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[インタビュー]「古里1号機は直ちに稼動停止しなければならない」

登録:2015-03-02 09:34 修正:2015-03-02 17:26
井野博満東京大学名誉教授
井野博満東京大学名誉教授 //ハンギョレ新聞社

1912年4月、英国サウサンプトンを出港して米国ニューヨークに向かった豪華客船タイタニック号が北大西洋海上で氷山と衝突し沈没し、乗客乗務員1513人が死んだ。だが、科学者は疑問を抱いた。 巨大客船はなぜそんなに簡単に沈んでしまったのか。日本の原子力発電所老朽化研究の第一人者である井野博満東京大学名誉教授(76、金属学)は「タイタニックの沈没原因には船腹の鋼板を連結させた金属釘が脆化したためという説がある」と話す。タイタニック号の鋼板を連結する釘が不良材料で作られ、ガラスのように壊れてしまう脆化破壊現象が発生したというのだ。鋼鉄は零下など低い温度で衝撃を受けると、それを吸収して曲がる代わりにガラスのように壊れる。不良材料を使うと、零下でない常温でも壊れることになる。これを「脆化現象」と呼ぶ。井野教授は「長期間に渡り中性子線を受けた原子力発電所の圧力容器でも、中性子照射による脆化が発生する。原子力発電所の圧力容器が壊れる大惨事が発生する可能性がある。(韓国の)古里原子力発電所1号機は稼動を直ちに止めなければならない」と警告した。

 圧力容器、中性子を長く照射すれば弱化
 安全温度が次第に高まり危険水位に
 日常的な稼動時は問題ないが
 非常時に冷却水注入すれば壊れる危険

 電気配線やコンクリート構造物も
 見かけは頑丈でも40年すぎれば内部は腐る
 事故が起きれば誰も制御できない事態へ
 古里と双子の米原発は2年前に停止

-老朽原発の「照射脆化」は一般の人にはほとんど知らされてこなかった概念だ。どんな現象なのか?

 「一般的に鋼鉄は温度が低くなれば脆化する。簡単に言うと曲がるのでなく壊れるという意味だ。それを示す例がタイタニック号の沈没。船は航行中に氷山に衝突した。普通なら材料が曲がらなければならないのに、不良材料を使ったタイタニック号はガラスのように壊れてしまった。後に調査してみると金属の脆性遷移溫度(鋼鉄が脆化する温度)が27℃だった事実が確認された。鋼鉄なのに27℃ 以下で衝撃を受ければ壊れるという意味だ。 鋼鉄の脆化は中性子を持続的に照射される結果でも発生する。鋼鉄が中性子を受ければ組織に欠陥が生じ脆性遷移溫度が上がる」(※遷移温度は変化が急激に起きる温度を意味する)

国道245号線で茨城県の東海発電所と第2発電所への別れ道。巨大な送電塔が目を引く。東海発電所は2001年12月から閉炉作業が進行中で、第2発電所は2012年7月に茨城県など地域住民が閉炉を要求する訴訟を起こしている。東海村/キル・ユンヒョン特派員 //ハンギョレ新聞社

-日本と韓国の老朽原発の照射遷移温度はどの程度か?

 「照射脆化により原子炉が壊れたら甚大な事故が発生するので、電力会社は原子炉中に試験便を入れて脆性遷移溫度の推移を観察している。玄海1号機の場合、1993年2月の調査では56℃だったが、次の調査の2009年4月では98℃に上がった。関西電力の高浜1号機は99℃だ。古里(コリ)1号機の場合、1999年に107.2℃と測定された。この数値を根拠に圧力容器内壁にどれほどの衝撃を与えているか示す加圧熱衝撃温度を算出することになる。韓国原子力研究院が提示した評価温度は126.6℃(基準値は149℃)だった。これは原子炉温度を126.6℃ 以上で維持しなければ危険になるという意だ。しかし、この数値は16年前の観測値を基礎にしたもの(その間も照射脆化がさらに進行し照射遷移温度がさらに上がっている)であり一般的に使われる評価方法が使われなかった。信頼できない数値だ」

-原子炉圧力容器は高温と高圧に耐えるようになっている。通常は原子炉内部の温度がこれ以下に落ちる可能性はないと思うが?

