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[寄稿]座礁の危機に瀕した社会的妥協、「光州型働き口」

登録:2018-11-13 22:57 修正:2018-11-14 08:15

 社会的セーフティネットが脆弱で、直接賃金でほとんどすべての問題を解決しなければならない韓国では、賃金の下落は労働者を崖っぷちに追い立てることだが、現在のような労働内の深刻な格差、低い社会的賃金体制をそのままにするならば、正規職が享受する良質の働き口も持続できないだろう。

ユン・ジャンヒョン光州市長(左から5番目)が光州銀行など7カ所の事業場の労働組合委員長と昨年9月、光州市庁大会議室で「光州型働き口成功定着のために一緒に飛ぼう、光州!」イベントを行っている=チョン・デハ記者//ハンギョレ新聞社

 2015年から推進された光州(クァンジュ)型働き口事業が岐路に置かれた。光州市と現代自動車がそれぞれ530億ウォンを投資して、年間10万台の軽自動車を生産しようというプロジェクトが現代自動車労組と民主労総の反発により危機に置かれた。

 当初、光州の労使、市民社会と地方政府(労使民政)が合意して、適正賃金、適正労働時間、労使責任経営、元-下請け関係の改善を条件に、地域の働き口創出事業を推進しており、「社会統合型働き口」と呼ばれるように地域の深刻な経済危機を克服し若者の外部流出を防いで地域社会の皆が共生できる代案として推進された。

 今、韓国で地域経済の崩壊と深刻な若者失業は光州だけの問題ではないが、光州は民主化の象徴的な場所として労使民政が働き口の確保と社会的妥協を同時に推進できる相対的に有利なところと見なされた。ところが、新しい会社の労働者の賃金が、既存の完成車メーカーの正規職労働者の平均年俸の半分である4000万ウォン(約400万円)内外に策定されると、既存労働者の賃金が下向きになる圧迫を受けることになり、この工場がもう一つの下請け組立工場になる可能性も高いので労働側は反発する。

 労組側の反発は、結局賃金と信頼の問題に起因する。これまで政府の労働政策は、ほとんど労働側の譲歩ばかりを要求したので、労組側はこの案も結局は既存正規職労働者の労働条件悪化だけを招くだろうと憂慮する。そして、当初掲げた理想の連帯に基づいた働き口創出の精神は消え去り、投資誘致の成功の方に重きがおかれたのも労働側の不信を招いた理由だ。

 光州型働き口モデルの成功可否は、文在寅(ムン・ジェイン)政府の経済・労働政策だけでなく、韓国で社会的妥協、地域働き口創出の成否を分けるきわめて重要な懸案だ。労働者の年俸は低くなっても、法定労働時間を守り地方政府が住居・医療・教育など社会賃金で不足分を補填して、元-下請け関係を改善しようとした。それで今、光州市当局はもちろん光州地域の職業系高校の生徒や大学生もこれを必ず成功させてほしいと訴える。

 当初、光州型働き口モデルは、ドイツや米国の自動車工場の包容的労使関係と熟練形成、雇用親和的生産方式で企業の革新を図り、深刻な賃金格差と垂直系列化された生産方式の矛盾を改善する社会経済モデル構築という理想を持って始められた。すなわち、地域、企業、そして労働が共生できる新しいモデルを作り、韓国の他の地域、他の産業にも広げようという構想があった。しかし、こうした理想は多少屈折し、大企業と政界が率先垂範しなければならない元-下請け関係の改善、新しいガバナンス構築はほとんど議論されることもないようだ。

 労働側の憂慮は十分に理解できる。しかし、これが「悪い働き口創出」、さらには「政経癒着」と断定する民主労総の立場が妥当とは思えない。完成車メーカーの正規職の高賃金は、彼らの熟練や職能に対する報賞ではなく、相当部分は彼らを雇用した財閥大企業の独占的地位が与えたもので、その一部は若者、非正規職労働者、中小企業労働者の持分が移転されたものだ。社会的セーフティネットがきわめて脆弱で、直接賃金で老後・福祉・住居・医療などほとんどすべての問題を解決しなければならない韓国では、賃金の下落は労働者を崖っぷちに追い立てることに他ならないが、現在のような労働内の深刻な格差、年功中心の報賞体系、低い社会的賃金体制をそのままにするならば、正規職が享受している良質な働き口も持続しないだろう。

 もちろん、会社の経営危機、若者失業、地域経済危機について労組が責任を負うことはできないだろう。しかし、現代自動車労組や民主労総は「直接賃金」に執着する慣性に留まっているのではなく、社会賃金の拡大、熟練向上による実質的交渉力強化に乗り出さなければならない。そして地域社会の要求を無視して、直接賃金に死活を賭けるならば、さらに孤立する可能性が大きい。

キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長//ハンギョレ新聞社

 もちろん、韓電の敷地の社屋の買い入れに10兆ウォン(約1兆円)を支出した現代自動車が、その100分の1にも満たない投資をしたからといって、この事業に別に重さを置いているわけではないだろう。韓国の自動車産業の深刻な危機、特に中国市場での競争力喪失はきわめて深刻な事態だが、これまで自動車業界は主に自動化・モジュール化・外注化でコスト削減を推進してきた慣性を捨て、中小企業に対する略奪的支配を清算し、労使共生と熟練形成に基づく技術革新にまい進すべきだろう。もちろん政府は、経済民主化にさらに拍車を加え、労働側の信頼を得なければならない。せっかく用意された社会協約の機会を生かさなければならない。

キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/870107.html韓国語原文入力:2018-11-13 19:19
訳J.S

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