統一部が「脱北漁師送還事件」の写真を公開した翌日の13日、大統領室は当時送還を決めた文在寅(ムン・ジェイン)政権を狙い撃ちにして「自由と人権の普遍的価値を回復するために、この事件の真実を一つ残らず究明する」と述べた。当時、この漁師たちが北朝鮮で16人を殺害して逃走してきたことが様々な過程を経て確認されたことなどは無視し、感情を刺激する写真を突如公開したうえ、政治攻勢や捜査圧力へと突っ走っている格好だ。南北関係の特殊性が反映された敏感な事案を単なる政略的道具として利用しようとすれば、激しい世論の逆風にさらされるだろう。
統一部が12日に公開した10枚の写真には、2019年11月7日に縄に縛られて目隠しをされた北朝鮮の2人の漁師が板門店の軍事境界線を越えまいと抵抗しつつ北朝鮮側に引き渡される場面などが写っている。写真のみを見れば、脱北者を強制的に北朝鮮に送還しているという場面だ。しかし、事件の脈絡は決して単純ではない。彼らは調査途中に亡命の意思を明らかにしたと言われているが、韓国海軍の追撃を避けて3日間逃走した末に捕らえられたという経緯や情報判断、船員の陳述などを通じて確認された犯罪事実などを総合的に考慮すると、自ら進んで亡命を望んだとは考え難い。しかも彼らの犯罪事実を立証する証拠が韓国側にない状態では、直に刑事処罰を下す手段も法的根拠も脆弱だった。また、北朝鮮離脱住民法や国際難民法においても、殺人などの重大犯罪者は例外とするとの規定がある。
文在寅政権が当時、彼らに亡命の意思は全くなかったと語ったという大統領室の主張も、事実とは異なる。当時、キム・ヨンチョル統一部長官は、彼らが「保護を要請する旨を明らかにしたが、拿捕当時の状況などを考慮して、その意思が本気であるとは認められないと判断した」と述べている。このような複雑な状況を考慮せず、統一部の突然の写真公開を号砲として、大統領室と国民の力が一斉に「強制送還は反人道的、反人倫的犯罪」、「国家安保を乱す行為」と非難するのは、典型的な「従北レッテル貼り」だ。
もちろん、5日間の調査後にこのようなやり方で北朝鮮に送ったことが適切だったのか、南北間の犯罪者引き渡し問題をどうすべきかなどの問題をじっくり検討してみる必要はある。当時も追放の基準や手続きの明文規定がないと指摘されている。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、本当に「自由と人権の価値」を回復しようとしているのなら、南北関係を利用して世論を煽ろうとするのではなく、早急に規定を整備すべきだ。