本文に移動

[寄稿]福島原発汚染水「怪談」、2021年vs2023年

登録:2023-06-16 08:33 修正:2023-06-16 10:47
ソ・ボクキョン|ザ・可能研究所代表
東京電力が福島第一原発に保管中の放射性物質汚染水の海洋放出の設備試運転を開始した12日午後、国会前で「日本による放射能汚染水の海洋投棄阻止のための第2回全国行動の日全国漁民大会」が開かれている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 6月12日、日本の東京電力が福島原発汚染水を海洋放出するための試運転を開始した。同日、ハン・ドクス首相は、国会の対政府質疑で「行き過ぎた虚偽の事実の流布などによって水産業従事者が被害を受けることが生じた場合、司法当局が適切な措置を取る」と述べた。13日、与党「国民の力」の蔚山市(ウルサンシ)党支部は「汚染水を『核汚染水』と表現したことによって(…)悪意の怪談を流布した(野党)共に民主党の蔚山市党支部の者に対して『虚偽の事実流布』容疑で警察に告発措置を取る方針」だとする声明を出した。14日、国民の力のキム・ギヒョン代表は、フェイスブックに「(共に民主党の)イ・ジェミョン代表と共に民主党が、狂牛病怪談の扇動専門のデモ軍団と手を結び、国民を相手にまたしても非科学的な怪談を作っている」と書いた。

 2023年、政府と与党は、差し迫った汚染水の海洋放出に対する野党や市民団体、漁業者ら利害関係者の批判と懸念に対して、「怪談」あるいは「虚偽の事実」とレッテル張りをし、必要ならば法的制裁も加える方針のようだ。ところが、その基準によると、与党のキム・ギヒョン代表とチョ・テヨン国家安保室長、パク・チン外交部長官ら現政権の関係者たちの2021年の考えは「怪談」なのか、そうではないのだろうか。

 「日本政府は、2021年4月13日、福島原発の汚染水の海洋放出決定を突然発表した。(…)日本政府は、汚染水はきれいで安全に処理されると主張しているが、汚染水の成分に対する透明性が足りず、処理過程に対する科学的検証が不十分で、国際社会が強く懸念している。福島原発汚染水には、人体に致命的となるトリチウムをはじめとする60種類ほどの放射性物質が含まれているが、完全な除去は難しいとするのが専門家らの意見だ。(…)福島原発汚染水の海洋放出は、人類と未来世代の生命と健康に直結する問題であり、海洋生態系の安全と水産業界の生存にかかわる重大な事案だ。したがって、科学的根拠と透明な手続きをともなう、徹底した検証と安全性の確保が必須だ(「日本政府の『福島放射能汚染水』放出決定糾弾および原発汚染水の安全性確保のための大韓民国政府の積極的な対策要求決議案」キム・ギヒョン議員ら16人発議、2021年4月29日)

12日午後、国会前で「日本の放射能汚染水の海洋投棄阻止のための第2回全国行動の日全国漁民大会」が開かれている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 「放射能汚染水」と表現すれば「怪談」ではなく、「核汚染水」と言えば「怪談」になるのか。「60種類ほどの放射性物質の完全な除去は難しい」とする専門家らの意見を受け入れた2021年のキム・ギヒョン党代表ら国民の力の議員たちの考えは「科学的意見」であり、2023年に「東京電力の汚染水処理は安全だとは信じがたい」とする野党や市民の意見は「非科学的な怪談」なのか。2021年に日本政府の放出決定を糾弾したことは怪談ではなく、2023年に糾弾をすれば怪談になるのか。いったい政府と与党の「怪談」の基準は何なのか。

 過去2年間、東京電力の汚染水処理技術に画期的な発展があったという根拠はない。政府と与党は7月、「国際原子力機関(IAEA)の最終報告書が出てくれば、客観的根拠が用意される」のだから、その前に様々な批判をすることは「怪談」や「虚偽の事実」に該当するとみなしているようだが、そうした観点であれば、IAEAの最終報告書がいつ出てくるか分からなかった2021年の国民の力の議員たちの決議案こそ、「怪談」ではないだろうか。

「日本政府の『福島放射能汚染水』放出決定糾弾および原発汚染水の安全性確保のための大韓民国政府の積極的な対策要求決議案」(キム・ギヒョン議員ら16人発議)に名を連ねた16人の名前=国会議案情報システムよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 2021年以降、日本政府が「科学的根拠と透明な手続きにともなう徹底した検証および安全性確保」を行ったのかどうかについては、見る観点によって立場が違う。キム・ギヒョン党代表らが、2年前とは違い、日本政府と東京電力の「放射能汚染水」処理を「科学的に」信頼できるようになったとすれば、国会やメディアのインタビューなど様々な空間で、根拠を挙げて野党や市民を説得すべきであり、「怪談」や「虚偽の事実」とレッテル張りをして告訴・告発を乱発し、興奮することではないのではないか。

 科学的根拠を持って論じなければならないという主張は、一見妥当にみえる。だが、国内外の科学者の関連の主張自体が多様かつ対立しており、一つの結論に至ることができないのが現実だ。日本社会ですら反対意見が優勢な状況であるにもかかわらず、韓国市民が不安を感じることがおかしなことなのか。

 「不思議で奇妙な話」。「怪談」の辞書での定義だ。汚染水処理や海洋放出の安定性と今後及ぼす影響について、何一つ明らかなことはないが、何より先に「怪談」や「虚偽の事実」と断定する韓国政府と与党の話のほうが、私の耳にははるかに「怪談」に聞こえる。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ボクキョン|ザ・可能研究所代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1096088.html韓国語原文入力:2023-06-15 18:46
訳M.S

関連記事