「自分が今でも反対している基礎年金案に関してどうして国民を説得することができようか。 これは良心の問題だ。」
チン・ヨン保健福祉部長官が29日、辞退を撤回する意向はないとして明らかにしたこのような発言は、この間基礎年金制を巡る大統領府とチン長官間の葛藤がかなり大きかったという事実を示している。 これと共に、主務部署の長官が政府が施行しようとしている基礎年金制をより強力に批判したことなので、朴槿恵(パク・クネ)大統領のリーダーシップに深刻な打撃を与えることはもちろん、基礎年金案の国会処理などにも相当な政治的後暴風を呼び起こすものと展望される。
チン長官の辞退強行により最も大きな打撃を受けた人は朴大統領だ。 何回も引き止めたにもかかわらず、大統領選挙時から今まで歩みを共にしてきた最側近政治家が‘反旗’を翻しただけに、朴大統領としては骨身にしみざるをえない。 大統領府が‘邪魔者’と感じたチェ・ドンウク検察総長の辞退や、大統領府との人事葛藤説が出回ったヤン・ゴン監査院長の辞退とは性格が違う。 チン長官は大統領選挙と大統領職業務引継ぎ委員会を経て新政府の核心政策を立案した当事者という点で、彼の‘抗命性辞退’は朴大統領の今後の国政運営に深刻な後遺症を産まざるを得ない。
早くも朴大統領の内閣統轄能力などリーダーシップに対して疑問が提起されている。 チン長官の辞表を受理する場合、大統領としても局面転換のために改閣に準ずる人事を行う他はないという観測が出てくるのもこのような理由のためだ。 だが、朴大統領の弱点として指摘されてきた人材プールの限界と、検証力量の脆弱性が表面化すれば、チン長官の辞退にともなう波紋は全く別の所に広がることもありうる。
チン長官が‘良心’とまで言って朴大統領の意向に逆らったのは、‘辞めたい’という意を大統領府とやりとりする過程でチン長官が相当な心の傷を負ったためだと言われている。
チン長官は当初サウジアラビア出張中に火が付いた‘辞退説’を否認せずに、大統領府の辞意受け入れを期待したものとみられる。 しかし大統領府内部から‘無責任だ’という糾弾が出てきたのに続き、朴大統領の核心側近に激しい叱責を受けたという話も聞こえている。 チン長官が帰国前日にサウジ現地で「基礎年金の後退に責任を感じ辞退するという言葉は誤って伝わった。 ただ無力感を感じた」として一歩引き下がった時にも、チン長官は静かに退こうと考えていたようだ。 自身の辞退理由が‘基礎年金’のためと言えば、該当公約の深刻な後退を政府自ら認める格好になるという大統領府の論理を受け入れたわけだ。
だが帰国後、大統領府はチョン・ホンウォン総理を通じて「なかったことにする」として辞退説を一蹴し、27日に公開的に明らかにした辞意に対しても朴大統領は再びチョン総理を通じて "辞表差し戻し" を公式化した。 朴大統領が自身の意を受け入れないので、チン長官は自身が退く本当の理由を明らかにせざるをえないと決心したようだ。 大統領府と与党が‘国政監査と予算案処理などわずらわしさを避けて逃げる無責任な行動’と自身を批判したと伝えられるや虚しい感情がより増した可能性も大きい。
チン長官はこの日も‘責任を全うしなければならないという指摘がある’という記者たちの質問に「朴大統領に(基礎年金制に対する)意見を十分に陳述した。 (だが)私が反対する案に対して自分を捧げて説明することは相応しくないので、当然に退くことが大統領に対する道理」と強調した。 自身が同意しない案を推進して説明まではできないとし‘良心の問題’を繰り返し強調したわけだ。
ソク・ジンファン記者 soulfat@hani.co.kr