「雨降って地固まる」ということわざほど、朝米関係にふさわしい言葉もないだろう。難関が果てしなく続いてはいるものの、その中でも静けさと平和を模索する機会が残っている関係ではないか。このように「静けさと平和」を模索する新たな機会を求めて、私は再びソウルを訪れた。
この3カ月間でソウルを訪れるのは今回が2度目だ。先にウェンディ・シャーマン副長官が訪韓しており、その他にも複数回にわたって高官級会談が行われている。これはバイデン-ハリス政権が北朝鮮問題をはじめとする様々な事案について、それだけ韓米の緊密な協力を重視しているということを反映している。米国の北朝鮮政策特別代表としての私の最優先課題は、まさに韓国側のカウンターパートと緊密に協力し、朝鮮半島の完全な非核化を目指して働き続けることだ。周知のように、これは決して簡単なことではない。それでも「事前調整された実用的な」(calibrated and practical)アプローチで北朝鮮との外交的機会を探ろうと思う。そのために平壌(ピョンヤン)に直に対話を呼びかけてきたし、今も北朝鮮といつ、いかなる場所でも会う準備ができている。
この紙面を借りて、米国には北朝鮮に対する敵対の意図はないということを明確にしておきたい。現在進行中の韓米合同演習は、長い歴史を持つ周期的かつ純粋に自衛的なものであり、韓米両国の安保を支えるというのがその趣旨だ。米国の目標はインド太平洋地域の平和と安全保障の増進であり、そのために北朝鮮と善意の協力をする準備ができている。
我々はゼロからスタートしているわけではない。米国は、朝鮮半島の非核化と朝米関係改善に向けて、これまで4つの政権にわたって努力し続けてきているし、今後もたゆまず努力を続けていくだろう。北朝鮮も過去の合意でこの目標のために努力することを何度も約束している。2018年のシンガポール共同宣言、2018年の板門店宣言、2005年の6者協議共同声明を含む、過去に北朝鮮と合意した事項が今後の朝米外交の基盤となるだろう。
これにもとづき米国は、北朝鮮が対話に復帰して両国の意図と関心事について話し合うとともに、どのような進展が作り出せるのかを探る機会があることを願う。外交官人生の全般にわたって朝米関係に深く関与してきた当事者としては、朝米関係の進展ほど重要でありながら難しいことはない。しかし本気度と創造性を示せば機会の扉は開かれるというのが私の考えだ。個人的に北朝鮮政策特別代表としてバイデン大統領とブリンケン国務長官からどれほど高い信任を得ているかを考慮すれば、さらに米国の動きの一つひとつが韓国の国民にどれほど大きな影響を及ぼすかを考慮すれば、私にはこの目標を達成しなければならないという重い責任もある。
ただし米国には、議論に進展があるまでは、北朝鮮関連の国連安全保障理事会決議を履行し続ける責任があることを明らかにしておく。これは実際のところ、その他の安保理決議を履行する義務があるというのと同じことだ。米国は「核不拡散のための世界的努力を倍加し、全人類の安全を図る」という目標に沿って、すべての国連加盟国がそれぞれの国際的義務を果たすことを要請する。
さらに米国は、現政権の人権重視基調に沿って、北朝鮮住民の人権擁護活動を続けるだろう。
米国は、人道主義分野の共通の関心事についても、北朝鮮と協力する準備ができている。人道的支援に対するアクセスおよびモニタリング活動の保障のための国際的標準を順守するという前提の下、米国は、非核化の進展の有無とは関係なしに、北朝鮮内の脆弱階層のための人道支援活動を今後も支え続けるだろう。また、南北人道主義協力構想にも支持を送るとともに、朝鮮戦争中に行方不明になった米兵の遺体発掘のための協力の再開を希望する。米国は、信頼構築に向けた実質的な方策の模索にも門戸を開いている。
米国は、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和体制の構築という目標に向かって、同盟国およびパートナーと緊密に協力し続けるだろう。この過程では朝鮮半島の繁栄を望む当事者なら誰とでも協力するが、特に韓国および日本との協力に重点を置くつもりだ。この目標に向け、北朝鮮が真剣に交渉に臨む方向で決定を下すことを望むとともに、個人的にも私の北朝鮮側のカウンターパートに会談の会場で再び会えることを願う。
ソン・Y・キム|駐インドネシア米国大使兼北朝鮮政策特別代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )