‘この人’は誰か.
彼女は最近 "noblesse oblige(指導層が持つ道徳的義務)のアイコン" に浮上してネチズンたちの "称賛リレー" と "洪水賛辞" を受けている。 あやかりたい最高経営者(CEO) 1位に "名不虚伝(名声は訳もなく伝わるものではない)" であり "国民CEO" までが登板する勢いだ。 "格が違う" 善行からは "女帝の威厳" が噴出している。 容貌は "女性らしく優雅" だ。 "ウェーブのかかったヘアースタイルとフェミニンとラグジュアリーなムードのデザインと色感を強調する衣装" を好んで着る。 彼女は "本当に財閥家ルック" を完ぺきに演出する。 "大逆玉結婚ストーリー" の主人公でもある。 20年余り前、奉仕活動中に出会って両親の反対を押し切って結婚した平社員の夫は "男シンデレラ" として広く知られる。 ‘この人’は数日の間に "顔ぐらい美しい心" を持つ "大人輩" 企業家の象徴になった。 3日間(3月19~21日)のマスコミ報道が生産した表現と創造したイメージだ。
一ヵ月前の2月25日‘ある事故’があった。‘この人’イ・ブジン(イ・ゴンヒ 三星(サムスン)電子会長の長女)社長が経営するホテル新羅の回転ドアにタクシーがぶつかり破損した。 ホテル職員と宿泊客も負傷した。 80代のタクシー運転手は急発進のためと主張し、周辺の証言もあった。 警察はタクシー運転手の運転不注意と結論を下した。 運転手が弁償しなければならないお金は4億ウォン(約3800万円)を越えた。 タクシー運転手は脳梗塞を患う妻を介抱しながら一つしかない部屋で暮らしていた。 イ社長はホテル幹部を向かわせ、"賠償を要求しない" という意を伝えた。 運転手は 「私の方から訪ねて行って謝っても足りないのに、とてもありがたい」として感激した。
事件発生から1ヶ月程が過ぎた3月19日<朝鮮日報>が‘度量の大きな配慮’というタイトルをつけて最初の報道を出した。 以後、放送と新聞、スポーツ・芸能および各種オンラインメディアが記事(3月21日午後6時現在で430件余り)を吐き出した。 <朝鮮ドットコム>だけでも28件の類似記事を量産した。 ‘ニュース アビュージング’(ポータルサイトへの露出を通じた‘照会数商売’を目的に大同小異の記事を重複伝送)は、イ社長の名前をポータル検索語1位に引き上げた。 記事は彼女のラブストーリー→ファッション感覚→隠された善行へと視野を広げ、Hっ父親イ・ゴンヒ会長の "名言" まで捜し出して紹介した。 "惜しみなく施せ" という言葉と "心が貧しければ貧困から脱せない" という言葉などが言及された。 あるメディアは "今回のイ・ブジン社長の善行も普段のイ会長の娘に対する愛情と格別な教育の結果" と評した。 あるローカル新聞は "天使のような善行だ。 すべての財閥と財閥2世、3世がホテル新羅のイ・ブジン代表のようになってほしい" という社説を書いた。
タクシー運転手に責任を問わなかったイ社長の選択は評価されるに値する。 放棄した4億ウォン以上の広報効果を得たので結果的にも賢明だった。 しかし、イ社長が‘美しい経営者’として登板する過程で、言論はもう一度恥ずかしい素顔をあらわした。
‘noblesse oblige(指導層が持つ道徳的義務)のアイコン’イ・ブジンと‘リトル イ・ゴンヒ’と呼ばれて、三星エバーランド(経営戦略担当社長)の労働者を弾圧(1月23日ソウル行政裁判所は労組設立を主導した職員をエバーランドが解雇したことは不当労働行為と判決)してきたイ・ブジンは同じ人物だ。 老いたタクシー運転手に牛肉とケーキをプレゼントとして贈ったイ・ブジンと、‘路地のパン屋つぶし’という世論に押されて事業を撤収するまで高級ベーカリーチェーン(artisee)の拡張競争に没頭していたイ・ブジンは同一人物だ。 "惜しみなく施せ" と娘を教えたイ・ゴンヒ会長と、三星白血病患者の苦痛に知らぬフリをするイ会長も同一人物だ。 ‘三星共和国’と呼ばれる韓国社会の生存様式に飼い慣らされた報道機関と、ポータル用ゴシップ記事を量産して延命を図る報道機関と、言わなければならないことを言う代わりに言わなくとも良いことを‘とても’多く言う言論、その間のどこかの地点でこの時代の神話は‘製造’されている。
イ・ムニョン記者 moon0@hani.co.kr