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[コラム]尹錫悦外交、北朝鮮核問題への対応も「119対29」で進めるのか

登録:2023-12-18 06:29 修正:2023-12-18 08:48
尹錫悦大統領が11月29日、ソウル龍山の大統領室で2030年国際博覧会(万博)誘致の失敗について謝罪する国民向け談話文を確認している/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、16回目の外遊となるオランダ国賓訪問を終えた。大統領室が積極的に広報してきた「外交大統領」や「営業社員第1号」の仮面はすべてはがされた。国際博覧会(万博)誘致の投票でサウジアラビアに119対29で惨敗し、過度な外遊に対する世論の懸念のもと、「半導体同盟」を成果として打ち出しオランダを国賓訪問したが、過剰な儀式のためオランダが韓国大使を呼び出すまでに至ったことが明らかになった。

 尹錫悦政権の総体的な外交乱脈の様相がここで止まるのであれば、まだ幸いだろう。2024年には、真の外交・安全保障の試練に直面することになる。大統領室は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が差し迫っていることを明らかにした。新年初めから朝鮮半島の緊張が急速に高まる可能性が高い。韓国政府は先月、9・19南北軍事合意の第1条3項(軍事境界線上空の飛行禁止区域)の効力を停止した。北朝鮮が軍事偵察衛星「万里鏡1号」を発射したことへの対応だというが、これまで9・19合意を文在寅(ムン・ジェイン)政権の「北朝鮮の善意への期待はいつわりの平和」の代表的な措置として非難してきた尹錫悦政権の念願の事業であり、保守有権者を狙った国内政治用カードだ。北朝鮮もただちに9・19合意の全面中止を宣言した。風が北に向かって吹く春には、北朝鮮に対するビラ散布などをめぐって南北間の軍事的衝突が広がる危険が極度に高まった。

 尹錫悦政権は、「強力な韓米同盟」を根拠に、「力による平和」を示すとして南北衝突も辞さない態度だ。シン・ウォンシク国防長官は全軍の主要指揮官会議で、「北朝鮮が平和を害する妄動をするのであれば、彼らを待つのは破滅の地獄だけ」だと述べた。15日にワシントンで開かれた韓米核協議グループ(NCG)第2回会合で、韓米は北朝鮮の核とミサイルの脅威に対応し、来年8月の韓米「乙支自由の盾(UFS)」合同演習の際、最初に核作戦演習を行うことにした。北朝鮮の核攻撃に対抗して米国が核報復を加えるシナリオを、韓米が初めて合同で演習するという意味を持つ。尹錫悦政権は、米国の力を借りれば、非武装地帯で衝突が広がっても、北朝鮮はあえて戦争を拡大させることはできないと断定しており、北朝鮮の核・ミサイル危機も米国の拡大抑止(核の傘)の強化で対応できると自信を持っている。

 しかし、米国の力を借りることだけで現在の韓国が直面する厳しい状況を解決可能だと判断するのであれば、きわめて深刻な誤った判断だ。まず、来年11月の米国大統領選では、ドナルド・トランプ前大統領が当選する可能性がかなり高い。トランプ前大統領が再度政権に就く場合、北朝鮮の核保有を容認したまま、核爆弾をこれ以上作らない(核凍結)代価としてインセンティブを提供する交渉を考慮していると、米国メディア「ポリティコ」が先週報じた。トランプ前大統領は報道を否定したが、2019年のハノイの朝米首脳会談で似たような合意を結ぼうとしたことがある。トランプは、支持層にそれらしく示せる分だけ北朝鮮から引き出せるのであれば、韓国の意向を無視してどんな合意でもする可能性がある。

 もちろん、米国大統領選の結果は現時点では断定できない。しかし、専門家らは、バイデン大統領も任期2期目では北朝鮮との交渉にもう少し積極的に出るとみている。ワシントンからも、北朝鮮の急速な核とミサイルの増強や朝ロの軍事協力を放置し続けることは、米国にとっても脅威の要因になるという声が出ているためだ。ただし、過去数年間にわたって核とミサイルに大規模な投資をしてきた北朝鮮は、制裁緩和程度では交渉に応じないだろう。韓米軍事演習の中止や米軍の一部撤収などを要求するだろう。韓国が北朝鮮の核外交に対しても事前に準備し、米国と協議を続けなければならないのは、そのような理由からだ。

 バイデン政権は、韓米日協力強化で中国けん制網を作るうえで、尹錫悦大統領の「過去の歴史問題を棚上げした韓日関係改善」が重要な役割を果たしたと評価する。しかし、尹錫悦政権が南北関係で衝突を辞さない姿勢を続けるのであれば、彼を「第2のネタニヤフの悪夢」と感じることになるだろう。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ地区侵攻などの様々な戦線に直面している米国は、朝鮮半島でさらに衝突が広がることは望んでいない。すでに、イスラエルのネタニヤフ首相の極端に強硬な政策がガザ地区で大規模な虐殺と災いを引き起こし、米国の国際秩序構想にも大きな負担になっている状況では、韓国の強硬保守に対してもこれまでとは違った評価をすることになるだろう。

 尹錫悦政権は、米国との「核協議グループ」で核の傘を強化することに没頭しているが、核兵器使用可否の決定は、全面的に米国大統領にかかっているという事実を変えることはできない。米国内では、これ以上海外に介入することはやめようという孤立主義の声が広がり続けている。そうした状況のもとで北朝鮮が韓国と米国を同時に核で脅かす場合、合衆国政府が米国人の命を犠牲にしてまで韓国のために核の傘を広げると100%確信するのは無謀だ。

 結局のところ韓国は、北朝鮮の核の脅威に対応した抑止力の強化とともに、最大限緊張を下げ、さらなる状況悪化を防ぐための複合的な戦略が必要だ。大統領と外交安全保障の責任者は、過度に強硬な政策を退けなければならない。北朝鮮とロシアの軍事協力をけん制するためには、中国との外交をもっと真剣に努力する必要があり、ロシアが北朝鮮に対してこれ以上密着しないよう管理する必要がある。

 万博誘致失敗は、119対29の惨敗よりも、誰もがサウジの圧勝を予想したにもかかわらず大統領は現実をまったく把握できなかった誤った報告システムと、過剰な自信や誤った判断で外交力を浪費した過程自体が、警鐘を強く鳴らした。北朝鮮核問題と安全保障でもこんな調子であれば、朝鮮半島の平和と多くの人々の生命まで危険にさらすことになるだろう。

//ハンギョレ新聞社

パク・ミンヒ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1120682.html韓国語原文入力:2023-12-17 18:33
訳M.S

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