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[山口二郎コラム] 日本人の自己認識

登録:2021-11-28 19:39 修正:2021-11-28 21:28
山口二郎|法政大学法学科教授

 人間にとって自分自身を知ることはむずかしい。まして、自分が所属する国や社会について正確に知ることはむずかしい。国や社会は大きすぎて、実感がわかない。また、長年慣れ親しんできた共同体に関しては否定的な情報を見聞きすることを嫌がるという偏りも、人間には多かれ少なかれ存在する。しかし、新型コロナウイルスによる人口十万人当たりの死者数を東アジア諸国で比較すると、日本は145.0人で、中国の3.2人、韓国の63.9人、台湾の35.3人をはるかに上回り、日本は東アジア諸国の中で最悪の数字である(11月20日時点、ジョンズホプキンズ大学の調査による)。つまり、政府が有能かどうかは国民の生命に直結する。政治や社会の仕組みが順調に作動しているかどうかを知ることは、人間が幸福に生きるためには不可欠である。

 こんなことを考えていたところ、教育学者の本田由紀東京大学教授が『日本ってどんな国?』(筑摩書房)という興味深い本を出版した。この本は、高校生、大学生を読者に想定し、家族の仕組み、男性と女性の役割や関係、学校教育、人間関係、経済、政治など多くの分野において、豊富なデータを駆使して、現代日本の特徴を諸外国との比較を通して明らかにしたものである。これまで漠然と感じていた日本社会の特徴、あるいは欠陥が客観的な根拠に基づいて説明されている。

 たとえば、日本では生活の支援について家族の役割が依然として重視されており、家族関係の社会的給付も小さい。また、男女の役割分担の意識が強く残っており、女性の労働率は上がったが、家事負担については女性偏重が続いている。これらの点は韓国も日本と似た特徴を示している。学校教育では、大人数の学級で、ある意味効率的に基礎学力育成の教育が行われているが、子どもたちは試験不安を強く感じる一方、学習の動機付けが弱いという特徴がある。つまり、大人に評価されることを恐れるが、自分から積極的に成長、進歩のために学ぼうとする意欲をあまり持たないということであろう。人間関係は一般的に希薄で、家族以外の友人を持たない人の割合が先進国中、最も高い。経済に関しては、長時間労働が続いている一方で、競争力のランクは低下を続けている。政治に関しては、選挙の投票率は低下する傾向があり、政府には大きな役割を期待しない。特に若者の政治参加への意欲に関しては極めて低調で、この点は韓国と著しい対照をなしている。個人のレベルでは生きる意義を感じられない人が多く、自分の長所について誇りを感じる人の割合も小さい。他方で、日本という国については愛着や誇りを持っている。

 日本では1990年代初めのバブル経済の終わり以来、経済の停滞、人口減少が進み、一人当たりの国民所得では韓国に抜かれた。本田氏の著書は、かつての経済発展や技術大国をもたらした様々な分野の仕組みが、今や逆に、自由に生き、働きたい個人を縛る鎖になっていることを明らかにしている。

 だからこそ、雇用、家族、教育など多くの政策を転換することが急務のはずである。しかし、10月末に行われた衆議院選挙では、与党が少し議席を減らしたものの安定多数を維持し、国民は変化を望んでいないことが明らかになった。もちろん、野党側が魅力的で信頼に足る政策構想を打ち出せなかったことが原因だろう。それにしても、変革のために不可欠な現状に対する批判、つまり制度や政策のどこが間違っているかという議論を野党がすると、野党は批判ばかりしていると多くのメディアは野党を批判する。

 危機や災害が襲ったときに、大したことはないとかまだ大丈夫と思い込み、身の安全を確保する行動をとらない心理的機制を正常性バイアスと呼ぶ。今の日本では、国民的レベルで正常性バイアスに浸っているようである。多少不愉快ではあっても事実に向き合うことができなければ、日本の没落は止まらないだろう。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

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