本文に移動

[コラム]点数主義としての能力主義は公正か

登録:2020-09-12 06:17 修正:2020-09-12 07:54
[土曜版]来週の質問
フェイスブック創立者のマーク・ザッカーバーグ氏が2017年5月25日、米国マサチューセッツ州ハーバード大学で卒業式に演説を行っている。ザッカーバーグ氏はハーバード大学でコンピューター科学を勉強した/AFP・聯合ニュース

 試験が測定するのが「能力」である。そうした能力に基づいた「能力主義」は現代の過酷な階級システムを正当化する機能を果たす。能力主義は不平等の正当化をもたらすため、平等の実現をさらに困難にする。

 英国の社会学者、マイケル・ヤングが1958年に出版した小説『メリトクラシーの法則(The Rise Of The Meritocracy)』で展開した論旨だ。知能と能力が社会の原理になった2034年、未来の英国で階級化が固着し、暴動が起きる社会を描いた。同小説は著者と同名の主人公である学者マイケル・ヤングが暴動の最中に殺害されることで終わる。

 著者のヤングが戦後、英国で能力主義に基づいた教育システムを作り、英語で能力主義を意味する「メリトクラシー」という言葉を作り出した当事者であることから、同書はさらに大きな波紋を呼んだ。彼は公立学校を大幅に拡大し、大衆にも体系的な教育機会を提供しようとした。このようなシステムは、11歳になると知能検査を実施し、ブルーカラーかホワイトカラーの教育経路を決めるようにした。その後、子供たちは数回の試験で選抜され、高等教育を受ける機会を得る。高等教育を受けた生徒たちは社会を指導し、高い報酬を得られる職業に就く機会にさらに近付くことができるようになる。

 しかし、ヤングは自分が設計したこの学力(成績)に基づいた能力主義が機会の平等を利用して不平等を正当化する現実を、自分の小説に反映したのだ。今年初め、米国ではイェール大学法科大学院のダニエル・マルコビッチ教授も『メリトクラシーの罠(The Meritocracy Trap: How America's Foundational Myth Feeds Inequality, Dismantles the Middle Class, and Devours the Elite)』という著書で、学校の成績が中心となった米国の教育システムと能力主義を辛らつに批判して波紋を呼んだ。

 マルコビッチ教授は著書でヤングも批判した。彼によると、ヤングは能力主義自体が能力ではなくその人が生まれた環境に基盤を置くという点を理解していなかったと指摘した。特に、高校卒業者らを対象とした学力評価試験である「SAT」が導入されてから、能力主義の問題が深刻化したと見ている。

 SATに象徴される、試験の点数によって入学が決まるシステムは、アイビーリーグという大学を通じて固着化するエリート層の充員を作り出したと、マルコビッチ教授は主張する。過去に有閑貴族階級の子弟の自己満足的な教養学校だったアイビーリーグは、今や全米の学生を対象にする序列化の道具となっており、この道具をパスした学生だけが社会を牛耳って高年収の職業と職域を占めているというのだ。身分もバックもない平凡な子供が這い上がる上昇移動の機会はさらに減ったという分析だ。なぜなら、アイビーリーグ入学の秘訣は成績であり、その成績には家庭環境が決定的な影響を及ぼすからだ。

 マルコビッチ教授の著書は「代案は何なのか、出生に基づいた過去のエリート主義の方がもっと良かったというのか」という激しい批判を受けたが、能力主義とは果たして公正なのかという疑問を増幅させた。米国の高等教育ニュースサイト「インサイド・ハイヤー・エド(Inside Higher Ed)」の2015年の分析によると、SATにおいて、世帯所得が2万ドル以下の家庭の生徒たちが最も低い点数を、20万ドル以上の家庭の生徒たちが平均的に最も高い点数を獲得した。

 米国の50校以上の大学が、来年の入学選考の必須事項から、SATなど標準化された評価試験を除外した。特に名門大学であり米国最大の公立大学であるカリフォルニア大学は5月、標準化された評価試験を入学選考の必須条件にしているのを2024年まで保留すると発表した。そして、2025年までに新しい試験が開発されなければ、SATなどの標準化された評価試験を必須要件から永久に除外すると発表した。

 カリフォルニアの裁判所は、最初からSATを入学選考に活用できないように釘を刺した。アラミダ郡のカリフォルニア州高等裁判所は2日、カリフォルニア大学の全キャンパスがSATなど標準化された評価試験を入学選考で選択条件として使用することを認めない予備的禁止命令を下した。同裁判所は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で障害を持った生徒たちがSATなどの試験を受けるのに不利になったという理由を挙げ、SATの点数の高い非障害者の生徒にチャンスを与える結果になると指摘した。

 韓国社会で公正さが叫ばれている。医師国家試験を拒否する医大生たちは、彼ら受験エリートたちの言う「点数主義としての能力主義」が公正だと主張する。韓国社会の多数は、医学生のこのような公正さを拒否するに違いない。しかし、成績に基づいて階級の序列が決まるこのような能力主義を真っ向から拒否する合意は、韓国社会に存在するだろうか。特に公正さを叫ぶ20~30代はそのような能力主義が不当だと思うだろうか。一部の若者が仁川(インチョン)国際空港公社の非正規労働者の正社員化措置を非難し、考試院など狭いワンルームで暮らす人々が、総合不動産税が公正でないと心配している現実を見ての質問だ。

チョン・ウィギル国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/961853.html韓国語原文入力:2020-09-12 02:30
訳H.J

関連記事