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[寄稿]嫌悪の政治に対抗する道

登録:2021-06-19 07:43 修正:2021-06-19 11:16
チャン・ソクジュン|転換社会研究所企画委員

 いわゆる「イ・ジュンソク現象」をめぐり、分析と診断が入り乱れている。懸念する視線でこれを眺める人々は、特にそのうちの二つの流れに注目する。一つは能力主義で、もう一つは反フェミニズムだ。

 私がみるところ、二つのうち本当に危険なのは後者だ。能力主義は、攻撃対象が権力ピラミッドの上側か、もしくは下側かにより、正義の声にも、その正反対にもなり得る。しかし、反フェミニズムにはそのような余地さえない。これは、女性の進出に対する漠然とした妬みや恐怖をあおりたて誇張し政治的な資源にしようとする「嫌悪の政治」だ。2010年代に世界各地で登場した極右ポピュリズムにそっくりだ。

 「国民の力」の新代表も、これを意識しているのか、当選後には露骨な女性嫌悪発言はしないでいる。しかし、とにかく彼は“パンドラの箱”を開いてしまった。韓国でも嫌悪の政治を駆使し権力に向かって進むことができることを実証した。社会の底辺にすでにはびこっている女性、性的マイノリティ、移民などに対する嫌悪感情を、政治的に活用する方法を示してしまった。必ずしも「国民の力」の所属でなくても、また別の“斬新な”政治家がより強い嫌悪を扇動し成長する可能性は、すでに韓国社会の定数となった。このような嫌悪の政治をこれ以上成長できないよう防ぐには、どのような努力が必要なのだろうか。

 韓国人は、2010年代を通して他の国々とは全く異なる政治的な時間を過ごした。しかし、ろうそく抗争の余波を改革に結びつけることには失敗した。いや、これをザボタージュした政権リベラル勢力のために、この間隙は何の意味もなく消えてしまった。韓国もすでに世界の時間に合流した。 世界の“悪い”時間にだ。

 物事がこのようになるだろうと予感した多くの人々が、前もって論議していた方向は「左派ポピュリズム」だ。米国と欧州で極右ポピュリズムを撃退した力は、新興急進左派から出た。これらは、極右ポピュリストよりさらに活気に満ちた大衆政治を通じて、嫌悪感情を連帯の覚醒により制圧もした。韓国社会が世界の時間に一歩遅れてついていくとすれば、私たちにも確かにそのような方向への努力が必要だろう。

 ところが「左派ポピュリズム」というと、場合によっては偏狭な政治技術やレトリックの問題とばかり思われることがある。実際、韓国の進歩政党運動の多くは、そのように理解しているようだ。しかし、今必要なのははるかにもっと根本的な考えであり、実践の原点に帰ることだ。

 競争と妬みで細かく裂けた社会集団を再度つなぎ、新しい多数連合を構築しようとするならば、二つの努力を並行しなければならない。一つは、強力な共通の理想を提示することだ。過去には「民衆」や「労働階級」のようなそうした理想を象徴する普遍的な名称があり、この名称は資本主義に対する社会主義的な批判および代案と結合していた。「左派ポピュリズム」の成功事例といわれる流れでも同じだ。既存の社会民主主義勢力と異なり、このような要素をふたたび全面に出したおかげで、新風を起こしているのだ。今の韓国の進歩政党運動は、この中心要素から着実に満たしていかなければならない。

 また、もう一つの課題は、このような普遍的な理想を土台に、韓国社会の多くの集団の「経済的‐組合的」性向を克服することだ。アントニオ・グラムシは、新しい社会の建設を通じて自らの解放を実現する「倫理的‐政治的」な努力に対し、社会の他の部分に自らの「短期的‐分派的」な利益を主張するだけの形態を、「経済的-組合的」と呼んだ。このような「経済的-組合的」な段階に留まるかぎり、いかなる集団や運動も社会の解体に寄与するだけだ。今の韓国社会で、労働運動をはじめとする社会運動が陥っている苦境がそれだ。嫌悪の政治に対抗する連帯が態勢を整えるためには、まずは社会運動のなかで「経済的-組合的」な段階を越えようとする努力を始めなければならない。

 どれも難しい課題だ。しかし、私たちが進入した21世紀の普遍的で政治的な時間のなかでは、決して回避したり棄権できない課題でもある。左派とは本来、このようなことをしようとする人々だ。

//ハンギョレ新聞社

チャン・ソクジュン|転換社会研究所企画委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/999791.html韓国語原文入力:2021-06-18 02:36
訳M.S

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