「サムスン(三星)白血病の話があったので、率直に言って心配にはなります。 ケミカル(化学物質)を扱うのにからだに良いわけがないでしょう? 病気にかからなければ、そっちが変なくらいでしょう。 それでも、食べていかなければならないので…。 自分はまさかと思って通っています。」午後2時、会社からの帰途に会った30代半ばの女性は関心がなさそうな表情で話した。 京畿道(キョンギド)利川市(イチョンシ)夫鉢邑(プバルウプ)のSKハイニックス工場で14年間にわたり半導体オペレーターとして仕事していると言う。 工場を中心にマンション団地と商業地区が形成されたこちらは、3交代で勤務する工場職員が午前6時、午後2時、午後10時頃になれば群れをなして出退勤する風景を除いては、平凡な小都市の日常そのままだった。 だが‘半導体工場’で仕事をするということは、平凡なことではなさそうに見えた。 先月初め<ハンギョレ>が会ったハイニックスの労働者は、胸中に秘めていた不安を用心深く打ち明けた。 10年を超えてオペレーターとして働いている30代初めの女性の話だ。
「1年前ぐらいだったか、誰かが癌になって会社を辞めたと聞きました。 以前だったら個人的な病気と考えて聞き流したでしょうが、サムスン白血病論議があったので労災かも知れないと多くの人が思っています。 でも黙っていますよ。 うっかりそのような話をして目をつけられたら困りますからね。」
最近まで生産ラインで勤務していたある男性労働者は「1990年代中盤に入社して10年余り勤務したが、マスクのようなものは一度も使ったことがない」として「自動化設備もしばしば誤作動するので、それに数時間かけて人間が対処しなければならない。 その過程で有害物質に露出するのは茶飯事だった」と話した。 また別のハイニックス労働者は「今は新しい設備投資をしているが、既存の設備はほとんどが日本で使っていた中古品を輸入したものだ。 それだけ工程が危険にならざるをえない」と話した。
ハイニックスはサムスン電子とともに韓国内の二大半導体メーカーだ。2007年にファン・ユミ(当時23才)さんが白血病で亡くなって世論の関心を集めたサムスンとは違い、ハイニックスでは白血病などの半導体労災問題がまともに公論化されたことがない。 代表的な半導体の職業病として研究されている白血病などリンパ造血器系疾患(用語説明参照)の実態すらきちんとわかっていない。 ハイニックス労働者の不安はただの取越苦労なのだろうか? 取材の結果、現実はそうではなかった。
発病が減るどころか増えている…
女性の悪性リンパ腫比率が高く
2010年までに13人が死亡…28人が発病
サムスンの公論化以後にも注目されず
一方ハイニックスは「リンパ造血器系死亡率は一般人と同等水準」
悪化を防ぐためには精密調査・対処が至急必要
<ハンギョレ>が政府の調査資料と自主取材等を通じて把握したハイニックス出身者の白血病などリンパ造血器系疾患死亡者は27日現在で少なくとも17人に達する。 国内の半導体業界で発生した最も最近の白血病死亡者として把握されているソン・某(40・装備整備業務・2013年1月死亡)氏もサムスン電子ではなくハイニックスの経歴22年の在職者だった。
‘半導体労働者の健康と人権を守る、パンオルリム’には、昨年5月に37才の女性オペレーターが悪性リンパ種で亡くなったという情報提供が入ってきたが、彼女もまたハイニックス出身者だった。 現在は退社して一人で闘病中の労働者も確認されている。
また、政府の公式調査資料を通じてサムスン電子(半導体部門)と比較した結果、ハイニックスはリンパ造血器系疾患死亡者の規模および比率でサムスンに 'ヒケ' を取っていなかった。 1995年から2010年までにハイニックスで仕事をしたことのある労働者の内、すくなくとも13人(白血病5人、非ホジキンリンパ腫5人など)がリンパ造血器系疾患で亡くなっており、同じ期間にサムスン電子の半導体部門では少なくとも11人が同じ疾患(白血病7人、非ホジキンリンパ腫3人など)で亡くなったことが確認された。 この期間にリンパ造血器系癌の確定診断を受けて癌センターに登録された人は、ハイニックスもサムスンも各28人ずつで同数だった。 これら登録された人と死亡者とはほとんど重なっていないので、去る15年間に二つの会社で80人内外がリンパ造血器系疾患で倒れたことになる。
これは雇用労働部傘下の産業安全保健研究院が1995~2007年、2008~2010年の二つの期間を対象に該当事業場の前・現職労働者の死亡・疾患内訳を調査した研究を総合分析した結果だ。 死亡比率を調べれば、1995~2007年のサムスンの10万人当たり死亡率は15.3人、ハイニックスは18.2人になる。 2008~2010年には10万人当たりの死亡率がハイニックス6.5人、サムスン5.2人だ。
ハイニックスで仕事をして2008年11月に非ホジキンリンパ種で亡くなったチョン・チョルモ(当時42才・経験13年)氏もサムスンとの死亡格差を広げた一人だ。 遺族たちは、エンジニアであったチョン氏が生産ラインと研究所で各種実験・研究中に多くの有害物質に露出したことを死因として挙げたが、勤労福祉公団は労災を認めなかった。 遺族たちは数年前のサムソン半導体労働者のように長く孤独な訴訟を進行中だ。
ハイニックスとマグナチップ(ハイニックスの非メモリー事業部が分離した企業)で仕事をして、2011年5月に慢性骨髄単核構成白血病で亡くなったキム・ジンギ(当時38才・経験14年)氏は、昨年3月勤労福祉公団が労災を認めた最初の半導体白血病患者であった。 だが、遺族たちは会社の責任をさらに明確にするため会社を相手に損害賠償請求訴訟を準備中だ。
