内乱、キム・ゴンヒ、海兵隊員C上等兵のいわゆる「3大特検法」修正案をめぐる与野党合意問題は、難しく、かつ本質的な一つの問いを私たちに投げかけている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領が親衛クーデターを試みたことで始まった「内乱政局」はいつ終わるのか、いかなる条件がそろえば韓国社会は内乱の泥沼から脱したと言えるのか、という問いだ。
特検の活動期間で少し譲歩してでも、政府組織法改正案を処理して早期に政府を効率的に稼動させるべきだという与党「共に民主党」のキム・ビョンギ院内代表の試みは、激しい批判にさらされ、半日で座礁した。与野党合意案について民主党のチョン・チョンネ代表は事前に知っていたのか、龍山(ヨンサン)の大統領室とも十分なコンセンサスを形成していたのかについては、様々な観測があるが、いずれにせよ翌日の李在明(イ・ジェミョン)大統領の就任100日記者会見の発言で整理された。
李大統領はこのように述べた。「政府組織法を見直して政府組織を改編することと、内乱の真実を究明して厳正に責任を問う、大韓民国において内乱という親衛軍事クーデターが起こることが二度とないようにすることの当為とが、どうして交換できるのか、というのが私の考えだ。政府組織の改編をやらなかったら仕事ができないわけではない。だが、内乱の真実を究明して徹底的に真相を究明し、相応の責任を問うて二度と構想もできないようにすることは、民主共和国の本質的な価値ではないのか。それがどうして交換できるのか」
「12・3戒厳は共和政を転覆しようとしたものであり、民主共和国の本質的価値を守ることは妥協の対象ではない」という李大統領の発言は、全面的に正しい。この発言で与党内部の混乱は収拾されたが、現実政治においては今後も似たような問題や苦悩が再び表沙汰になる可能性が高い。例えば、12・3戒厳は内乱ではないと主張する野党「国民の力」とどのように関係を設定していくかという問題がそうだ。国政運営の責任を負う大統領としては、一日も早く内乱政局を克服し、国の力量を経済危機の克服と対外問題に注ぎ込むことが切実に求められているが、現実はそれほど明るくない。
政治的にみれば、内乱行為が完全に止まり、政府が正常に回復して運営される状態こそ「内乱の終息」だと言える。6月の大統領選挙で李在明政権が発足して政府運営は正常化したが、まだ内乱行為が完全に止まったとはみなし難い。国民の力は、12・3戒厳は内乱ではないという立場だ。「不正選挙」を叫ぶ極右集団は、一部の教会を拠点としてむしろ勢力を拡大している。少なくとも野党第一党は、12・3軍事行動が民主共和政に対する挑戦であることを受け入れたうえで、尹前大統領との関係を断つ態度を取ることが重要だ。しかし「ハン・ドンフンよりチョン・ハンギルを公認する」と述べたチャン・ドンヒョク議員を代表に選出し、党指導部が「アスファルト極右」を率いている教会の行事に参加して連帯を誇示しているのをみると、その可能性は薄いようにみえる。
極右の産室へと変質した教会を支持するという国民の力の選択は、米国を意識している面もあるようにみえる。ある意味で李在明政権の最大のリスクは、米国のトランプ大統領の誤った確信と、それを交渉に利用しようという態度ではないかと思う。韓米首脳会談の直前のトランプによる「韓国で粛清や革命が起きているようだ」というSNSへの投稿は、端的な例だ。会談の成功は幸いだが、誤った情報をトランプに入力する極右またはキリスト教福音主義勢力がホワイトハウスを取り巻いているという米国の現実は、韓国政府に終始重い負担として作用するであろうことは明らかだ。そのような情報の源は、国内の極右勢力である可能性が高い。野党第一党が極右勢力と明確に一線を引いていないのに「内乱は終息した」と言えるのかという気がするのは、そのためだ。
最近聞いたキム・ゴンヒ氏に関する話をしよう。尹錫悦、キム・ゴンヒ夫婦と一緒に食事するほど親交のあったある人物に昨年、キム・ゴンヒ氏から電話がかかってきた。「椅子(役職)が一つ空いたんだけど、ちょっとやってくれないか」という提案だった。次の言葉が傑作だった。「その職の法人カードはこれくらいの金額まで使える。記者をたくさんご存じだろうから、そのお金で記者たちにおごったりしながら…」。大統領夫人が自ら役職を提案したのも意外だが、法人カードの金額をまず口にして記者の管理をしてほしいと言われ、この人物は驚いてやんわりと断ったという。
金の亀の像やブランド物のネックレスを受け取って公職を渡すという、朝鮮末期に見られたような官職売買をおこなっていたという疑惑は、すべて事実である可能性があるという考えを抱かせる。(朴槿恵元大統領の頃の)チェ・スンシル事件に劣らない国政壟断だ。尹錫悦政権はクーデターと国政壟断に同時に手を染めていたわけだ。だが、もう内乱やキム・ゴンヒの捜査はいついつまでに終わらせようと言い出すのは、性急にも程がある。政治の復元は必要だが、その前提が巨大政党の極右化を容認することであってはならない。
パク・チャンス|大記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )