ドナルド・トランプ大統領が、取引(交渉)礼賛論者という事実は良く知られている。彼はかつて『交渉の技術』(原題はTrump:The Art of the Deal)という本まで出し、その本で「私は交渉を通じて人生に喜びを感じる。交渉は私にとってひとつの芸術」と明らかにしたこともある。こうした「交渉狂」にとって、今回の在韓米軍防衛費分担金交渉はとうてい実務者だけにまかせておけない誘惑だったろう。彼は、韓米間の交渉が真っ最中だった時、暇さえあれば「安保無賃乗車論」を口にし、防衛費分担金の大幅増額を圧迫し、昨年12月には「1.5倍の増額を望む」と具体的数値を米国マスコミにこっそり流して、圧迫強度を引き上げるなど「交渉の技術」を精一杯実践した。
結局、終盤まで産みの苦しみを味わった防衛費分担金交渉は、先日昨年より8.2%も増えた1兆389億ウォン(約1千億円)で妥結した。当初、韓国の交渉チームは「1兆ウォン以上はだめだ」という背水の陣を敷いたが、米国の大幅増額要求に最後まで抵抗することはできなかった。今回の交渉もとんでもない“見えすいた脅し”で危機を作っておき、後に適当に交渉の実利を勝ち取る“不動産開発業者”トランプ特有の交渉方式が通用したもう一つの事例として記録されるのではないかと思う。
交渉担当者の立場としては、米国の大統領が直接増額圧力を加えた状況で、この程度の結果ならばそれなりに「善戦したと言えるのではないか」と思えるかも知れないが、市民団体の評価は冷酷だ。永らく在韓米軍問題に関わってきた「平和と統一を開く人々」が出した資料によれば、防衛費分担金は2014年以後、毎年総額の10~20%程度を使い残して、2017年12月末現在の未執行防衛費分担金が1兆789億ウォン(約1千億円)に達している。また米軍は、2009~2017年に防衛費分担金を毎年平均1700~1800億ウォン(約170~180億円)ずつ平沢(ピョンテク)基地移転事業に転用したが、既に基地移転が最終段階に入っており、それだけ削減要因が生じた。それでも今回、李明博(イ・ミョンバク)政府時の2.5%、朴槿恵(パク・クネ)政府時の5.8%よりさらに大幅な増額を許したのは納得しがたい。
防衛費分担金から発生した利子所得の還収可否が不透明に処理されたことは、政府の約束違反だ。米軍は2002年から防衛費分担金を基地移転費用に転用するために使わず、米国防総省所有の銀行に積立し始めた。この積立金は、2000年代後半に一時1兆ウォンを超え、昨年6月基準でも未だ2880億ウォンが残っている。論議は、この積立金から利子所得が発生した事実が知らされて火が付いた。「米軍は私たちの税金で利子稼ぎをしているのではないか」と利子収益還収世論が激しくなると、政府は2014年4月、国会に利子所得部分を「次期交渉の総額規模などに反映させる」と報告した。
しかし、今回の交渉結果には政府の約束どおりに利子所得分の減額が反映されてはいない。外交部は、今回の交渉でこの問題を提起したと明らかにしているものの、具体的にどのように総額に反映されたのかについては、まだすっきりした答を出せずにいる。利子収益の規模は「平和と統一を開く人々」が裁判所などに提出した資料に基づいて算定したものによれば、2006~2007年の2年間だけで566億ウォンにのぼり、2002年から調べれば計3千億ウォン(約300億円)を超えると推定される。
今回の交渉は有効期間が1年なので、すぐにも来年分の分担金交渉に入らなければならない。トランプ大統領はすでに「今後さらに上がるだろう」とし、遠慮なくさらなる圧迫を予告している。それでもトランプ式交渉スタイルはもう初めてではない。体験してみただけに、政府の徹底した対備を期待する。