 「日常的にはそうだ。しかし配管などの問題で原子炉に異常が発生した場合、緊急炉心冷却(ECCS)をすることになる。その時、原子炉に冷たい水を突然供給して冷却すれば、原子炉の内側は突然収縮するが、外側は本来の状態を維持するため収縮を阻止することになる。この時、もし原子炉内に亀裂がある場合、圧力容器がこの力に耐えられず壊れてしまうことになる。原子力発電所に非常事態が発生し、突然冷却水が供給されて原子炉内部の温度が脆性遷移溫度も下げ、原子炉に亀裂があるという三つの条件が重なれば原子炉は壊れる可能性があるということだ。幸い今まではこうした事故が発生したことはない。しかし今後もそうである保障はない」

-原子炉内部の亀裂は検査されるのではないか?

 「100%完璧な検査はできない」

-照射脆化で原子炉が壊れたらどうなるのか?

 「1986年のソ連のチェルノブイリ原発事故は核暴走が起き原子炉圧力容器が爆発した。福島第1原発は原発を冷却させるすべての電力が消失して炉心溶融が起き、放射能物質が外部に流出した。照射脆化で圧力容器が壊れたらどうなるかはシミュレーションしなければ分からない。原子炉圧力容器が壊れて制御棒が挿入されなければ核暴走が起きてチェルノブイリ型事故が起き、制御棒は作動したが冷却装置が作動しなければ福島型事故が発生することになる」

-脆性遷移溫度を規制する基準はあるのか?

 「米原子力規制委員会(NRC)は当初は脆性遷移溫度を200゜F(93℃)を超えないことを要求した。しかし1980年代になると(原発の老朽化で)規制値を超えた原発が米国だけで20基を超えるのが判明し、それ以後は少しずつ基準を緩和した。日本では新規原発の場合、93℃を超えてはならないとする基準を提示している。しかし既存原発に対する規制はない。安全基準を新しい原発にだけ適用し既存の施設はそのまま使っている。このような二重の基準は実に理解し難い」

-古里原発稼動中止に関連した裁判に証人として出廷したが。

 「私が玄海原発の脆性遷移溫度が危険だという論文を発表したところ、韓国の読者が古里原発はさらに危険だという話を伝えてきた。それで韓国の情報を得て研究した。2012年9月(古里原発稼動中止仮処分訴訟の時)に韓国法廷で陳述をしたことがある」(※裁判は結局敗訴した)

古い原発を閉炉にするには30年の長い時間と天文学的な費用がかかる。2003年6月に日本初の商業原子炉である東海発電所の圧力タービンを撤去している様子。日本原子力発電提供 //ハンギョレ新聞社

-照射脆化のほか原子力発電所が老朽化すれば発生しうる問題は何か?

 「時間が過ぎれば金属材料、プラスチック配線、コンクリート構造物などが弱くなる。配管の中を流れる液体によって配管内部がすりへる現象も発生する。特に内部摩耗によって2004年8月に美浜原発3号機の2次冷却界配管が炸裂して冷却水が大量に排出された事故で4人が死亡した。さらに問題になるのが電気配線だ。見た目には完全だがプラスチックは20年ほどしか耐えられない」

-原子力発電所稼動延長を決める際に原子力発電所のすべての部分を検査するか?

 「全検査は不可能だ。電力会社は原子力発電所を稼動すれば利益になるので寿命を延ばそうとする。本当に安全なら問題がないが、審査をまともにできないと思う。原発は40年が過ぎれば色々な部分に問題が生ずる。だから寿命を定め、それを超えれば閉炉しなければならない。原発で大事故が起きれば誰も耐えることはできない」

-古里原発1号機をどうすべきと考えるか?

 「直ちに停止させなければならない。アメリカの電力会社はは2013年に古里1号機と双子の原発であるウィスコンシン州のキワニ原発の運転停止を決めた」

東京/文・写真キル・ユンヒョン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.03.01 21:46

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/680302.html 訳Y.B

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