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[コラム]「独裁者」と非難されたルーズベルトから学ぶべきこと

登録:2020-12-17 06:50 修正:2020-12-17 08:39
ルーズベルト大統領が1930年代に進めた連邦最高裁改革は、激しい社会的論議を呼んだ。「三権分立の原則を傷つけ、抑制と均衡という民主主義の土台を崩す」と批判された。しかし歴史はルーズベルトの時代を「民主主義の原則が崩れ、深刻な混乱に陥った時期」と記録していない。むしろ正反対だ。なぜだろうか
高位公職者犯罪捜査処(公捜処)法改正案が今月10日、国会本会議で「国民の力」の議員らがプラカードをもって抗議する中、賛成187人、反対99人、棄権1人で可決された=共同主催写真団//ハンギョレ新聞社

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が30%台に落ち込んだ。就任以来最低値だ。「レームダックが始まった」から「岩盤支持層が崩れた」まで、様々な解釈が飛び交っている。これに歩調を合わせ、政治的対立は一層深まった。ユン・ソクヨル検察総長への処分を巡る議論が激しさを極めている。国会では、高位公職者犯罪捜査処法を含む争点法案が次々に野党のフィリバスターを無力化して成立した。巨大与党の立法独裁だとか、議会民主主義と三権分立が崩れたという激しい非難が、野党と保守メディアから相次いでいる。果たしてそうだろうか。本当に議会民主主義は深刻な危機に直面しているだろうか。民主主義を掲げ発足した政権が結局独裁に回帰するのが、現在の状況の本質なのか。

 様々な見方があるだろうが、ここで1930年代の米国のルーズベルトの時代を振り返ってみることは意味がある。今の韓国と類似した点が少なくないからだ。フランクリン・ルーズベルト大統領は、共和党の激しい反対にもかかわらず、ニューディール政策を含む法律の立法を推し進めた。ニューディールの柱とされる社会保障法と全国労働関係法(ワグナー法)をめぐり、共和党と保守陣営は「個人の自由を侵害する独裁の道に入った」と批判した。ルーズベルトに対しては「独裁者」、「社会主義者」、「ソ連共産党のスパイ」、さらには「ファシスト」という攻撃まであった。

 特に、ルーズベルトが進めた連邦最高裁判所改革は、激しい社会的議論を呼んだ。連邦最高裁がニューディール法案に相次いで違憲判決を下したことを受け、ルーズベルトは最高裁判事の数を2倍に増やし、米国社会の変化を反映すべきだと主張した。「三権分立の原則を破り、抑制と均衡という米国の民主主義の土台を崩す」という批判が高まった。民主党の一部議員でさえ「いくら意図が良くても、司法府を大統領の思い通りに変える悪い先例を残す」として反対した。最近の公捜処を巡る議論を連想させる。ルーズベルトによる連邦最高裁改革の試みに比べれば、公捜処法をめぐり三権分立が崩されたという非難は、それほど大きな問題ではないかもしれない。

 数々の議論の中で、立法に成功したものもあれば、失敗したものもある。ルーズベルト大統領が1930年代に進めた連邦最高裁改革は、激しい社会的論議を呼んだ。「三権分立の原則を傷つけ、抑制と均衡という民主主義の土台を崩す」と批判された。しかし歴史はルーズベルトの時代を「民主主義の原則が崩れ、深刻な混乱に陥った時期」と記録していない。むしろ正反対だ。ルーズベルトを経て米国は真の大衆民主主義時代に入り、大統領制が安定的な軌道に乗ったと評価されている。保守的法学者のロバート・ボークは「共和国の本質に重要な影響を及ぼした」と評した。歴代の米国大統領のなかで、ルーズベルトがジョージ・ワシントンやエイブラハム・リンカーンとともに最も偉大な大統領に挙げられるのもそのためだ。

 ルーズベルトが高く評価されるのは、前例のない激しい論議の中でも、ニューディール政策と立法が米国社会を前向きに変化させたためであろう。ルーズベルトは合法的な手続きを通じて改革を推し進め、選挙という制度で国民の承認を得た。野党と保守系メディアは現在、与党が巨大議席をテコにフィリバスターを終了させ、公捜処法や国家情報院法、南北関係発展法の改正案を通過させたことを「独裁」と非難しているが、本当に重要なのは、そのようにして成立させた法律が数十年間続いてきた検察と情報機関の権力乱用に終止符を打ち、南北間の緊張緩和を通じて朝鮮半島と北東アジアの平和に寄与できるかどうかであろう。

 その時と違う点もある。最も重要な違いは大統領の態度だ。ルーズベルトは論争が起こるたびに国民に直接説明をした。ニューディール立法が選挙で勝つための政略だという非難には、これが公益と民主主義の原則に合致すると反撃した。司法制度改革をめぐる論争では、「米国憲法は法律家の契約ではなく、一般市民向けの文書だ …(1787年に米国憲法の制定に参加した)代表団の多数は裁判所と議会、行政府の関係が時代によって進化し、問題を解決していくという信頼を持っていた」と述べた(1937年9月17日憲法記念日)。この演説は野党のより大きな反発を招いたが、ルーズベルトは国民に自分の考えを表明することを躊躇しなかった。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領に足りないのは、その部分かもしれない。ユン・ソクヨル検察総長をめぐり激しい議論が起こったにもかかわらず、任命権者である大統領から直接話を聞く機会はなかった。“大統領の意中”に関する推測と「これが大統領の考え」という確認不可能な主張が、国民をさらに混乱させている。ユン・ソクヨル総長懲戒委員会が結論を出した。今度は大統領から直接国民に詳しい説明を聞かせてほしい。なぜユン・ソクヨルを検察総長に任命し、何を期待しており、今その期待は守られているのか、検察総長の任期制についてどのような考えを持っているのかなどに関して、大統領の本音が聞きたい。ルーズベルトがニューディールに成功した秘訣は、国民とのコミュニケーションにあったことを忘れてはならない。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス先任論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/974509.html韓国語原文入力:2020-12-1702:38
訳H.J

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