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[寄稿]韓国における公正な競争と能力主義

登録:2021-06-29 03:41 修正:2021-06-29 08:14
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授
国民の力のイ・ジュンソク代表が17日、国会本庁の党代表室で本紙のインタビューに応じている=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 公正を主張する声が高まっている。国民の力の代表に選ばれたイ・ジュンソク氏は、米国のようなジャングルの競争を韓国に導入したいと述べ、公正な競争を主張している。彼の言う公正とは、保守派の立場から見た、試験のような競争の結果が地位を決定する、能力主義にもとづく手続きと形式の公正だ。彼はある演説で、誰もが教育を通じて公正な競争のスタートラインに立てる世の中を夢見ていると語った。公正でないと主張して政府に批判的な若者たちは、このような主張にうなずくかもしれない。

 しかし、弱肉強食のジャングルでも動物の種類が異なるように、それぞれが異なる各家庭の子どもたち同士の競争を本当に公正なものとすることは、なにぶん難しい。実際に多くの研究は、子どもたちの努力と実力は親や家庭環境に大きく影響されると報告する。幼い頃に貧しさから受ける深刻なストレスは脳の発達を阻害し、妊娠した母親の環境要因が子どもの生後の健康と所得にも影響を及ぼす。

 したがって、不平等が深刻な現実において、公正な競争などというものは非現実的だ。すでにスタートラインが異なり、ある人は競技場に立つことも難しい中で、形式的な公正ばかりを押し通せば、結局のところ不平等がさらに深刻化する可能性が高い。割当制に反対する競争至上主義と試験のみにもとづく能力主義は、不平等な世襲と機会の格差を強化し、共同体のための実質的な公正を傷つけ得る。さらに、自分は優秀で努力したから成功したのだという能力主義神話は、不平等を正当化するだろう。平等なき公正は空虚なだけであり、進歩派は公正概念の中でも弱者に対する配慮と結果の平等を強調する。

 しかし公正を叫ぶ若者たちが、家ごとに経済的条件が違うという現実を知らないわけではないだろう。彼らは、すでに不平等は変えられない初期条件となっているから、「親のコネ」のようなものなしに思う存分競争できるように、せめて手続きの公正だけでも実現することを望んでいるのではないだろうか。このような主張の背景にある心情は、努力しても境遇を改善することは困難だという喪失感だろう。これはやはり、現政府は公正を強調してきたものの、若者から見ると反則のようなケースが時折あったからだ。また、細心の政策によって現実の不平等は改善しうるという希望と信頼を抱かせることに政府が失敗したという事実とも大きな関係がある。

 不平等が激しく、過去に比べて成長と上昇の機会が減っているという現実においては、地位の配分の過程で形式的な公正に対する要求がより強まりうる。だとすれば、結果の不平等と形式的な公正との悪循環が懸念される。結局、現在の進歩勢力は、不公正と不平等をすべて改善するために積極的に努力するとともに、形式だけの公正を時には抑制することがすべての人にいかにより良い結果をもたらすのかを若者たちに説くという難しい課題に向き合わされている。

 一方で韓国では、能力主義を単に批判し排斥するのではなく、社会全体に広げる努力も重要だということも忘れてはならない。公正な競争や能力主義についての議論は、主に大学入試や入社時のような試験過程に対して集中的に現れる。しかしより重要なのは、試験をどうするか以上に、日常の労働と生活において努力し、貢献しただけの対価を受けとるという、まともな能力主義だろう。

 残念ながら、不平等を含む韓国社会の多くの問題は、職場を含む多くの領域における公正と能力主義の不足に起因する。同じような仕事をしていても労働者の地位によって賃金に大きな差がつき、生産に対する貢献と補償が一致せず、財閥企業が下請企業を力で押さえつけ、系列会社に仕事を集中的に発注する。このようなことが果たして公正だろうか。

 だから、上位階層の強固な城の内部に入る狭き城門を通過することのみに公正な競争を要求するにとどまらず、城の内外において公正と能力主義が十分に作動することを求める声が必要だ。さらに、国際的に高い水準にある高所得層の分け前が果たして真の能力と公正な競争にもとづいたものなのかについても、根本的な問いを投げかけるべきだろう。これは必然的に、金持ちの掌握する政治と独占と既得権の地代追求に対する批判、そして過度な年功賃金に代表される賃金構造と公共部門の改革に関する議論へとつなげなければならない。

 今後、多くの大統領候補が、猫も杓子もそれぞれの公正を語るだろう。しかし、どのような公正が必要で望ましいかは、共同体のすべての人が考え、討論すべきことだ。最近の公正論議が狭い試験の公正にとどまることなく、既得権を打ち破る全面的な公正へと、そして平等と共に歩む公正へと発展することを期待する。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1001217.html韓国語原文入力:2021-06-28 16:39
訳D.K

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