世界の地政学における3軸たる米国、中国、ロシアは今、自分たちの周辺地域を固めることに余念がない。米国はベネズエラへの侵攻をほのめかしてホンジュラス大統領選に介入し、カリブ海全域における支配力を高めようとしている。中国は台湾に関して日本を追い詰めている。ロシアはウクライナと4年近く戦争をしている。3カ国は今、勢力圏固めに入っている。
しかし、米国のドナルド・トランプ政権の発足後、変化した点がある。過去であれば、相手のそのような行為を「侵略的」「覇権主義」「ルールに基づく秩序に反する」などの言葉で非難し、被害側に物理的支援も行った。しかし現在では、そのような口頭での介入や物理的介入は皆無か、あっても大幅に減少している。3カ国は互いの勢力圏固めに対する干渉を控えている。
トランプ大統領再選後、米国はロシアの要求を受け入れた終戦案を推進している。台湾有事の際に日本の自衛隊が動員される可能性があるという日本の高市早苗首相の発言に中国が激しく反発すると、トランプ大統領は中国の習近平国家主席と電話会談をした後、高市首相に電話し、「中国を刺激するな」と助言した。中国とロシアはベネズエラを侵攻すると脅している米国に対して一言の非難もせず、ベネズエラを支持するという言葉さえ控えている。
トランプ登場以降の米国が、従来の世界戦略を放棄しているためだ。米国は世界戦略において、欧州・中東・東アジアを死活的な3地域に設定し、常時的な軍事力駐留と介入を展開してきた。しかし、米国のこのような戦略は、米国の国力を過剰に展開させ、常時的な紛争介入という泥沼に陥らせているという批判を受けてきた。トランプ大統領は「永遠の戦争」を終わらせるとして、そのような世界戦略はもはや維持しないとしている。
シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授とハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授は2016年7月、フォーリン・アフェアーズへの「オフショア・バランシングのための論拠:優れた米国の大戦略」(The Case for Offshore Balancing: A Superior U.S. Grand Strategy)と題する寄稿で、自由主義国際秩序の覇権戦略を批判し、大きな議論を巻き起こした。彼らは、米国は常時的な軍事力駐留と紛争介入を控え、各地域で同盟国に役割を拡大させることで勢力均衡を維持させようという「オフショア・バランシング戦略」を主張した。存立を脅かす危機にだけ米国が直接介入して相手を制圧し、勢力均衡を復元するのが効果的だと説明した。英国が欧州大陸の問題に距離を置きつつ、勢力均衡が崩壊する危機にだけ介入した「栄光ある孤立」政策は、オフショア・バランシング戦略だった。
米国のオフショア・バランシング戦略には二つの条件がある。一つは同盟国に責任と負担を転嫁(バックパス:buck-passing)することだ。トランプ大統領は現在、同盟国に対して、安全保障と経済において責任転嫁を超えて搾取までしている。もう一つは、米国が西半球(アメリカ大陸)、特にカリブ海を含む北米での直接的な覇権の維持だ。アメリカ大陸全体を自身の強固な城砦として維持してこそ、ユーラシア大陸でもオフショア・バランシングを維持する余力があるためだ。
トランプ大統領は就任前後、パナマ運河、カナダ、グリーンランドを米国領にすると公言した。9月には軍事力を動員し、カリブ海地域での取り締まりに乗り出した。近く発表されるというトランプ政権初の国家防衛戦略(NDS)では、米国の対外戦略の優先順位を、中国との対決から自国と周辺地域の安全保障強化に変えるという。米国は自由主義国際秩序の覇権戦略において、他の大国の勢力圏を認めようとしなかったが、オフショア・バランシング戦略では、自国の優位と覇権を脅かさない水準での勢力圏の妥協は避けられない。
トランプ政権がはたして、オフショア・バランシング戦略を意図的かつ緻密に追求しているのかも疑問だ。オフショア・バランシングで必須である同盟国管理のための尊重と配慮がないからだ。トランプ大統領は、自由主義国際秩序を維持する「覇権国家」としての米国の義務と負担を放棄し、自国第一主義を追求する「最上位の強国」としての地位を追求していると言える。
オフショア・バランシング戦略における勢力圏妥協は、19世紀の帝国主義列強時代のような各列強による勢力圏分割を意味するわけではない。しかし、トランプ政権が自国第一主義の筆頭列強の地位を追求するのであれば、勢力圏分割に流れることになるだろう。オフショア・バランシングの勢力圏妥協であれ、列強による勢力圏分割であれ、韓国に与えられる意味は明らかだ。東アジアにおける韓国の負担と役割が拡大するということだ。米国の藩国として留まりたくでも、それは不可能になった。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権期には、韓国の「東北アジア均衡者」論があった。米国の下位同盟にすぎない韓国が分不相応な主張をしているとして、猛烈な非難が起きた。いまや韓国は、東アジアにおける勢力均衡を肯定的に維持する役割を果たさなければ生存できない状況に直面している。韓国に与えられるこの状況を機会に変えなければならない。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )