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[7問7答]40年間海に捨て続ける汚染水、人類にどんな危険をもたらすのか(2)

登録:2023-06-01 02:31 修正:2023-06-09 10:56
福島第一原発の汚染水の海洋放出に反対する農漁民団体の決起集会が2月、済州道庁前で行われた。集会を終えた参加者たちが日本総領事館までデモ行進している=イ・ジョンヨン先任記者//ハンギョレ新聞社

(1の続き)

(4)二度のうそ、信頼が地に落ちた東電

 経済産業省と東京電力は、汚染水は安全であると主張してきた。しかし日本国内でも信じられないという声は大きい。二度のうそで信頼が地に落ちたからだ。2018年8月、原発敷地内のタンクに保管中の汚染水の約70%にセシウム、ストロンチウム、ヨウ素などの人体に致命的な影響を及ぼす放射性物質が法的基準値以上含まれていることが、日本のメディアによって暴露された。一部のタンクからは基準値の2万倍を超えるストロンチウム90などが検出された。トリチウム(三重水素)を除くすべての放射性核種をろ過できる「万能の装置」と宣伝されている多核種除去設備(ALPS・アルプス)の不良などが原因だった。東電はそれまで、ALPSで浄化した「処理水」は放射性物質が除去され、トリチウムだけが残ると宣伝していたが、真っ赤なうそだったのだ。今は、ALPSで2回浄化すれば放射性物質が基準値未満に低下すると主張している。この言葉をそのまま信じるには、すでに不信が高まり過ぎている。

 日本政府は漁業者との約束も破った。東京電力は2015年8月に社長名義で、汚染水処理について福島県漁業協同組合連合会と「関係者(漁業者)の理解なしには、いかなる処分も行わない」と文書で合意した。日本政府と漁業者を一つにまとめる「信頼の象徴」のようなものだが、日本政府はこれを無視して海への放出を決定してしまった。

(5)ALPSの性能は信頼できるのか

 100%信頼することは難しい。ALPSで浄化した汚染水の70%には、依然として人体に致命的な影響を及ぼす放射性物質が基準値以上含まれていることが確認されているからだ。

 さらに一歩進んで、汚染水の安全性をこの1年間、独自に検証してきた太平洋の18の島国からなる「太平洋諸島フォーラム(PIF)」の専門家パネルは、ALPSの性能をきちんと検証するには資料が非常に不十分だと主張する。米国ミドルベリー国際大学院のフェレンツ・ダルノキベレス教授(核物理学)は1月、韓国国会の討論会で「日本がフォーラムに提供したデータは不完全で一貫性もなく偏向しているため、何らかの決定を下すには不適切だ」と批判した。また同氏は、東京電力は汚染水に含まれる64の放射性物質のうち、セシウム137など9つだけに焦点を当てており、残りはほとんど測定していないと付け加えた。

 このような事情は5月21~26日に訪日した韓国視察団も同じだ。ユ・グクヒ視察団長(原子力安全委員長)は24日、記者団に対し、「ALPSの処理前後の64の核種の濃度に関する原資料も受け取ったため、これから分析する」と述べた。言い換えれば、ALPSの性能を点検するのに最も必要な資料を放出が行われる直前に確保したということだ。このような状況では、韓国政府がきちんとした独自の評価の結果を国民に示せるはずはない。

(6)トリチウムは安全か

 ALPSが完全に作動したとしても、トリチウムはろ過できない。トリチウムの安全性については、意見が大きく分かれる。日本政府は、他国の原発もトリチウムを含む水を海に放出しているが、健康被害は報告されていないと主張する。しかしトリチウムは水産物から人体に取り込まれ、有機結合型トリチウムに変化すれば、内部被ばくの危険性を高めることが知られている。

 生物学者たちは、トリチウムが引き起こす生物学的な遺伝子損傷の程度は、代表的な放射性物質であるセシウムの2倍以上だと憂慮する。日本は、放出が始まれば年間22兆ベクレル(Bq=放射性物質の1秒当たりの崩壊回数の単位)のトリチウムを海に排出する予定だ。これは2011年の福島第一原発事故前の年間2.2兆ベクレルの10倍だ。

専門家からなる韓国視察団が今月23~24日、福島第一原発を訪問し、汚染水の海洋放出の安全性点検を実施した=東京電力提供//ハンギョレ新聞社

(7)汚染水は危険だとの主張は「怪談」なのか

 韓国の与党と原子力の専門家たちは、汚染水は危険だという主張に「怪談」というレッテルを貼って攻撃する。このような論理だと、放射性物質の「潜在的リスク」を認めた世界貿易機関(WTO)の判断も怪談だということになる。

 韓国は2019年4月、福島産の水産物の輸入禁止について日本が起こしたWTO紛争解決訴訟で、一審での敗訴を覆し「逆転勝訴」をおさめた。日本政府は世界最高の科学者たちを動員して「科学的数値」を示した。福島産の水産物をサンプル調査するとセシウムなどは基準値以下で、他国と似たような水準だと主張した。独自調査だけでなく、放射能に関連する国際機関の客観的資料を証拠として提示し、圧迫した。

 韓国政府はこれに抗して、福島第一原発事故が発生した日本の特別な環境は、このような事故が発生していない他の国にはない「潜在的リスク」だと主張した。WTOは韓国に軍配を上げた。彼らは「食品の放射能検査の数値ばかりを問題にするのは誤りだ。汚染に影響を与えうる日本の特別な環境的状況なども考慮すべきだ」と判定した。SPS(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)紛争で訴えられた国が勝ったのは、これが初めてだった。放射性物質についての初の判断でもあった。

 WTOは、過去の様々な紛争解決手続きでは環境や健康よりも貿易関係を重視してきた。そのようなWTOでさえ福島第一原発事故による放射性物質の潜在的リスクを認めたのだ。原発爆発事故で発生した130万トン以上の放射性物質汚染水を30~40年かけて海に放出しようとしている国は、日本が世界で唯一だ。それによって発生しうる様々な危険性を日本政府に対して指摘し、十分な情報公開を求め、それが聞き入れられなければ反対意見を述べることは、国民の健康と安全に責任を負うべき国の当然の責務だ。

東京/キム・ソヨン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/1093951.html韓国語原文入力:2023-05-31 05:00
訳D.K

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