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[朴露子の韓国・内と外]韓国はなぜ右傾化するのか

登録:2021-11-30 20:50 修正:2021-11-30 23:42
韓国の若者たちより米国やノルウェーの若者たちの方がはるかに急進的政治指向を示す理由は何だろうか。それだけ韓国の世論主導勢力が、不動産問題の深刻化や非正規職の量産などを「進歩政権」や「貴族労組」のせいにするのに成功してきたということだ。朴槿恵政権時代に始まった多住宅賃貸事業者のための税制特典すら廃止できない現政権が、はたして「進歩」といえるのか?
イラストレーション:キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 私は最近、一つの興味深い現象を見ている。私がよく知っている多くの社会で「社会主義」がにわかに肯定的に再評価されていることだ。最近の一連の世論調査結果を総合してみると、18~24歳の米国の若者の間で「社会主義」支持率は50~55%程であり、「資本主義」支持を追い抜いている。もちろん米国における「社会主義」は、ノルウェーのような社民主義的国家程度を意味するのだろうが、そうであっても新自由主義の牙城であった米国でこうした傾向が目立っていることは意味深長だ。すでに社民主義社会が存在するノルウェーでは、急進左派の人気が急上昇している。現在のオスロ大学をみれば、全体の3分の1にもなる学生たちが急進社会主義政党の赤色党や社会主義左翼党を支持している。ノルウェーの人々が最も注目する外国といえばドイツであるはずだが、ドイツの首都ベルリンでは最近、大型不動産会社の保有住宅約20万戸を没収し共有化する方案について住民投票を実施した結果、過半数がこれに賛成した。「没収」と「共有化」は再び人気のある標語になりつつある。権威主義政権であるロシアでも、いま独裁の対抗馬に再浮上している勢力は、最近総選挙で議席を大きく伸ばした連邦共産党だ。私がよく知っているどの社会を見ても、パンデミックと経済・環境危機の中で左派が勢力を伸ばしているようだ。

 二つの例外を挙げるなら、それは日本と韓国だ。韓国の場合は4年前にろうそく抗争で退いた強硬保守勢力が復活し、大統領選挙政局の“強者”に浮上している。欧米ではますます“希望”を意味することになった「社会主義」は、韓国の保守勢力にとっては罵倒の中でも一番悪い罵倒だ。彼らは、客観的に見れば中道の社会的自由主義程度と規定できる現政権勢力を攻撃するときにも、常に「社会主義政策」というような非難を浴びせる。本来「社会主義」と呼ばれるほどのいかなる政策も、過去4年の間にまったく施行されたことがないにもかかわらず。

 強硬保守の“力”が誇示される右傾化ムードの中で、極右の行動隊は過去には想像もできなかった妄動もしばしば行う。数週間前に「慰安婦」被害者の水曜集会に「自由連帯」という大層な名前を持つ極右団体の会員たちが現れて、「慰安婦強制動員は嘘」のようなスローガンを掲げて日章旗をふりかざす光景をインターネットで見て、これは本当に起こったことなのかと信じられなかったことがあった。数年前であれば、極右が日章旗を持ち出して被害者をここまで露骨に冒とくすることなどできなかったはずなのに、今はこのような公開的行動が可能になるほどに、この社会の制裁力は弱まったのだ。日章旗を打ち振って戦争被害者を侮辱しても、その妄動をやめさせるほどの市民の“公憤”はもはや起きない。

 欧米の多くの国家で急進左派の人気が、特に若年層の間で大きく伸びている理由は理解しやすい。一つ目に、気候危機のような地球的災害を利潤追求システムを通じては解決できないという意識が広がっているためだ。二つ目に、数十年に及ぶ新自由主義政策は、今後ますます若い世代に安定した職場やマイホームで家庭を作る夢をあきらめさせるからだ。こんにちの平均的な英米圏の20代は、プラットフォーム労働をしたり、不安な職場に通って、値上がりを続ける家賃を払い、借り入れた学資金を償還して貯蓄はほとんどできない「現代版無産者」だ。財産を持てなかった人であるほど、社会的資源の共有を支持するのが論理的ではないか。三つ目に、歴史的記憶は左派の復活を可能にさせる一つの原動力になりもするからだ。欧米では、1950~60年代に再分配政策の大々的な実施とともに大衆の暮らしが大きく改善した経験があり、歴史教育やジャーナリズムはこの経験に対する集団記憶を維持させている。社民主義者などの長期政権を経験したノルウェーのような国では、若い有権者が、急進左派が政権につくことによって「持たざる人々」に有利な政策を展開し、多数の暮らしを改善するだろうと期待している。ロシアにおけるめざましい左派の復活も、皆が安定した職場に通い、国家から無料で住宅を配分されたソ連時代に対する記憶に頼っている面がある。

 韓国の状況はそれらとはかなり違う。一つ目に、気候危機の深刻さを韓国の主流マスコミはあえて無視している。死ぬほど大変な日常に疲れ果てた多くの韓国の若者たちには、「未来の心配」自体が「贅沢」に見えるかもしれない。現政権のグリーンニューディールは、結局のところ脱成長ではなく、単に炭素排出量削減が期待される新しい方式の技術集約的成長であり、このようにまるで急進的でない気候政策に対しても多くの韓国の若者たちはさほど不満を感じていないように思える。

 二つ目に、若者たちの剥奪感は欧米圏以上に韓国でさらに深刻だが、問題は剥奪という状況をマスコミなどの世論主導勢力がどのように見せているかという点だ。実際、20代の持ち家保有率を見ると韓国は24%に過ぎない。一方、米国の20代は34%が自身が暮らす住宅を所有している。韓国の20代の労働者のうち40%が非正規職なのに比べて、ノルウェーの場合は15~24歳の労働者は27%、そして24~29歳の労働者は15%しか非正規職がいない。それなのに、韓国の若者より米国やノルウェーの若者たちの方がはるかに急進的な政治指向を示す理由は何だろうか?それだけ韓国の世論主導勢力が、不動産問題の深刻化や非正規職の量産などを「進歩政権」のせいにしたり、「貴族労組」のせいにすることに成功してきたということだ。朴槿恵(パク・クネ)政権時代に始まった多住宅賃貸事業者のための税制特典すら廃止できない現政権が、はたして「進歩」といえるのか?欧州とは違って経営参加もできない労組が、はたして「貴族」といえるのか?しかしこのような問いは、すでに保守的世論主導勢力のフレーミングに慣れてしまった多くの人々にはピンと来ない。

 三つ目に、すでに有権者を十分に失望させた、真の意味の「進歩」と呼ぶこともできない現政権以上に急進的な政治勢力は、欧米圏とは違って韓国では政権についたことがない。彼らは勝利の記憶に依存できない状態で支持者に自信を植えつけなければならないが、それは決して容易なことではない。

 残念ながら韓国人の投票行動は、強硬保守 対 社会的自由主義という枠内でのみ振り子のように行ったり来たりする。強硬保守の積弊に対する怒りが積もれば自由主義勢力を選び、自由主義勢力が政権について不動産と不安な労働問題の解決に失敗すれば再び強硬保守の人気が上がる。この閉回路を抜け出すことができない韓国政治に、はたして希望があるだろうか。

//ハンギョレ新聞社
朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) |オスロ国立大学教授・韓国学 (お問い合わせ (お問い合わせ japan@hani.co.kr ) )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1021439.html韓国語原文入力:2021-11-30 18:55
訳J.S

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