われる。親がすべて殺され、自身も2006年カッターナイフで襲撃を受けた「トラウマ」も作用したとみられる。セヌリ党内では「朴槿恵政権の外交が中国に傾倒しているという米国側の不満を意識して(より)強硬に出たのではないか」という解釈も出ている。

 このような朴大統領の指示に合わせて、セヌリ党は今回の一件を「従北勢力事件」と規定し、背後を明らかにしなければならないと主張した。与党・政府・大統領府は6日の会議で、今回の事件を「従北勢力事件と規定して、背後を徹底的に調査することに意見の一致を見た」と、会議後ユ・スンミン セヌリ党院内代表が明らかにした。キム・ヨンウ セヌリ党首席報道官はキム・ギジョン氏を「乱暴な従北主義者」と規定した。

 セヌリ党議員らは「反米・従北勢力」(チャン・ユンソク議員)、「従北勢力の集団的な断末魔」(ハ・テギョン議員)などの表現を使って、「犯人は従北団体所属であり、数回にわたって訪朝したそうだ。一体誰の指示を受けて、なぜこのようなことをしたのか明らかにすべきだ」(キム・ジンテ議員)など、キム氏の行動と北朝鮮を関連づけている。

 しかし、セヌリ党の中でも「過激派の個人的な逸脱なのに、ここで従北と断定してしまうと、逆風に遭うかもしれない」と冷静な態度を維持すべきだとする動きもある。ある初当選議員は「セヌリ党は保守政党だから、北朝鮮を往来したという履歴が出てきたからには、何も言わないわけにはいかないが、イデオロギーの問題として取り上げてはならない」と述べた。パク・ミンシク議員も平和放送ラジオで「魔女狩りや従北世論づくりに活用しようとするのは適切ではない。これは、個人の極端な逸脱行為」と述べた。

 新政治民主連合も、今回の事件が従北世論づくりや公安政局に流れていく可能性を警戒している。文在寅(ムン・ジェイン)党代表も同日、米国大使館を訪問してメリー・タノブカ副大使代行と面会し「長い韓米同盟関係の深い友情が損なわれないことを願う」と慰めの言葉を伝えた。

チョ・ヘジョン、イ・スンジュン記者

マーク・リッパート駐韓米国大使を凶器で攻撃して傷を負わせたキム・ギジョン氏が6日午後、ソウル瑞草洞中央地裁に拘束令状実質審査を受けるために入っている。シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 [アメリカ]
 ビクター・チャ「政治とは無関係な暴力」
 国務省「韓米同盟は強い」
 警護の問題は指摘

 マーク・リッパート駐韓米国大使襲撃事件初日、衝撃に陥っていた米国政府と世論が2日目に入ってからは比較的に落ち着いた姿を見せている。

 ベン・ローズ ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)副補佐官は5日(現地時間)MSNBC放送に出演し、「イラク戦に情報将校として参戦したリッパート大使は強靭な性格の所有者」だとし「彼が可能な限り早く快復して業務に復帰することを期待している」と述べた。国務省もマスコミ向けの声明を出し、「韓米同盟は強い。私たちが分別のない暴力行為に萎縮されることはない」とし「リッパート大使が業務に復帰し、韓国政府と一緒に両国の関係強化はもちろん地域や地球規模の課題の解決のために議論することを楽しみにしている」との立場を示した。リッパート大使の健康状態に大きな問題がないことが確認されたことを受け、オバマ政権が彼の早急な業務復帰を通じて今回の事態を早期に収拾しようとするものと解釈される。

 ただし、ローズ副補佐官は、警護の問題と関連して「重要な点は、警護要員が駆け寄る前に容疑者が凶器で攻撃できたこと」だとし「大使と大使館員の安全を確保するために、現地当局などと緊密に協力している」と述べた。これは、リッパート大使などに対する身辺警護の強化措置を韓国政府と議論していることを示唆するものである。

 米メディアの報道は事件初日に比べて比重がかなり減っている。 CNNなどの主要な放送は主に大雪被害の報道に重点を置き、この事件は断続的に報道するにとどまった。保守派への影響力が大きいフォックスニュースは、元ホワイトハウスの秘密警護局出身の警護の専門家を出演させ、主に警護の不手際を指摘した。ニューヨーク・タイムズ紙は6日付国際面の6面の一番下段に事件の概要を中心に報道したのに続き、7日付6面に「韓国、単独犯行と見る」とのタイトルで警察の捜査速報を中心に報道した。同紙は、キム・ギジョン氏が過去駐韓日本大使を攻撃したこともある非主流活動家だと紹介しながら、キム氏を知っている人の話を引用し、彼は主に単独で活動してきたと伝えた。

 朝鮮半島専門家たちは、今回の事件を一人の過激派の突発的な行動とし、韓米関係に大きな影響を与えることはないと予想した。スコット・スナイダー米国外交協会主任研究員は、ハンギョレに 「これは単発的事件で、米国内で影響を及ぼすとは思えない」とし「むしろ今回の攻撃が韓米同盟を強化するきっかけになる可能性もある」と述べた。ブルッキングス研究所ジョナサン・ポラック先任研究員も「一歩間違えれば状況が悪化する可能性がある不穏な事件だったが、リッパート大使の命に別状はなく不幸中の幸い」とし「今回の事件で、米国内で反韓感情が生じるとは思わない」と述べた。リッパート大使と親しいビクター・チャ戦略国際問題研究所(CSIS)韓国碩座は、「今回の事件は、韓国人の真の友人に対する分別のない暴力行為だ。これは政治に関するものではない」とし「リッパート大使が今回のことで萎縮することはないだろう」と述べた。

ワシントン/パク・ヒョン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015.03.06 19:55

https://www.hani.co.kr/arti/politics/assembly/681229.html?_fr=mt1  訳H.J

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