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「ブレーキ部品整備を反復業務だとして外注…とんでもない話だ」

登録:2014-05-08 17:03 修正:2014-09-03 15:00
【私たちの周りの“セウォル号” ①鉄道・地下鉄】ルポ】“安全逆走”する地下鉄

先月28日、ソウル城東区龍踏洞(ソンドング・ヨンタプトン)のソウルメトロ君子(クンジャ)車両基地で会った青い作業着の労働者たちは一様に「このまま行ったら事故が起きそうだ」と口をそろえた。ソウル地下鉄2号線の追突事故が起こる4日前だった。ここは地下鉄1~4号線を運営するソウルメトロの車両整備基地5ヶ所のうち最も規模が大きい所だ。 労働者たちは整備業務の外注化と人員削減に対し憂慮していた。

 整備外注会社の非正規労働者であるキム某(35)氏は「社側は、簡単な反復業務だから外注化したというが、乗客の安全と直結するブレーキや客車のドア開閉機能と関連するコンプレッサー(圧縮機)のモーターを整備する事が、どうして簡単な反復業務と言えるのか理解できない。 雇用不安と差別に悩まされる状況で、市民の安全に責任を負っているという自負心を持つことは難しい」と述べた。 彼は「正規職と非正規職が1つのラインで勤務しているが、作業不当介入防止を理由に、お互いの作業について助言を求めたり意見を交わすこともできない」と言い、「すぐ隣で働いているのに、お互い言いたいことがあれば自分の報告ラインを通して伝えて上層部を経てから再び内容を伝達される方式なので有機的な協業ができないことも問題だ」と付け加えた。

 今回の2号線追突事故でも明らかになったように、電動車の老朽化も深刻な状況だ。 16年以上の車両が半分以上だ。 それなら一層、熟練した整備人材の拡充が必要なのだが、ソウルメトロは正反対の道を歩んできた。

16年以上の電動車が半分以上
老朽化するほど整備が重要なのに
人員大幅削減し外注で代替
「点検回数が減り、安全はおろそかに」

5~8号線は全車両を機関士1人で運行
「トンネル通るとき飛び降りたい衝動」

 ソウルメトロは2008年に初めて外注化を断行し、201人の整備人員を減らしたのに次ぎ、2012年には5つの車両基地の軽整備部門も民間に委託して122人を追加削減した。代わりに外注会社の人員140人で、これを代替している。整備人員が減り、点検マニュアルも緩められた。 2か月に一回受けるよう規定された検査は3か月に一回に、2年周期の点検は3年周期に、4年周期の点検は6年周期にと、大幅に緩和された。 ソウル地下鉄労組車両部門のナム・サム事務局長は「点検回数が減ればそれだけ安全点検がおろそかにならざるを得ない」と述べた。

 その上に、ソウルメトロは退職を控えた正規職職員を外注会社へ“押し出し”までしている。 いわゆる“転籍者”と呼ばれるこの人たちは、大部分が整備ではなく駅務や事務職の出身だ。 外注会社の労働者であるキム氏は、「駅務や事務を担当して来た人たちは、ゼロから整備業務を教えなければならない。その人たちにまで気を配っていれば、時間が足りなくて丁寧に整備する余力がない」と述べた。

 機関士など乗務員の人員削減も、事故の危険を高めている。 この2日にソウル地下鉄2号線の上往十里(サンワンシムニ)駅で発生した電車の追突事故では“列車自動停止装置”(ATS)が問題になった。この装置はソウルメトロが“2人乗務”を“1人乗務”に替えるために2006年から導入した新型自動運転装置(ATO)と併用されるようになってから、システムの誤作動を起こすという指摘が多かった。

 ソウル都市鉄道が運営する地下鉄5~8号線は、すでに全ての車両が1人乗務で運行されている。 闇の中を一人で一日4時間以上電車を運行しながら、案内放送とドアの開閉までしなければならない地下鉄の機関士たちは、極度のストレスを訴えている。 「汽車が暗いトンネルに入る時には、急に飛び降りたい衝動を感じる。 一日に数百回以上も出入りするトンネルだが、孤独で怖い。 そういう時はスマートフォンの背景画面に保存しておいた青い空を見ながら、何とか耐えている。」ソウル都市鉄道で機関士として働いて15年目のキム某(44)さんは訴える。

 実際、カトリック大学聖母(ソンモ)病院のイ・ガンスク教授チームが2007年9月に発表した「都市鉄道公社機関士の精神保健に関する臨時健康診断最終報告書」によれば、都市鉄道の機関士はトラウマ有病率が一般人の8倍、パニック障害はなんと15倍に上る。 2000年以降最近まで7人の機関士がうつ病やトラウマで自ら命を絶った。

 乗客の安全に1次的に責任を負う機関士の勤務環境やストレス問題は、結局、事故の危険につながる。2007年の鉄道安全法に関する国会公聴会の討論資料を見れば、1人乗務の場合の事故率(45.8%)が、2人乗務の場合(26.0%)に比して2倍近く高いことが分かる。

