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[コラム]良心を汚染水で薄めて捨てようとしている日本政府

登録:2023-06-16 01:49 修正:2023-06-16 08:23
チョン・ナムグ|論説委員
日本の放射性物質汚染水海洋投棄阻止ソウル行動のメンバーが15日午後、ソウル西大門区の西大門駅近くから出発し、放射能汚染水放出中止を求めるパフォーマンスを繰り広げながら鍾路区の在韓日本大使館に向かって行進している=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 建物の同じ階にある他のオフィスで誰かがタバコを吸っているので消してほしいと言ったら、次のような返事が返ってきたという話を聞いた。

 「ここで私がタバコを1箱ほど吸ったからといって、あなたが受動喫煙でがんになるわけでもあるまいし」

 福島第一原発で生じた放射能汚染水を今後数十年にわたって福島沖に捨て続けるという日本の態度は、まるでこの人のようだ。日本は遠からず汚染水投棄を強行すると思われる。その日、日本政府はどうにかコップ1杯分ほど残っていた良心すら、汚染水で薄めて捨ててしまうだろう。

 2011年3月に起きた福島第一原発事故は現在も進行中だ。原発1~3号機の1496本の燃料棒に入っていた核燃料は一部燃焼し、セシウムなどの核分裂生成物質が原子炉内に閉じ込められていたが、原子炉が損傷したことで大量に大気中に流出した。かなりの量が風に乗って飛んでゆき、世界中にばらまかれた。

 原子炉内で溶け落ちた核燃料の残骸は地下水を汚染している。高濃度の汚染水が、一時は1日に300トンも海に流れ込んでいた。漏れた総量がどれほどなのかは誰にも分からない。史上最大の海洋放射能汚染を引き起こした1983年の英ウィンズケール再処理施設の放射性廃液流出事故より、はるかに多いだろう。福島沿岸では今も半減期の長いセシウムにひどく汚染された魚がとれる。

 東京電力は汚染水をタンクに貯蔵してきた。汚染水を吸着装置サリー(SARRY)でろ過してセシウムやストロンチウムを除去し、続いて多核種除去設備(ALPS)でろ過してトリチウム(三重水素)以外の管理対象核種を排出基準値以下になるまで除去しているという。炭素14は平均で基準値の40分の1ほどになるというから除くとしても、トリチウムをまったく除去できていない汚染水は「事故によって発生した放射性廃棄物」に過ぎない。それを改めて海に捨てることは、原発事故で人類に大きな被害を与えたことに対する一握りの責任感さえ忘れ去った行為だ。

 汚染水にはトリチウムが1リットル当たり平均68万ベクレル(1ベクレルは1秒間に崩壊する原子核の個数、およびその際に放出される放射線の本数)含まれている。日本の排出基準値であるリットル当たり6万ベクレルの10倍を超える。国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線被ばく量を「社会的・経済的な諸要素を考慮して合理的に達成可能な最低の値にする」(As Low As Reasonably Achievable)という原則の下、一般人の被ばく量を年間1ミリシーベルト以下にするよう勧告している。リットル当たり6万ベクレルは、それが含まれた水を1年にわたって1トン飲んだら、被ばく量が1ミリシーベルトに迫る放射能濃度だ。1ミリシーベルトは1万人に1人の割合でがんによる死亡者が発生すると考えられる水準だ。交通事故の死亡率と似たような「その程度の危険は受け入れよう」という意味の込められた数値であるに過ぎず、「安全」を保障する数値ではない。

 日本政府はトリチウムを含む汚染水に50倍ほどの海水を混ぜ、濃度をリットル当たり1500ベクレル未満にまで下げて捨てるという。海水で薄めようというのなら、そもそも高濃度の汚染水も基準値以下にするのはとても簡単だ。地球の海水の総量は136京トンで、130万トンの福島第一原発の汚染水を1兆分の1にまで希釈できるほど大量にあるからだ。「基準値以下だから大丈夫」という言い草は「海はとても大きいから、人間の生活を脅かすほど汚染するにはほど遠い」という暴言に他ならない。

 日本政府は汚染水投棄をやめるべきだ。日本にとっては金のかからない解決策かもしれないが、隣国にとっては何の利益もなく、危険のみを甘んじて受け入れよと要求する権利は日本にはない。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領、政府、与党国民の力は日本政府をかばいだてするのに必死だ。尹大統領の「(福島第一原発では)放射能漏れはなかった」とか「(原発の)安全を重視する官僚的な思考は捨てるべきだ」などの発言との一貫性はあるが、一体どの国の政府なのか。

 私は西海(ソヘ)の塩と南海(ナムへ)の刺身はこれからも食べ続けるつもりだ。汚染水を考えた時の気の重さより、食べられないもどかしさの方がはるかに大きいだろうから。だが、我々が人類共同の資産である海をいかに破壊しているかを考えるとめまいがする。福島第一原発の汚染水に含まれるトリチウムは900兆ベクレルほど。世界各国の原発からは、1カ所当たり年に多くて100兆ベクレルのトリチウムが排出されてきた。英国、フランス、日本の使用済み核燃料再処理施設は、原発の数倍から数百倍の量を排出する。重金属や化学物質、マイクロプラスチックによる汚染は放射能より深刻だ。生命は海から誕生したのにもかかわらず、人類は海を破壊している。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ナムグ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1096106.html韓国語原文入力:2023-06-15 16:24
訳D.K

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