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「朝ロ関係は裏切りと利用でつづられた取引的な関係」

登録:2025-04-11 08:55 修正:2025-04-12 10:39
[インタビュー]朝鮮戦争研究の世界的権威 キャサリン・ウェザーズビー|ジョージタウン大学教授
1990年代にソ連の記録保管所の文書研究で朝鮮戦争でのソ連の役割を明らかにした朝鮮戦争の起源の研究の世界的権威、ジョージタウン大学のキャサリン・ウェザーズビー教授にインタビューした=ワシントン/キム・ウォンチョル記者//ハンギョレ新聞社

 3年が経過したウクライナ戦争が朝鮮半島に残した遺産は、復活した「朝ロ」関係だ。1990年の韓国とソ連の国交樹立後に崩壊した両国関係は、2024年6月19日に相互防衛条約を通じて公式に復活した。1990年代に機密解除されたソ連の文書を通じて、朝鮮戦争におけるソ連の役割を明らかにするなど、朝ロ関係全般を長くみてきたジョージタウン大学のキャサリン・ウェザーズビー教授は、両国関係の属性を「裏切り」と「利用」でつづられた「取引的な関係」と要約した。34年ぶりにふたたび互いの必要のために手を握った両国関係は、今後どのように繰り広げられるのだろうか。朝鮮戦争研究の世界的権威であるウェザーズビー教授に先月19日、ハンギョレがインタビューを行った。

■「朝鮮戦争期のソ連、北朝鮮を徹底的に利用」

 朝鮮戦争は韓米と朝ソの関係の基礎が形成された時期だ。この時期を経て「血盟」になった韓米とは違い、北朝鮮はソ連から何回も決定的な「裏切り」を受け、深いトラウマを持つようになったというのが、ウェザーズビー教授の評価だ。ウェザーズビー教授は「このときの経験は、『誰も信じられない』という北朝鮮特有の情緒を形成するうえで、強い影響を及ぼした」と述べた。

 1回目の事件は、ヨシフ・スターリンの「北朝鮮を捨てよ」という指示だった。国連軍の仁川(インチョン)上陸作戦後、敗戦の危機に直面した金日成(キム・イルソン)はスターリンに助けを求めたが、スターリンは「毛沢東に聞け」と退けた。中国指導部は戦争開始前に結んだ「事前援助」の約束にもかかわらず、2週間、決心できなかった。当時の状況では2週間は非常に長い時間だった。ウェザーズビー教授は「『今まさに内戦を終わらせたばかりで、世界最強の軍隊に対抗することはできない』という中国党指導部の反対も強かったが、さらに大きな問題は、ソ連空軍が中国軍の援護を拒否したこと」だと説明した。中国には空軍がなかった。援護なしで鴨緑江を渡るとなると、米空軍の爆撃に全滅する可能性があった。

 米国との全面戦争を恐れたスターリンは、最後まで空中援護を拒否し、中国は参戦をあきらめた。1950年10月にスターリンは金日成に「鴨緑江を越えて兵力を撤収させよ」という電報を送った。翌日、中国指導部が電撃的に参戦決定をしたことで、この命令はわずか1日で取り消しとなったが、この事件は金日成に大きな傷を残した。ウェザーズビー教授は「最も信じていたソ連が『北朝鮮を捨てよ』という命令を下したことは、金日成にとって大きな衝撃だった」として、「1945年10月からの金日成の演説集を読むと、スターリンに対する称賛であふれているが、1950年12月からはすべて消える。その頃に非常に大きな出来事があったことがわかる」と述べた。

 スターリンは停戦協議の際にも、北朝鮮を徹底的に利用したという。ウェザーズビー教授は「スターリンは交渉チームに『米国が提示するいかなる条件にも同意するな』という遅延戦術を指示した。朝鮮戦争の長期化がソ連の助けになると判断したためだ」として、「1951年1月に東欧の政治・軍事指導部がすべて集まった場で、スターリンは『米国は2~3年間、朝鮮に閉じ込められることになる。おかげでわれわれは、再武装する時間を稼ぐことができる』と述べた」と説明した。

 1952年を通じて、北朝鮮は米空軍の途方もない爆撃に苦しめられた。ウェザーズビー教授は「航空機が入れない狭い谷間にある建物を除くと、すべて消失した。米国の爆撃は北朝鮮にとって、あまりにもひどいものだった」として、「金日成は1952年初頭から戦争終結を望んだが、スターリンが許さなかった。ソ連はその間に軍隊を再建した。北朝鮮が物理的に破壊される代価として得たもの」だと述べた。

 ソ連空軍は「中国‐北朝鮮」補給線の維持のために、鴨緑江の橋だけは守ったが、決して鴨緑江を越えて北朝鮮領空に進入することはなかったが、これもまたスターリンの指示だった。ウェザーズビー教授は「鴨緑江の橋をめぐり繰り広げられた空中戦は、冷戦中に行われた唯一の『非公式』の米ソ空中戦だった。ソ連は飛行機に北朝鮮のマークを付け、北朝鮮軍服を着て戦った」として、「非常によく戦った。米国はその橋を最後まで破壊することはできなかった。しかし、北朝鮮領土が米空軍に蹂躙される間、まったく保護しなかった」と述べた。北朝鮮が感じた裏切りは強く深かった。