<ハンギョレ>と会ったこれらの遺族は一様に労災申請と訴訟の過程で会社側の徹底した無関心に傷ついたと語った。 サムスンを通じて半導体労災論議に火が点いてから7年が過ぎているにもかかわらず、ハイニックス労使は相変らず‘隠蔽’に注力している。 発病・死亡者の現況把握さえ行っていない。 ハイニックスは去る13日<ハンギョレ>に「健康保険診療内訳は個人情報なので、退職者はもちろん在職者の疾患発生現況も把握するのは難しい」として「2007年までの産業安全保健研究院調査資料しか持っていない」と話した。 この会社のパク・某労組委員長は先月9日<ハンギョレ>に「現在までに労組が把握した白血病死亡者は1人もいない。 この懸案では会社と労組の立場は同じだ」と話した。 隠している間に死亡者・患者が相次ぎ、家族数人が病気と死に耐えた末に被害者と市民社会団体が数年間にわたり問題を提起したあげく、ようやく対話に出て来たサムスンの初期対応と同様だったわけだ。
さらに注目すべき問題は、ハイニックスもサムスンも共にリンパ造血器系疾患の死亡・発病が減っていないという点だ。 1995~2007年の調査で両社のリンパ造血器系疾患死亡者は計18人で年平均1.38人なのに、2008~2010年の調査では両社で6人で年平均2人の割合だ。 リンパ造血器系癌の発病件数も1995~2007年には年平均3.38人(合計44人)だったが、2008~2010年には4人の割合(計12人)に増えた。
特に女性労働者の非ホジキンリンパ腫の発病が急激な増加傾向を示している。 1995~2007年に両社で発生した非ホジキンリンパ腫女性患者は少なくとも8人だった。 当時、産業安全保健研究院は発病率が一般人の集団より2.7倍高いと分析した経緯がある。 ところが2008~2010年の3年間の発病者は以前の13年間の発病者の半分(4人)に達する。 これは国内全体の女性の中で非ホジキンリンパ腫による死亡者が2008年の346人から2010年には199人へと大幅に減少してきた傾向と対照的だ。(発病者資料は存在しない) 延世(ヨンセ)大保健大学院キム・イン教授(産業保健専門医)は「2008~2010年の間に一般人の非ホジキンリンパ腫死亡者は減っているが、半導体業種で発病者が増加しているならば極めて異例なこと」と話した。
専門家たちは半導体労災問題を根本的に解決するためには、サムスンが現在進行中の謝罪・賠償・再発防止交渉で成果を上げるだけでなく、ハイニックスに対しても厳密な調査と対処が必要だと指摘する。
イム・サンヒョク労働環境健康研究所所長(産業医学専門医)は「サムスンはサムスンだから注目を浴びた。 今後はSKハイニックスも大企業としての社会的責任、人権経営の側面からも半導体工程の健康性評価のためのシステム的アプローチが必要だ」と話した。 キム・ミョンヒ市民健康増進研究所常任研究員(予防医学専門医)は「<ハンギョレ>の取材結果は、大企業間の比較というより、有害化学物質を大量に使う半導体労働者の健康権のためにいかなる企業も隠してはならないという必要性を示している。 韓国が世界の半導体産業を先導しているから」と話した。
ハイニックス側は「リンパ造血器系疾患死亡者比率は一般人と同等水準だ。サムスンもまた(作業環境と)白血病との因果関係を認めている状況ではない」として「大学に研究を委託するなど、安全・保健管理を強化しつつある」と話した。
イム・インテク、オ・スンフン記者 imit@hani.co.kr
SKハイニックスとは
SKハイニックスは1983年に創立された現代電子が母胎だ。 1999年LG半導体に吸収・合併された後、2001年3月ハイニックスと社名を変えた。 2012年3月にSKテレコムが買収し、現在の‘SKハイニックス’になった。 2012年の世界半導体業界市場占有率で7位(1位インテル、2位サムスン電子)を占めたSKハイニックスは2013年には売上額で14兆1650億ウォンを達成し、世界5位に二段階上がった。 今年前半期には史上最高の実績を上げた。 売上高7兆6660億ウォン 営業利益2兆1410億ウォンで、昨年同期比で売上は14%、営業利益は50%増えた。 半期基準で営業利益2兆ウォンを突破したのは初めてだ。 京畿利川と忠北(チュンブク)清州(チョンジュ)に工場がある。
リンパ造血器系疾患とは
代表的な‘半導体職業病’と呼ばれるリンパ造血器系疾患は、血を作る骨の中の組織である造血母細胞が正常な分化ができずに生じる疾病群で、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類(ICD)によれば、リンパ造血器系癌とその他のリンパ造血器系疾患に分かれる。 リンパ造血器系癌には白血病、ホジキン・非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫などが含まれ、その他に再生不良性貧血、骨髄形成異常症候群などはその他のリンパ造血器系疾患と呼ばれる。
白血病と共に半導体労働者に発病頻度が高い非ホジキンリンパ腫は、腫瘍が全身に現れことがあり、どこに進行するかが予測し難いという点で代表的な悪性リンパ腫と呼ばれる。 からだの限定されたリンパ節(リンパ腺)を侵し腫瘍が広がる方向を予測できるホジキンリンパ腫に比べ治療が難しい病気だ。
情報提供を待っています
ハイニックスをはじめとする半導体企業の在職者や退職者の中で、白血病、悪性リンパ腫などリンパ造血器系疾患や各種癌で闘病中または死亡された方々に関する情報提供を受け付けています。 電子メール: tamsa@hani.co.kr 電話:+82(2)710-0649