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[コラム]非正規雇用救済のまやかし

登録:2014-12-26 09:20 修正:2014-12-26 12:42
労働界の要求を黙殺した政府…契約職の期間を二倍に増やし
非正規雇用の保護はおろか「正社員の問題から始まった」と扇動
政府は正社員を夢見るすべての“チャン・グレ”の希望をへし折った
「君はクビだ!」ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 18年前の今日の明け方、人々はクリスマスの甘い夢の中で寝入っていた。「長老(キリスト教の聖職)が大統領(当時の金泳三大統領)なのだから、まさかクリスマスに…」。労働者も野党もその日ばかりは足を伸ばして寝ていた。ところがその日の明け方5時50分、ソウル汝矣島(ヨイド)周辺の4つのホテルから出発した団体バスが国会議事堂に向かった。そこには新韓国党(現セヌリ党前身)所属の154人が乗っていた。彼らが韓国の労働者に整理解雇の鎖を嵌めるまで、それからわずか7分しかかからなかった。オ・セウン副議長が叩いた48回の木槌の音とともに、1987年6月の民主抗争と労働者大闘争を通じて勝ち取った労働者の権利は事実上無力化された。

 朴正煕(パク・チョンヒ)・全斗煥(チョン・ドゥファン)独裁政権では公権力が直接労働者を相手にした。だが、その日以来、権力は一歩引き下がっても大丈夫になった。資本はいわゆる“急で差し迫った経営上の必要”により大量解雇が可能になったので、公権力に全面的に寄り添う必要はなくなった。代替勤労制が導入されたので、労働者の唯一の抵抗手段である争議権を無力化させることができた。争議期間は賃金を出さないことにしたので団結力も萎縮するほかなかった。労組の交渉力は低下し、組織率はぐっと落ちた。

 それ以来、冬が近づくと労働者は不眠の夜をすごさねばならなくなった。10年が過ぎた2006年冬には非正規雇用を制度化する法が通過した。雪の降る真冬の寒さをともなう北風が吹くなか、労働者の手足を縛る雇用柔軟化政策が制度化された。この土地で仕事をする彼らが、真冬に煙突に、鉄塔に、クレーンに、今や電光掲示板の上にまで登らなければならなかったのはそのためだった。整理解雇や非正規化に対抗することができる唯一の道は命をかけることだけだった。

 2014年冬、朴槿恵(パク・クネ)政権はこの国のすべての労働者の非正規雇用化を推進している。契約職の雇用期間を2年から4年に倍増させる法案が代表的だ。非正規雇用を正社員に変換させる期間を減らすべきだとするのが労働界の要求なのに、その期間を二倍に増やしておきながら非正規雇用の保護対策だと命名する。これで正社員を使おうとする資本家がいるだろうか。4年もあれば低賃金で非正規雇用労働者から膏血(こうけつ)を十分に絞ることができるし、使用済みとなった労働者はその期間中にいつでも捨てれば良いのだから。

 非正規雇用労働者に対する失業給与恩恵期間を最小3~4か月増やす、慰み程度の離職手当や退職金などを与えるニンジンも用意されている。しかし常に希望してきた正社員あるいは雇用安定の夢を諦める代価としては話にならない。まさに籠絡である。

 そして、非正規雇用の問題が正社員から始まったと扇動し始めた。非正規雇用の時間当り賃金が正社員の64.5%に過ぎないという数字を並べ、非正規雇用の代弁者であるかのごとく振舞うこともする。さらに一歩踏み込み、正社員の過保護が企業意欲を阻害し、経済の発展を困難にさせていると罵倒する始末だ。結局、正社員と非正規雇用の間を引き裂いて葛藤を生じさせ、正社員を非正規雇用化するために非正規雇用を動員しようとしている。

 もちろん会社によっては正社員が非正規雇用の正社員化を阻み、彼らだけの優越的地位を維持するために社主と結託する場合もある。しかし、ケーブル放送業者のC&Mのように正社員が非正規雇用労組の結成を支援し、今も非正規雇用労働者の整理解雇に対抗して共に闘っている会社のほうが多い。非正規雇用の劣悪な条件は資本の要求に順応した保守政権の一貫した労働柔軟化政策が呼び起こした。正社員を過保護にしたため非正規雇用の問題が難しくなっているのではなく、非正規雇用拡大を通じて労働費用を減らし、労働者の交渉力を低下させて資本家の支配力を強化しようとしたためだ。

 政府はこうした対策を29日に事実上発表する。この土地で正社員を夢見た“チャン・グレ”(非正規雇用労働者を題材にしたドラマ主人公の名)を永久に非正規雇用に縛ってしまう法には「チャン・グレ法」、そしてチャン・グレたちの夢と希望をへし折ってしまう措置には「チャン・グレ保護対策」と命名した。

 バラク・オバマ大統領が落ち込んだ米国経済を回復させるのに成功した理由は、低賃金労働者の賃金交渉力を高め、家計所得と可処分所得を増やして家計負債を減らせるようにしたことが大きかった。高まった交渉力により大企業の金庫に積まれていた莫大な留保金を労働者へ多く配分できるようにした。不法滞在労働者の労働を合法化させたのもその一環だった。合法化後、彼らの賃金交渉力は非常に高まった。

 それに反し李明博(イ・ミョンバク)・朴槿恵政権は不動産バブルを膨らませ、家計所得の代わりに企業の所得を増やすことに専念した。その結果は家計借金の爆発的な増加であり、可処分所得の急落だった。2008年対比2014年の米国の家計負債増加率は-3.5%なのに対し、韓国の増加率は41.3%に達する。米国は国民総所得のうち家計の割合が77.5%で企業は16.3%だが、韓国の場合61.2%と23.3%だ。資本家はより豊かになり、一般家庭はより貧しくなった。家庭の借金は増え所得は増えていないのに、なぜ景気が持ち直すと言えるのだろうか。

 そのうえ現政府は常時的解雇の刃物を資本家に与えようとしている。それも法でなく行政指針で、会社が要求した実績と成果を満たせなければクビを切れるようにしている。正社員といっても非正規雇用と変わりない。一方の手に整理解雇、他方の手には一般解雇。資本家は労働者の運命を左右する主管者だ。

 金泳三(キム・ヨンサム)政権は労働法強行採決後に墜落の一途をたどった。資本は政府に寄り添って革新に背を向けたし、仕事をする人々は政府に対する信頼を捨てた。そして、わずか1年後にIMF救済金融事態がさく烈する。国家経済は沈没した。政権の墜落は彼らの選択なのだから仕方ないとしても、すべての借金と不幸は仕事をする彼らが耐えねばならなかった。再び悲劇が繰り返されるのだろうか。

クァク・ビョンチャン主筆(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014.12.25 20:02

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/670791.html?_fr=mt2 訳Y.B

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