 “1人勤務”は地下鉄の駅で乗客の安全に責任を負う駅員にも適用される。ソウル地下鉄5~8号線の159駅のうち32駅では、1か月に少ない時で5日、多い時は15日以上、駅員一人で夜間勤務をする。 これらの駅では、昼夜3交替の班のうち、3人でなく2人で勤務する班が駅によって1班~3班あるため(訳注:本記事の表によれば、32駅のうち3班とも2人勤務の駅が21駅で一番多く、2班が2人勤務の駅は6駅、1班だけが2人勤務の駅は5駅である)勤務者の1人が個人的事情で有休や病休をしたり社内教育を受けに行ったりした場合には、残った一人だけで勤務することになる。 昼間は駅長と事務員がいて最小限の危機対応人員が確保されているというが、午後6時15分から翌朝9時までは非常状況に無防備なわけだ。

 しばしば1人駅務をする駅員イ某(46)氏は「今年で15年目だが、1人勤務の時はトイレに行くことさえためらわれるほど緊張し、ストレスが激しい。 自分がいない時に何か起こったらどうしよう、と常に思う」と述べた。 都市鉄道労組のファン・ウジン光化門(クァンファムン)支部長は「1人で乗客の相手もし、道案内もして、酔客の応対までしなければならない。 一日に4~5回の割で発生する遺失物を探すには少なくとも20分はかかるが、その間駅には誰もいなくなる。 非常事態に備えて乗客の安全まで気を使うには、体が二つあっても足りない状態だ」と述べた。

 先月29日の晩、1人勤務をする駅員をそばで見守った。 退勤時間、インフォメーションセンターにいる彼のところに、確実に3分に1度の割合で“お客”がやってきた。道を訊く人が一番多かった。 地下鉄の路線図をくれという人、改札口を開けてほしいという人、障害者と高齢者が入れ替わり立ち代りやってきた。食事に行く時間も、トイレに行く時間もままならなかった。そうすること30分、とうとう遺失物の連絡が入った。青くなった駅員は遺失物が載っている電車を迎えに急いでプラットフォームに下りて行った。夕食も取れない状況だった。

 ソウルメトロは1人勤務ではないが、8つの駅(道林川(トリムチョン)・龍頭(ヨンドゥ)・新踏(シンダプ)・南泰嶺(ナムテリョン)・紙杻(チチュク)・龍踏(ヨンダプ)・銅雀(トンジャク)・新設洞(シンソルトン))を外注会社に“委託”して運営している。計85人の委託人員のうち、56人は退職を控えて外注会社に籍を移したソウルメトロ出身の駅員で、新規採用された駅員は29人だ。 ソウルメトロが直接運営する駅は3人組の3つの班が昼夜交替勤務をしながら平均2~3人で勤務しているのに対し、委託運営の駅では2人組の2つの班が交替で平均2人勤務している。 先月29日、実際に委託運営されている銅雀(トンジャク)駅に行ってみると、60代のソウルメトロ出身の駅員2人が夜間勤務をしていた。4号線と9号線が乗り入れていて一日に10万人が利用するという銅雀駅の安全を2人で担当するのは無理に見えた。

 ソウル地下鉄労組のオ・ユンシク駅務支部長は「ソウルメトロが運営する駅の場合は、昼間は駅長と女性事務員を含め4人が災難訓練を定期的に実施しているが、委託運営駅では駅員が2人だから災難訓練を行うのは現実的に難しいと考える」として「私企業だという理由で公益勤務要員の派遣もなされないこの駅で、実際に事故が起きた時うまく対処できるか疑問だ」と述べた。

 地下鉄で火災が起きた時に煙が広がるのを防ぐために設置された制煙設備も、まともに管理されていない。ソウル市が昨年7月に発表したソウルメトロ総合監査結果を見ると、1号線の東大門(トンデムン)駅と3号線の延新内(ヨンシンネ)駅など30の駅舎の制煙設備が、6ヵ月以上故障のまま放置されていたことが明らかになった。ソウル市監査官室関係者は「4月30日現在、これら30の駅舎のうち3ヵ所の制煙設備は依然として修理されていない。東大門・乙支路4街(ウルチロサガ)駅は修理完了を控えており、忠武路(チュンムロ)駅は制煙設備システム補完のために、来年くらいには修理を終えられるものとみられる」と述べた。

 2003年の大邱(テグ)地下鉄惨事の教訓はもう忘れられたようだ。費用節減のための無理な人員削減と制煙設備等の安全施設投資不足など、当時指摘された問題点をそっくり抱えたまま、地下鉄は走っている。都市鉄道労組のクォン・オフン駅務本部長の言葉がその理由を説明している。「数年前、地下鉄の安全確保のために、駅当たりの最小限の安全人員配置を要求したら、経営陣が“大邱地下鉄惨事は悲劇的だが、100年に一度あるかどうかの事故だ。そんな事故に備えて毎年数十億ウォンを使うのは予算の無駄だ”と言っていた。赤字改善と效率性を伝家の宝刀のように振り回し、安全のための人員と設備を“浪費”と見るシステムから変えなければならない。」

オ・スンフン、パク・キヨン記者 vino@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/635877.html 韓国語原文入力:2014/05/07 10:43
訳A.K(4163字)

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