「ジュンソクになったぞ!」
11日午前11時10分、東大邱(トンテグ)駅。駅舎に設置されたテレビで、イ・ジュンソク候補が野党第一党「国民の力」の党代表に選ばれたというニュースが流れると、画面を見ていたイ・ヒョギさん(79)の声のトーンがあがった。イさんは浮かれたように手にしていたドリンク剤を隣の席の友人に渡した。「イ・ジュンソクが頭の腐った政治家たちよりもスカッとしているから支持したんだ。腐ったものはすき返さなきゃならん。次は政権交代しなきゃ」
大邱に60年以上住んだイさんは、民政党、民自党、ハンナラ党、セヌリ党、自由韓国党、国民の力へと変わる間もずっと保守政党を支持してきた。2012年の大統領選挙の時も朴槿恵(パク・クネ)大統領に票を投じた。しかしイさんは、「弾劾の正当性」については少しも疑っていなかった。「弾劾は正当だ。チェ・スンシル国政壟断で私的な政治をしたんだから当然のこと」。彼はナ・ギョンウォン前議員が全党大会時に提示した公約も鼻で笑い飛ばした。「朴正煕(パク・チョンヒ)空港?そんなものを作ると言っても支持する人はいない。それより若者の雇用を増やせ」。イ・ジュンソク新代表の受諾演説を見守っていた「生まれも育ちも大邱」というKさん(42)も加勢した。「もう旧態では国民の心は買えない。イ・ジュンソクが変化の始まりだ」
「保守の心臓」といわれる大邱に、新しい風が吹いている。政権交代のためなら、検証されていない“議員経験なし”の30代の政治家でも保守の看板に掲げるという切迫感だ。“朴正煕”も超え、“朴槿恵”も超えなければ新しい中心を立ち上げることはできないという学習効果だ。イ・ジュンソク候補が今回の全党大会で1位を獲得した要因は、「若く新しい顔」を望む国民の意向が党の意向をけん引する威力を発揮したためだ。イ代表は党員投票ではナ・ギョンウォン前議員(40.83%)にリードされたが、これは選挙運動初期に予想された10~20%に比べると2倍に達する数値だ。2年前の「党員投票70%、一般国民世論調査30%」の同じ“ルール”が適用された自由韓国党の代表選当時、オ・セフン候補は世論調査でリードしたが、党員投票で22.9%しか得られず、55.3%を記録したファン・ギョアン候補に敗れた。しかし、今度は党の意向も民意に従った。党員選挙人団のうち50%を上回る慶尚道地域の支持がなければ不可能なことだった。
専門家たちは今回の選挙を「慶尚道地域の戦略投票」というキーワードで説明する。2002年の民主党の大統領選予備選挙の時、全羅道地域が釜山出身の盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補に票を入れて風を巻き起こしたように、慶尚道地域も以前と異なる「合理的・中道・首都圏・議員経験なし・30代」を選択したということだ。キム・ヒョンジュン明知大学教授は「大邱で5回当選したチュ・ホヨン議員が党員投票で16.82%しか得られなかったのは、慶尚道地域が変わったという意味」と述べ「情緒的一体感を通じた『コンクリート支持』ではなく、変化した状況に合わせて期待を投影した戦略投票をしたもの」と指摘した。イ・ジュンハン仁川大学教授は「ナ・ギョンウォン、チュ・ホヨン両候補のいずれにも快く投票しがたい状況で、風が吹く方に票を入れた」とし「国民の力の党員であれ支持者であれ、新しい変化を追求することに共感が広がっているということを確認した」と述べた。
ならば、慶尚道地域の「戦略的投票」はどのようにして可能となったのか。
この日、大邱を回りながら感じたのは、都市全域を覆う熱い関心と熱気だった。これは、大邱を訪れた政治家なら誰でも立ち寄る「常連巡礼地」の西門市場で確実に感知された。この日午後、市場に足を踏み入れると、商人たちの会話から「イ・ジュンソク」「ナ・ギョンウォン」の名前が飛び出してきた。西門市場で服屋を10年営んでいるLさん(34)は満面に笑みを浮かべていた。「私は以前、自由韓国党にうんざりして民主党を支持していた。でも民主党も全く気に入らないところへ、イ・ジュンソクがまるで彗星のように現れた。あの人は自分ができないことはできないと言うから、約束は守るだろう」。携帯電話で国民の力の党大会の記事を読んでいた薬剤師のKさん(55)も語った。「私は国民の力を支持しているわけではないけど、民主党政権を変えなきゃならないから、野党第一党に頼るしかない。イ・ジュンソクは李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵と絡んでいないからとてもいい」。国民の力の大邱中区(チュング)運営委員長を務めるパク・ジョンジョさん(53)も喜びを表した。「最近、若い党員が増えている。強硬保守ではないイ・ジュンソクが登場して、若者を集めているんです」
