東京電力福島第一原発に保管中の放射性物質汚染水の海洋放出が秒読みに入った。日本政府は今月中に原発汚染水の安全性検証に当たる国際原子力機関(IAEA)の最終報告書が公開されれば、放出を始める予定だ。
原発爆発事故で発生した130万トン以上の汚染水を30~40年かけて海に流す未曾有のケースであるだけに、いたるところで懸念の声が高まっている。日本と隣接した韓国水産業界の被害は火を見るより明らかだ。消費者が不安を感じているからだ。韓国は1人当たりの水産物消費量が世界1位の国だ。
このように深刻な状況なのに、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は1年以上「国民の健康のために科学的かつ客観的検証を行う」という原則的な答弁を繰り返しているだけだ。与党の「国民の力」は野党を相手に連日「怪談攻勢」に総力をあげている。国民の力は7日にも関係省庁長官たちと福島を訪問した政府視察団まで参加した会議で「原発汚染水が安全ではないというのは怪談」を主張するのにかなりの時間を割いた。「(野党)共に民主党の『放射能怪談』が漁民を窮地に追い込んでいる」、「政略的意図から狂牛病(牛海綿状脳症:BSE)問題のときの騒ぎを繰り返そうとしているようだが、刺身屋、水産市場がその犠牲になっている」などの発言が相次いだ。
このような主張は、基本的な事実関係も間違っているうえ、根本的な原因を無視するよう仕向けるものだ。民主党が乗り出す前から、消費者は水産物の消費を減らすという意向を示していた。例えば、日本政府が原発汚染水の海洋放出を決めた2021年4月、消費者市民の会が500人の人々を対象に調査した結果、回答者の91.2%が原発汚染水の放出が始まれば水産物の消費を減らすと答えた。
どの国も行なったことのない大量の汚染水の放出について、世界の著名な科学者まで安全性が確実ではないと警告する中、消費者が不安を感じるのは当然のことだ。「加湿器殺菌剤」で苦しむ被害者たち、粒子状物質(PM2.5など)で子どもたちが思う存分外で遊べない社会、気候変動による災害を目にしながら生きている平凡な人々は、環境問題に敏感にならざるをえない。
汚染水を「ALPS処理水」と呼び、各種広告を通じて「汚染水は安全だ」と洗脳に近い広報をする日本でも、消費者の不安は同じだ。日本政府は水産物消費の減少は当然の被害だとみて、韓国とは違って特別対策まで用意した。経済産業省は水産業の被害などを減らすため、基金800億円をすでに確保している。東電は個別の被害については地域・業種・期間に関係なく賠償する方針を示している。水産業界などの被害の原因が汚染水の放出にあることを認めているからだ。
尹政権と与党が国民の健康と水産業界を心から思うならば「怪談攻撃」をやめて、次の二つを急がなければならない。原発汚染水の安全性に対する韓国政府の立場を明確にし、水産業界に向けた実質的な対策を講じることだ。日本の原発汚染水の海洋放出による被害は自国だけにとどまらず周辺国に直接影響を及ぼすだけに、東電への損害賠償請求も検討する必要がある。
「政府には国民の生命と健康のため、危険要素をできるだけなくす義務がある」。2019年4月、福島産水産物の禁輸と関連し、日本が起こした世界貿易機関(WTO)での訴訟で、1審敗訴を覆し「逆転勝訴」した際、韓国政府が繰り返し強調した内容だ。政権が変わったからといって、国家の義務が変わるわけではない。
キム・ソヨン|東京特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )