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[寄稿]岐路に立つ韓国の「進歩」の未来

登録:2021-05-26 04:57 修正:2021-05-26 11:14
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授

 さきの再・補欠選挙で民主党は衝撃的な惨敗を喫しただけでなく、最近の世論調査でも野党の有力大統領選候補の支持率が脅威的な水準となっている。にもかかわらず民主党は敗北に対する厳正な評価と反省、刷新の転機を見出せず、あちこちで相反する方向の対応が突出し、右往左往している。

 不動産が問題だと言えば、出し抜けに総合不動産税の縮小や建て替え・再開発規制の緩和などの不動産市場を刺激する案が飛び出しくる。若者層が失望したと言えば、若者たちの経済的苦しみと絶望の声をもっと傾聴することは考えず、まるで「20代の男性」の多数が性差別主義者であるために民主党に腹を立てているかのように、現実を誤認したりもする。すべて見当違いだ。

 このような反応は、民主党の古くからの悪い習慣だ。選挙で敗れさえすれば、「左に行きすぎた」として右に大きく舵を切り、坂を転げ落ちるように転落を加速させる。実は労働者や中産層の糾合に失敗したのが問題だったのに、どうあっても民主党には投票しない金持ちと企業の顔色をうかがってさまよう。こうなれば民主党は支持層を失い、支持層は支持の持っていく先を失うことになる。これは理念と路線だけでなく、政治的合理性の問題でもある。

 今そのような愚を犯さないようにするためには、最近の選挙結果や世論調査の動向ばかりに目を奪われるのではなく、歴史的観点から現在の状況を理解しなければならない。多くの韓国市民は、わずか4年前には平和的なろうそく集会で世界から民主主義の模範という賛辞を受け、わずか3年前には朝鮮半島の平和の進展をともに喜び、わずか1年前には政府と協力してコロナを阻止し、民主主義の力を世界に確認させてもいる。社会全般の保守化の推移ではない。

 より長期的な韓国政治の変化の推移を見れば、このことはより明確になる。1987年の民主化以降、しばらくは地域対立が選挙政治を左右したが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が当選した2002年を基点として有権者の世代と価値観が強力な変数として浮上した。今最も注目すべきなのは、2010年代以降は有権者の所得、財産、階層意識などの社会経済的な変数がますます重要になっており、また進歩的態度が拡大してきたという事実だ。

 民主党の変化もこうした社会変動の推移とともに起きているが、その本格的な出発点は2011年に普遍的福祉への志向と「3無1半(無償給食、無償保育、無償医療、授業料半額)」政策を公式に採用したことだ。その後民主党は、2008年のろうそく集会で市民たちが李明博(イ・ミョンバク)政権の脱規制、民営化、競争教育、土建主義に反対して叫んだ「共に生きよう大韓民国」という願いを受け入れ、「リベラル保守政党」という否定的なイメージから少しずつ抜け出した。

 そのような脈絡から見ると、いまの文在寅(ムン・ジェイン)大統領と民主党政権について、「これのどこが進歩政権なのか?」というような批判は、現実の一面だけを見たものといえる。政権勢力の意志の問題であれ、官僚集団の力のせいであれ、政府与党の政策路線に対する失望には、少なからぬ人が共感するだろう。しかし今の政治状況は、単純に「真の進歩ではない」というような理念的断罪ではアプローチできない複雑さがある。

 現政権が「進歩政権」と呼べる理由は3つある。一つ目に、2017年の大統領選挙で文在寅候補に投票した有権者の圧倒的多数が理念的進歩層だったこと。二つ目に、文在寅政権は進歩主義の価値(公正、平等、正義)と国政目標(人中心の経済、包容福祉国家、労働者尊重社会)を中心に据え、支持層と価値同盟を結んだということ。三つ目に、韓国の進歩運動に長くかかわってきた多くの専門家、市民社会運動、政党の関係者が現政権に参加していること。

 いうなれば、今の文在寅政府と民主党は、ここ十数年にわたって韓国社会で進んできた理念と価値の進歩化、社会経済的議題の拡大という歴史の波に乗って政権を獲得し、またその価値、議題、勢力を凝集した。それだけにこの政権の成否は、韓国の進歩勢力全体の未来を大きく規定するだろう。したがって進歩主義者は今、他人事のように冷笑することはできず、批判し、要求し、参加することを止めることはできない。

 このような脈絡から見ると、最近の世論地形の急変は、韓国政治が重大な歴史的岐路に立っていることを意味する。十数年前から着実に進められてきた市民の民主的、進歩的転換の周期が終わり、巨大なバックラッシュの周期へと移るのか、それとも進歩の歴史を改めて力強く推し進め、より良い進歩の未来を作るのか。民意の大きな時代的流れに応える政治的選択とリーダーシップを期待する。

//ハンギョレ新聞社

シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/996595.html韓国語原文入力:2021-05-25 16:27
訳D.K

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