■逆転した力学構図…北朝鮮、「弱者のテコ」を手にする

 朝鮮戦争後、朝ソ関係は「逆転」する。米国によって深刻に破壊されたが、最後まで敗北しなかった「革命の象徴」になった北朝鮮に、共産圏諸国は途方もない支援を注ぎ込んだ。「米帝国主義に対抗した最前線の防御線」という地位は、北朝鮮にソ連への果敢な要求を可能にさせる「弱者のテコ」を握らせた。1960年以降の中ソ対立は、このようなテコをさらに強化した。

 象徴的な場面の一つは、1968年の「プエブロ号事件」以降の北朝鮮の態度だ。大統領府襲撃事件の失敗後、関心を他にそらすために「ソ連と協議せず」北朝鮮が米海軍の情報収集艦を拿捕すると、ソ連は爆発した。ウェザーズビー教授は「米国はソ連国境を取り巻くすべての核戦力を最高警戒態勢に引き上げ、事前に知らなかったソ連は怒りに満ちて金日成をモスクワに召還した。しかし、金日成は『忙しい』として行かなかった」と述べた。怒っても捨てるわけにはいかないことを、北朝鮮は知っていた。金日成の代わりにソ連に行った北朝鮮の国防相は、ソ連の怒りに満ちた悪口をすべて聞いた後、「必要な兵器リスト」を差し出して受け取った。

 中国との関係も同じだった。1983年のラングーン事件の直前、中国は米国指導部と北朝鮮指導部間の会談を斡旋していた。テロ計画を事前に知らなかった中国も怒った。しかし、北朝鮮を支援し続けるしかなかった。ウェザーズビー教授は「仲が良くない母親と父親の間を行き来して望みのものを勝ち取る『甘えん坊の子ども』戦略」だと説明した。

 1989年まで続いたこのような関係は、1990年にソ連が「お金」のために韓国を選んだことで、終わりを告げた。ウェザーズビー教授は「北朝鮮があらためて『誰も信じられない』ことを痛感した瞬間」だと評した。韓国との国交樹立計画の説明のため北朝鮮を訪問したソ連外相に、北朝鮮は「ソ連の独立共和国を国家承認する」「核兵器も開発する」と脅した。激怒したソ連は、1991年1月に予定されていたソウルとの関係正常化を、1990年9月に繰り上げたという。

 ウェザーズビー教授は「その後、ソ連は北朝鮮に『今後は、ドル・円・ポンドなどの外貨を支払って、市場価格で石油を買え』と言い渡した。ほとんど無料で与えていた石油だった。北朝鮮経済はその後、崩壊した」と説明した。

■ウクライナ戦争、その後の朝ロ関係

 この2年ほどの間に朝ロ間で起きたことは、35年前の流れとは正反対だ。歴史上初めてロシアには北朝鮮の助けが必須となった。ウェザーズビー教授は「古くて長い話が、ふたたび出発点に戻った」と評した。

 ウクライナ戦争が終われば、朝ロ関係は弱まるという主張もある。しかし、ウェザーズビー教授は、戦争が終わってもロシアにとって北朝鮮は、引き続き有用な存在として残るだろうとみている。ウェザーズビー教授は「ロシアの究極的かつ最大の敵は米国だ。韓国に米国が駐留する以上、北朝鮮は東北アジアにおいて米国の存在感を弱めるうえで、有利な位置にある。そのような点でロシアの役に立つ」と述べた。

 ロシアは経済的には虚弱だが、軍事的には強い。ウェザーズビー教授は「ロシア経済は弱くて規模も小さいが、過去数年間に『戦争経済』に切り替え、すべての資源を戦争能力の強化に用いた。それによって彼らは、かなりの水準の兵器技術を保有している」と評した。さらに、「その技術を北朝鮮に提供する可能性があるのは、強い脅威になりうる」として、「北朝鮮は、中国からよりロシアから、はるかに良いもの、たとえば、新しい軍事技術と産業技術を得ている。特にロシア発の新技術のなかでもドローンは、国境を接している朝鮮半島の状況においては非常に危険な武器だ。休戦ラインを越えてドローンを1機送り込むことは、本当に容易なこと」だと述べた。

 大きく変容した米国が、このような変化をさらに危険にさせているとみている。ウェザーズビー教授は「1990年にゴルバチョフはイデオロギー的に旧ソ連体制を放棄した。現在、トランプ大統領は、ゴルバチョフがしたことの正反対の方向に進み、同盟国を捨てている」として、「朝ロが近づくと同時に、米国が既存の同盟から抜け出ようとしており、危険だ」と分析した。

 ロシアと西側の対決も長く続くと予想した。ウェザーズビー教授は「現在のロシアは、宗教的な原理主義に近い民族主義で武装している。欧州は堕落しており、ロシアが『真のキリスト教を守っている』と考えている」として、「そのような考え方が存在する限り、ロシアは西側との対立をやめないだろう」と述べた。

ワシントン/キム・ウォンチョル特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/america/1191648.html韓国語原文入力:2025-04-09 19:51
訳M.S

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