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[ニュース分析]「医師は足りている」「公共医療増やせ」…医学部定員拡大めぐり論争

登録:2020-08-06 09:17 修正:2020-08-06 11:20
医師協会が「医学部定員拡大」に反対し、ストに入る理由とは 

政府「医師数が足りない」・医協「人数は足りている」 
医協「地域医療の格差、診療報酬の低さが原因」 
リアルメーター「国民の58%が政府案に賛成」 
「医師の既得権維持」との批判も 
 
保健医療団体は「公共性をさらに強化」 
3~4つのエリアに公共医学部を作り 
政府と自治体の協力で「地域医師」管理を 
医療脆弱地の公共病院の拡充求める声も 
 
「10年間地域で服務」政府案の実効性に議論 
研修期間を含めた場合、地域勤務は4~5年のみ 
地域に定着しない医師の量産を懸念 
政府「地域で働くシステムを作る」

ユ・ウンヘ社会副首相兼教育部長官(左から2人目)が先月23日午前、国会議員会館で開かれた「医学部定員拡大および公共医学部設立推進案党政協議」に出席して発言している//ハンギョレ新聞社

 先月23日に政府と与党が打ち出した医師拡充案をめぐる論議が、ますます過熱している。大韓医師協会(医協)などの医師団体は、2022学年度から10年間にわたり医学部の定員を4千人増やすことにした政府案の撤回を求め、1日スト(集団休診)を予告した。これとは別に、保健医療団体は医師の拡充自体には賛成しながらも、「公共医療の強化」につながるには不十分な政策だとして、政府案の修正・補完が必要だと主張している。保健医療団体連合や市民社会団体などは、医師の人数を増やそうとしない医師団体を「既得権を守りたいだけ」と批判する一方、「エリアごとの公共医学部の設立」と「公共病院の拡充」が同時に行われなければ医師拡充の当初の目的を達成できないと指摘する。

■医協「医師が足りないわけではない」

 保健福祉部は5日、「現在10万人の韓国の医師数が経済協力開発機構(OECD)平均水準に到達するには6万人が足りない」と明らかにした。韓国の人口1000人当たりの医師数は2.3人(韓方医0.4人を含む・2017年基準)で、OECDの平均3.4人を下回っている。ソウル(3.1人)と一部地域(1.4~1.5人)の間で医師数が倍以上違うほど、地域間の格差も深刻だ。政府が絶対的な医師数を増やすのが急務だと判断したのもそのためだ。

 これに対して医協は、「医師の人数が足りないわけではない」と主張している。人口1000人当たりの医師の人数だけでなく、人口減少率や国土面積を考慮した医師密度などを考慮しなければならないと主張している。ソン・ジョンホ医協政策理事は「医師が不足しているのではなく、地域や専門、病院・医院の類型別にバランスよく配置されていないのが問題」だとし、「医療脆弱地は地域住民の数も少ないため、病院が定着しにくく、教育・住居などのインフラが足りず、国民が首都圏に密集している状況」だと述べた。医協は、地域間の医療格差をなくすためには、単に医師の人数を増やすのではなく、地域により高い医療報酬を適用するなどの支援策が必要だと見ている。

 しかし、こうした集団反発に対する国民の視線は厳しい。先月、リアルメーターが全国の成人500人を対象に行ったアンケート調査で、回答者の58.2%が「医学部の定員拡大に賛成する」と答えた。医師らのストライキは、2000年の医薬分業反対、2014年の遠隔診療反対以来3回目だ。経済正義実践市民連合(経実連)のナム・ウンギョン政策局長は「少数の医師が国民の生命を保護する業務を独占することで、自分たちの利益の最大化を図っている」とし、「福祉部が『集団利己主義』を放置せず、医師に業務開始を命令すべきだ」と指摘した。

「医学部定員拡大および公共医大設立推進方案党政協議」が開かれた先月23日、国会正門前で大韓医師協会が増員に反対するデモを行っている//ハンギョレ新聞社

■保健医療団体「公共性を強化すべき」

 基本的に医師の拡充に反対する医協とは異なり、保健医療団体などは政府案からさらに一歩踏み込むことを求めている。単に医師の人数を増やすのではなく、“公共医療”のために働く医師を育て、これを支える教育・医療システムを作らなければならないということだ。

 ソウル市立大学都市保健大学院のナ・ベクジュ教授(予防医学)は「既存の医学部の定員を毎年400人増やすだけでは地域公共医療に献身する優秀な人材を育てることはできない」とし、「全国を3~4つのエリアに分けて新しい公共医学部を新設し、地域ごとの特性に合わせた公共医学教育を実施するのが望ましい」と述べた。中央政府と地方自治体が協力して地域医師を教育し、管理する「新しい枠組み」を作らなければならないという主張だ。現在、政府が打ち出した推進案は、既存の国公立大学と私立大学の医学部定員を毎年400人ずつ増やす方式だ。全羅北道圏に2024年開校を目標に「公共医科大学」を新たに設立することにしたが、これは廃校になった西南大学医学部の定員(49人)を活用する水準にとどまっている。

 地域医師の義務服務期間から研修期間を除外するか、彼らが働く所を公共病院に指定すべきという主張もある。政府は拡大される医学部入学定員400人のうち、300人は「地域医師」特別選考で選ぶとしている。彼らは地域間の医療格差をなくすため、地域の医療機関で10年間義務服務しなければならない。ところが、義務服務期間にインターン(初期臨床研修)やレジデント(後期臨床研修)など病院での研修期間5~6年が含まれている。実際に地域医師として勤務する期間は4~5年にすぎず、その後、地域を離れる恐れもある。

 早ければ2028年から輩出される「地域医師」が働く地方医療院など公共病院の拡充も共に進めるべきという声も上がっている。保健医療団体連合のチョン・ジンハン政策局長は「公共病院である地方医療院を追加で設立しない限り、公共医学部を卒業しても勤務する所がなく、地域医師を育成してもほとんどが民間病院に勤務せざるを得ない状況になる」と指摘した。医療脆弱地に地方医療院などの公共病院を拡充する計画が共に施行されてこそ、「医学部の定員拡大」が「医療公共性の強化」や「地域の医療格差」の解消に貢献できると指摘されている。

 これに対し、福祉部のキム・ホンジュ保健医療政策官は「公共医学部の設立は既存の医学部の定員を拡大するより時間がかかり、良い医学部を作るのも容易ではないため、もう少し検討が必要だ」とし「地域の民間病院でも心・脳血管などを診療する医師が非常に足りないため、地域医師を公共病院だけに送るのは難しい状況」だと説明した。福祉部は「地域の病院に医療報酬を高める制度を導入し、必須重症医療サービスを提供する『地域優秀病院』を指定するなど、地域医師が義務服務期間後にも地域で活動できるように医療システムを改善していく」という方針を示した。

ファン・イェラン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/956656.html韓国語原文入力:2020-08-06 04:59
訳H.J

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