「鶏を殺して猿を脅す」。誰かに警告するために他の対象を懲らしめることを意味する中国の格言だ。トランプ米大統領が金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長との2回目の首脳会談を“ノー・ディール”で終わらせたのを見て、習近平中国国家主席はこの話を思い出したようだ。トランプ大統領は、会談会場から歩いて出た後の記者会見で「私は交渉の場から歩いて出てくることを全く恐れない。ことがうまく進まなければ、中国ともそのようにするだろう」とし、習主席に向けた警告を忘れなかった。
今回の会談が合意なしに終わった主な原因は、指導者の決断に過度に頼り、まともに準備ができていない状態で会談が開かれたためだ。実務陣が用意した合意文の草案には、終戦宣言と連絡事務所などはあったが、核心の核廃棄と制裁解除の範囲については二人の指導者が談判で結論を出すように空けてあったとみられる。トランプ大統領は寧辺(ヨンビョン)以外の核施設とミサイルをはじめとする大量破壊兵器(WMD)まで要求し、北朝鮮は寧辺の核施設を完全廃棄するとして制裁の核心を解除してほしいと要求した。お互いの間隙があまりに大きかった。
周辺要因もあった。国内政治で四面楚歌に処したトランプ大統領は、米国の主流の政界が懐疑的、冷笑的に見る北朝鮮との“不明瞭な”合意で非難に包まれるよりは、今月末に開かれる習近平主席との首脳会談で米中貿易戦争に関して中国の大きな譲歩を勝ち取ることによって、状況を覆せると判断しただろう。北朝鮮との会談会場を蹴って出てくる瀬戸際戦術で中国を脅し、譲歩または屈服を勝ち取るならば、支持率を一挙に引き上げられるという計算だ。
習主席は昨年の苦い記憶を思い出しただろう。2018年5月と7月に劉鶴副総理が率いる中国代表団は、ウィルバー・ロス商務長官、ムニューシン財務長官など米国代表団と貿易戦争を終わらせる暫定合意をした。しかし、トランプ大統領はこれを拒否した。中国政府が企業と先端技術開発を支援する経済政策自体を変えるべきだとし、要求レベルを大幅に高めた。
米国との核談判に臨むまで、金正恩委員長は中国との関係を確かめるために多くの努力を傾けた。習近平主席と4回の首脳会談をし、史上初めての朝米首脳会談のためにシンガポールに行く時は中国の飛行機を借りて乗り、今回ハノイまでは往復120時間を超える中国横断大長征をした。米国に向かって「私の後ろには中国という後援者がいる」ということを誇示しようとしたのだ。
しかし、現在の状況で習近平主席が朝米間の積極的仲裁者として乗り出したり、北朝鮮の困難な状況を主導的に解決しようとする可能性は低い。米国との覇権競争が最大の課題で、国内経済状況の悪化という深刻な挑戦も受けている。改革開放40年を逆に戻す政策方向に対する不満が広がる中で、今年は5・4運動100周年、天安門30周年、建国70周年など敏感な日程が並んでいる。中国は、北朝鮮の非核化を望みながらも、朝米和解が急速に進み中国の影響力が弱まったり、北朝鮮が米国側になびく可能性を遮断する次元で北朝鮮を管理してきた。
もうすぐ開かれる米中首脳会談で、中国が大幅に譲歩し貿易対立が一旦落ち着いたとしても、米中は下半期にミサイル問題をめぐり激突する状況だ。2月2日、米国が中距離核戦力(INF)撤廃条約脱退を公式化したことは、中国(と北朝鮮)を狙っている。1987年にレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長が結んだこの条約で、両国は射程距離500~5500キロメートルの地上発射ミサイルの生産・実験・配備を全面禁止した。だが、ボルトン国家安保補佐官をはじめとする米強硬派は、米国はこの条約に縛られている一方、中国のような挑戦者が意のままにミサイルを開発していると反発してきた。脱退宣言から6カ月以内に新しい条約を結べなければ、下半期からは米国が北東アジアに中距離ミサイルを大挙配備し、中国(と北朝鮮)を狙うことが可能になる。
朝米間の仲裁者の役割を受け持った文在寅(ムン・ジェイン)大統領の課題は重大で、時間も多くはない。米国の国内政治、米中葛藤までからまった複雑な方程式を解くことができる外交安保チームの再整備、懐疑論が深まった韓国の国内世論と米国政界を説得する努力も必要だ。平和の機会をこのまま逃すことはできない。