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[コラム] 「良い医者」というファンタジー

登録:2020-08-31 02:17 修正:2020-08-31 09:48

 職業人を扱った映画やドラマの視点は、おおよそ2つに分けられる。検事、警察、記者、国会議員などは、大衆メディアの中ではこれ以上ないほど腐敗した存在としてか、現実には存在しない正義の使徒として描かれる。彼らが腐敗しているほど、ストーリーへの興味は増すものだ。

 「職業物」の中でも特別待遇を受けている職業が医師だ。医師が主人公の話は、たいてい「ファンタジー物」だ。神の手と人間の心臓を持った外科医が、生死の岐路に立たされている患者たちを生き返らせる英雄物語、または熱い職業精神を持った若い医者たちが繰り広げる成長物語が主だ。1970年代の手塚治虫の『ブラックジャック』をはじめ、日本のコミックスではこうした医療漫画が一つの系譜をなしている。韓国では主にドラマを通じて擬似ファンタジー物が人気を得た。「ホ・ジュン」に始まる韓国人の医師ファンタジーは『総合病院』、『白い巨塔』、『ロマンドクター・キム・サブ』などとして絶えず再生産されてきた。

 こうした作品を「ファンタジー物」と呼ばざるを得ないのは、現実ではブラックジャックやキム・サブに出会うことは難しいからだ。理由は2つほどではなかろうか。

 人を生かす仁術を施す医師は、死と生の問題を扱う「バイタル科」でしか出会えない。内科、外科、胸部外科、救急医学科、産婦人科などだ。医学部において、これらは別の名前でまとめられる。「胸泌外産」。業務は厳しく、医療事故のリスクは高いうえ、補償は比較的薄く、忌避される科だ。慢性的な人材難は、これらの専攻を選んだ医師たちをさらに厳しい現実へと追い込む。仁医となると決意して医学部に入学したとしても、驚くべき使命感の持ち主でなければ、「皮眼整(皮膚科、眼科、整形外科)」へと向かうのが世の常だろう。

 だがどうするのか。医師たちにこの「驚くべき使命感」を期待するのは徐々に難しくなるだろう。医者になるために必要な要件は使命感ではなく学業の成績だが、親の資産と子どもの成績の連動率は日増しに高くなっているからだ。上位0.5%の成績の医学部生を育てられるのは高所得層だ。実際、医学部生のかなりの数が高所得層の子女だ。2018年の韓国奨学財団の資料によると、国の奨学金などを申請して家計所得が確認されたソウルの主要大学の医学部生1843人のうち、高所得層に当たる所得9、10分位の学生は55%を占める。基礎生活受給者(29人)と次上位階層(基礎生活受給ラインの直上の階層、33人)に比べ、所得10分位(701人)と9分位(311人)は圧倒的に多い。

 医学部生や専攻医など、若い医療人材たちの反発は、この二つの脈絡を両方とも考慮してはじめて理解できると思われる。この闘いに青少年期と青年期を「全て賭けた」医師や医大生に、既得権益争いの性格がないと言えば嘘になるだろう。しかし一方で、忌避される科の問題は単に医学部の定員を増やしたからといって解決できる問題ではなく、公共医療の問題もより精緻な解決策が必要だということから、政府のアプローチに反発する人もいる。

 職業人として、医師たちも必要なら集団的に声を上げることはできると思う。ただ「今は国民のそばでともに痛みを分かち合う時」と言ったある「お医者さま」の言葉が心を打つ。愛する人の臨終を病院で見届けた人なら、どうして韓国社会が「病院ファンタジー物」に熱をあげるのかがよく分かるだろう。集中治療室の医者と患者。これほど一方向的な関係はこの世にあまりない。死にゆく患者にとって必要な処置とは何であるかは、医師だけが判断できる。患者の家族は医師の一言に黙って従うしかない。その一方的な関係の前では誰もが、自分の出会った医者が名医であり仁医であることを切に祈ることになる。だから「良い医師」はあらゆる人にとってのファンタジーだ。

 新型コロナの大流行の岐路に立たされた韓国社会は、応急処置中の患者も同然だ。今回の集団休診事態は、そのような意味で、医師に対する国民的ファンタジーを完全に壊した。30日、大韓専攻医協議会非常対策委員会は、集団休診を続けることを決定した。逆説的に、国民に対しては、医療体系の手術が必要だという考えを抱かせただけの決定ではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社

オム・ジウォン|事件チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/959937.html韓国語原文入力:2020-08-30 17:49
訳D.K

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