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[寄稿]終戦は正常国家の主権者になる道

登録:2018-06-20 01:25 修正:2018-06-20 10:41
キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長、新たな百年研究院長//ハンギョレ新聞社

 「核・経済並進」路線から「経済第一主義」路線に確実に切り替えた金正恩(キム・ジョンウン)の切迫感より、ことによると韓国の“乙(脆弱階層)”が一層切迫した状態にあるのかもしれない。終戦は、北朝鮮のみならず韓国の住民が主権者として尊重され、人間らしい扱いを受けて暮らせる世の中に進む第一歩になるだろう。

 歴史的なシンガポールでの朝米首脳会談で、金正恩委員長は「私たちの足を引っ張っていた過去」、「誤った偏見と慣行」を断ち切って「この場に来た」と強調した。

 彼が言う「過去」には様々な意味が込められているだろうが、韓国と北朝鮮が敵対的に共存することになり、北朝鮮を“正常国家”の道に出て行けなくさせた反米、核開発、軍事主義の鎖を意味するのではないかと考える。核保有は、トランプを会談に出させ北朝鮮の体制保証を勝ち取ることもできるが、北朝鮮人民の暮らしと幸福を保障することはできないということを彼はよく知っている。

 ところで「足を引っ張っていた過去」、「誤った偏見と慣行」は、北朝鮮だけにあるのだろうか?金正恩を朝米会談に出て来させたのは、韓国内の類似の「偏見と慣行」と断絶しようとする文在寅(ムン・ジェイン)大統領の意志から来ており、その意志はまさに韓国のろうそく市民が与えたのだ。絶対権力者である金正恩は、個人的に決断をしたかも知れないが、文在寅政府の南北首脳会談推進と朝米首脳会談媒介者の役割は、まさに冷戦と分断を利用してきた勢力が犯したあらゆる違法や不正、権力壟断をとうてい見ていられないというろうそく市民の怒りが集約された結果だ。

 しかし、朝鮮半島はもちろん、周辺国には依然としてこの戦争状態という正常ではない状態を「正常」と見なす既得権権力が確実に構築されており、彼らは朝鮮半島の平和に向けた動きを揺さぶりまくる。米国の軍産複合体と共和・民主の両既得権勢力、日本の右翼保守勢力は、朝鮮半島の戦争と緊張の受恵者だ。彼らの持続的宣伝と教育に洗脳された米国、日本、韓国の既成世代は、概して過去一世紀の間、日本と米国が朝鮮半島で何をしたのかを知らない。

 先日の地方自治体選挙前に自由韓国党は「国をまるごと渡しますか」というスローガンで選挙に臨んだが、選挙の結果は大邱(テグ)・慶尚北道と済州島(チェジュド)を除いてすべての広域自治団体が“青色”(共に民主党)に塗られ、洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表は「国をまるごと奪われた」と一喝して代表職を辞退した。70年の分断と敵対は、彼らに乾くことのない蜜の壺を提供したが、蜜の壺が壊れたとたん「国」が滅んだと叫んだわけだ。

 ところが、過去70年間の事実上の戦争状態は、北朝鮮だけを非正常国家にしたわけではない。韓国と北朝鮮は、鏡に映った“自分”のように、お互いに向かい合って立っている状態で存在したので、自分が動けば鏡の中の自分も動いた。そして、両側の権力者は他方の脅威を自分の権力を正当化する名分として活用した。韓国にとって北朝鮮は、自分と関係のない他者ではなく、自分の存在を規定してきたものであり、事実自分の内部に入り込んでいた。

 北朝鮮が正常国家に進めば、当然韓国も正常国家に進まなければならない。スパイねつ造、理念論争、公安追い込み、ブラックリスト、国家情報院の国内政治介入、国家保安法、これらすべてのものが過去の遺物だ。しかし、これは誰もが知っている非正常国家の最初の目録に過ぎない。こうした1次的な非正常性によって作られた2次的非正常性がある。

 それは、民主主義の欠損、安保と北朝鮮の脅威を名分にしたすべての形態の特権体制だ。政界と司法府の過度な特権、きわめて弱体化された市民社会、地方の植民地化、財閥、私学、大型教会の世襲などは、分断が作った新封建主義、すなわち“ヘル朝鮮”だった。“北朝鮮社会主義”という幽霊を使って享受してきた韓国のすべての特権秩序こそが、非正常の二番目の目録だ。造物主の上に不動産オーナーを座らせたこれまでの法と行政は、“私有財産”の“自由”を宗教レベルにまで昇格させた特権体制の結果だ。

 「核・経済並進」路線から「経済第一主義」路線に確実に切り替えた金正恩の切迫感よりも、ことによれば韓国の“乙(脆弱階層)”がさらに切迫した状態にあるのかもしれない。韓国の成長主義、物質主義、財閥集中、低福祉、公共領域の脆弱性など「社会」が失われたことで、韓国の青年、老年はもちろん、中年を含むすべての世代が幸せでない。終戦と平和がこうした経済問題をすぐに解決することはできない。しかし、終戦は北朝鮮のみならず韓国の住民が主権者として尊重され、人間らしい扱いを受けて暮らせる世の中に進む第一歩にはなるだろう。

 終戦は、朝鮮戦争を終わらせるだけでなく、南北が共に「正常国家」に進む道であり、日本を含む東アジアの民衆が正常国家の「主権者」になる道でもある。

キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長、新たな百年研究院長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/849752.html韓国語原文入力:2018-06-19 19:01
訳J.S

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