“議員経験なし”の候補に票を入れた背景には、大邱を「朴正煕・朴槿恵の都市」にし続けることに対する心理的な抵抗があった。国民の力の党員であるKさん(35)は「あるお年寄りの方が道を通りながら、朴槿恵赦免署名を集める人々を見て『社会がめちゃくちゃになったというが、本当にそうなのか。本当にめちゃくちゃになったんなら、あんな署名程度でどうにかなるもんか』と苦言をこぼしていた。外部からは大邱は極右保守と見られているが、実際の大邱の人々の考えは温度差がある。だからイ・ジュンソクが大邱で弾劾は正当だったと自信を持って言えるのだ」と話した。別の党員のKさん(31)は「大邱はもう弾劾の川を渡った」と表現した。「大邱・慶尚北道は数十年間、政権を握る政党の本拠地だったという自負が強い。朴槿恵を守っていたら絶対に政権を取り返せないと思っている雰囲気だ。その弾劾の川を渡る過程でまさにイ・ジュンソクに出会ったんでしょう」
大邱の人々の頭の中には、イ・ジュンソク個人に対する全面的な信頼というより、イ・ジュンソクカードを「活用」してこそ政権交代が可能だという考えが占めていた。朴槿恵前大統領の赦免を求める署名が繰り広げられていた半月堂(パンウォルダン)駅の地下商店街で会ったSさん(67)は、イ・ジュンソク代表が当選したというニュースに拍手を送った。「ジュンソクはジュンソクなりに、若いカリスマで政権交代を果たせそうだ。この国も正しくなりそうだ」。 パク・ジョンジョさんは「野党には若者世代の票が集まらない。若い層と息を合わせて票を持ってくるには『イ・ジュンソクにならなきゃ』という考えが多かった。時代が変わり、党の意向ももはや早く動いている」と述べた。慶尚北道党で働くある党役員は「来年政権を変えなきゃならないという熱望が大きいが、多選議員たちには新しいエネルギーを期待できない。イ代表は党の認知度をこれだけ引き上げ、国民の力が変化していることを示すのに大きく貢献した。これから大統領選予備選挙でもまともな商品を作らなければならないという課題が残っている」と話した。
イ代表に政権交代に対する期待を投射するのは、彼が文在寅(ムン・ジェイン)政権の脆弱点である「公正」問題を扱う適任者だと思うからだった。半月堂駅近くのコンビニでアルバイトをしているLさん(31)は「チョ・グク、チュ・ミエ元法務部長官の子の不正を見て、結局差別が繰り返されるんじゃないかという不満が多かった。イ代表が語る競争が理想的に実現すればいいのではないだろうか」と話した。慶北大学に在学中のキム・ミョンジュンさん(23)は「民主党が多くの失態を犯したことで、既成世代(旧世代)に対する不信がイ代表に対するシナジー効果として働いた。能力のある人が何かをするのが正しいと思う」と話した。今回の選挙でイ代表を選んだ青年党員のPさん(28)は「党に蔓延した派閥政治を清算すれば、来年の政権交代は難しくないと思う」とし「地域区に依存する選挙は、『公正と競争』を重視するMZ世代(1980~2000年代初頭生まれのミレニアル世代と1990年代中盤~2000年代生まれのZ世代)に対する効果的な選挙選略ではなかった。保守野党の若い党代表というカードは新鮮な衝撃だ」と述べた。
しかし、今回の党大会の結果については「まだ変化の始まり」とし、もう少し慎重に見守るべきとの意見もある。政治コンサルティンググループ「ミン」のパク・ソンミン代表は「今回の全党大会で保守政党が勝てる候補を選択したという点では、全羅道の戦略投票と共通点がある。20~30代に戦略的優位を持っているという点も選挙結果に反映されている」と述べながらも、「全羅道が盧武鉉を選んだ時は、全羅道が推している慶尚道出身候補ということがはっきりしていたが、イ・ジュンソクはすでに保守政党に入って10年になる。また、両親が大邱出身であることを考えると、『私たちが育てた』という潜在意識も大邱の人々にはある」と説明した。政治評論家のイ・ジョンフンさんは「明らかに慶尚道が変わりはした。しかし、イ代表が党員投票で2位になったのをみると、体質転換がなされたとみなすには不十分な点がある。風がさらに広がるかは見守らなければならない」と述べた。
保守が変化の風に乗って順調に進むかどうかは、ひとまず「イ・ジュンソク号」の航海が順調かどうかにかかっている。イ・ジュンソクの登場を喜ぶ人々の心の片隅でも、一抹の不安が漂っていた。「まだバブルなのかそうでないのかは分からない」「重鎮らとうまくコミュニケーションできるか心配だ」などの反応だった。党協委員会幹部のPさんは「国民の力が若くなっていいが、経験が少なく国会議員に一度もなったことのない方が、大統領選挙をどのように導いていくのか懸念される点も多い」と話した。「船頭が多ければ船が山に行くという。党代表が独善的にならず、それでいて中心を掴んで役割を果たさなきゃならない」