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[コラム]生きた権力の捜査と“永生の権力”検察

登録:2020-12-02 10:31 修正:2020-12-02 12:08
ユン・ソクヨル検察総長が今年1月2日午後、ソウル瑞草区の最高検察庁別館で開かれた「2020最高検察庁新年誓い会」に出席している。左はハン・ドンフン反腐敗強力部長=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 検察改革を進めるのに、ここまで騒ぎ立てる必要があるのかと言う人が増えた。ただでさえ生活が苦しいのに、相次ぐ法相と検察総長の衝突でストレスが溜まる一方だというのだ。政権勢力が耳を傾けるべき話だ。しかし、だからといってせっかく9合目に来たのに、検察改革をここで止めるわけにはいかないこともまた自明だ。

 検察改革の目標は、検察の力を抑えて分散を図り、統制と牽制装置を備えることだ。これがなぜ重要なのかを聞かれたら、私は、国民の選択と委任で作動する民主的政治過程に検察が勝手に介入し、形勢を揺さぶる検察権力過剰の時代を終わらせるためと答えたい。

 選挙で選ばれていない権力が政治を牛耳った歴史を私たちは長く経験してきた。鉄拳を振るった軍部の政治的影響力は、民主化以降、急激に萎縮した。しかし、官僚の権力機関にまで完全に民主的な統制が及んだわけではなかった。むしろ法治の枠組みが重要視されたことで、検察という官僚機関の力はますます強くなった。

 それでもまだ、権威主義政権では検察出身の法務部長官や大統領府民情首席を通じて検察を掌握して操った。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、検察に独立性を与えて捜査に介入しなかった。しかし、その試みは失敗に終わった。制御装置を設けず、独立性を保証したことで、検察は暴走し始めた。文在寅(ムン・ジェイン)政権は、捜査には介入しないものの、統制と牽制システムを整えることを選んだ。

 それに対して、手足を切られまいと検察が反発しているのが今の状況と言える。高位公職者犯罪捜査処と捜査権の調整のようなシステムが作動する前に、改革の正当性を揺さぶる最後の機会とみているのだ。検察が捜査権と起訴権を独占する、世界でも類を見ない強力な権力機関であるからこそ可能なことだ。しかも検察は総長を頂点とする垂直的構造だ。帝王的な総長が何を目指すかによって、一糸乱れず独占的な強制力を使うことができる。

 その恐ろしい結果が韓国社会を震撼させた。ユン・ソクヨル検察総長は、チョ・グク法務部長官の任命に反対する自分の主張を貫くため、前例のない捜査力を投入し、表彰状から私募ファンドまで隈なく調べた。大統領の人事権や国会聴聞会という政治過程は徹底的に無視された。ところが、権力型不正とも言うべき重大な疑惑は、いまだに明らかになっていない。

 さらに、検察は蔚山(ウルサン)市長選挙への介入疑惑に捜査力を集中した。いかなる証拠も提示できず、大統領という肩書を35回も言及しながら、世論調査の結果を歪曲した内容を羅列した控訴状を提出した。これを受け、当時の未来統合党(現「国民の力」)は「大統領弾劾」を取り上げた。4・15総選挙を控え、検察が国民の選択への介入を図っているという疑念を抱かせた捜査だった。

 検察の過剰で筋書きありきの捜査は、保守系メディア、保守野党などと時に歩調を合わせたかのように行われた。保守野党を対象にした捜査は遅々として進まず、総長は朝鮮日報や中央日報のオーナーと会合した。検察が捜査すれば保守系メディアがそれを大袈裟に書きたて、また検察は捜査拡大で答える“増幅のらせん構造”が稼動した。

 ハン・ドンフン検事長が4月15日の総選挙を控え、「ユ・シミン(元保険福祉部長官、現盧武鉉財団理事長)の粗探しをしている」というチャンネルAの記者に「それはやってみる価値がある」、「そのうち一件でも見つかればいい」と答えた検察とマスコミの癒着事件は、有権者の選択を揺さぶろうとする“既得権同盟”の欲望を鮮明に表している。ユン総長はこうしたハン検事長を守るため“三重の防御幕”を張った。

 公正性をめぐり疑惑の声が上がる度に、検察が持ち出す魔法の呪文が「生きた権力の捜査」だ。「生きた権力の捜査」こそ正義という主張だ。その呪文を唱える瞬間、過剰捜査は気概に、偏った捜査は生きた権力と死んだ権力に対するバランス取りに成り代わる。しかし、生きた権力、死んだ権力はメタファーにすぎない。民主化された国家では「死んだ権力」である野党も議席数がある分だけ生きた権力を享受する。それに比べ、歴代政権で権力を振るってきた検察はまさに「永生の権力」だ。このすべての権力の不正を中立的かつ公正に捜査することが正義である。しかしユン総長は「生きた権力の捜査こそが検察改革」という荒唐無稽な発言で政治的中立を蹴飛ばし、“選択的正義”を正当化している。もちろんその選択を下すのは検察だ。

 統制から外れた国家機関が自らを権力化するという警告は、現代政治学と社会学が共に出した洞察だ。選挙で選ばれたのではない永生の権力による政治介入を遮断し、本来の位置を取り戻すのが検察改革だ。

//ハンギョレ新聞社
ソン・ウォンジェ論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/972317.html韓国語原文入力:20-12-02 02:42
訳H.J

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