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[コラム]盲目と狂気で暮れる“朴槿恵時代”

登録:2017-10-17 00:45 修正:2017-10-17 08:05
16日、拘束延長後初の公判を終えてソウル中央地裁を出る朴槿恵前大統領//ハンギョレ新聞社

 化粧気のない顔に縁なし眼鏡をかけた朴槿恵(パク・クネ)前大統領は、見慣れた姿ではなかった。ピンの間から出た髪や首のほくろまでが悲しそうに見えた。

 ついに彼女が口を開いた。「このうえなくみじめだった」。「私的な縁のために大統領の権限を乱用した事実はない」。「法治の名を借りた政治報復」とも述べた。

 口から出る声がみな正しいわけではない。このうえなくみじめだったのは、彼女ではなく大韓民国の国民だ。前職大統領の墜落より一層見苦しいのはその厚かましさだ。彼女がいささかも誤りを悟れない理由は何だろうか?

 言っている通りであろう。「私を信じて支持して下さる方々がいるので、いつかは必ず真実が明らかになると信じるため」だ。

 支持者は「朴槿恵大統領は無罪」と泣き叫ぶ人々だ。国会の前庭に太極旗を並べ立て「朴槿恵大統領」と連呼する人々だ。警察と記者たちに悪口を浴びせる人々だ。朴槿恵前大統領の破廉恥と支持者たちの過激な行動は、前職女性大統領に対する普通の人々の最後に残ったかすかな同情心まで消しつつある。

 朴槿恵前大統領とその支持者は、いったい何を考えているのだろうか?誤りがないと確信する理由は何か?

 週末の14日、ソウル徳寿宮(トクスグン)大漢門(テハンムン)前の「朴槿恵大統領拘束延長糾弾国民大会」の集会場を訪ねてみた。スローガンが響き渡った。

 「朴槿恵大統領を救出するぞ、救出するぞ。文在寅(ムン・ジェイン)を打倒するぞ、打倒するぞ、打倒するぞ」。

 スクリーンに「国本の目標」という文字が見えた。「朴槿恵大統領救出および名誉回復、文在寅政権追放、従北左派完全処断、韓米同盟維持および強化、北朝鮮金正恩政権壊滅」

 少し離れた光化門(クァンファムン)交差点の東和免税店前では「太極旗行動本部」の文化祭とバザーが開かれていた。4人組のサキソフォン演奏、舞踊公演が興味をかきたてた。参席者の表情は明るかったが、メッセージは殺伐としていた。

 「文在寅は憲法によらずろうそく革命で政権を奪った。昨年、光化門には『問題は資本主義、答は社会主義』という旗が翻った。今、大韓民国が社会主義に向かっている。政府と権力機関を主体思想派と運動圏が掌握し、大韓民国の体制を変えようとしている。文在寅の積弊清算は単純な政治報復ではなく粛清だ。4番目の粛清対象は皆さん、太極旗部隊になるだろう」。

 非現実的で非常識な思考がエイリアンのようだ。なぜこのようになったのだろうか?思考を支配するのは情報だ。彼らはフェイクニュースを事実と信じる。フェイクニュースは彼らのチャットルームに溢れている。

 「民主化は1948年7月17日に完成された。光州(クァンジュ)5・18は武装反乱だ。金泳三(キム・ヨンサム)のIMF、金大中(キム・デジュン)のカード大乱が国を滅ぼした。彼らは民主化運動をしたのではなく反政府行為をしたのだ」。

 最近チャットルームに開城(ケソン)工業団地への電力供給説が出回った。2016年2月に中断された電力供給を、2017年3月31日の朴槿恵大統領拘束収監直後に南側が再開したという内容だった。トランプ米大統領がツイッターに「韓国の白痴(idiot)が北朝鮮の開城工業団地に電気を供給したが、これは国連の規定に完全に違反したものだ」と言ったというフェイクニュースを根拠に作られた、また別のフェイクニュースであった。

 事実でないという統一部の公式発表とマスコミ報道があったが、朴槿恵前大統領の支持者たちは受け入れなかった。政府当局はもちろん、“朝中東”をはじめとするすべてのマスコミが従北左派の統制を受けているというのが、彼らの確信だ。

ソン・ハンヨン先任記者//ハンギョレ新聞社

 “認知不調和”を“確証偏向”で解消することが“ポスト・トゥルース”時代の特徴だ。信頼と事実が衝突すれば、事実を排撃し信頼を守る。こうした状況になったのは、もちろん既存マスコミの誤りも大きい。陣営で組分けし、分かれて戦ったためだ。メディアの生態系の急激な変化を悟れずに需要者に教えようとしたためだ。

 とにかく心配だ。フェイクニュースで自分だけの奇怪な世界を創造していく人々がますます増えているようだ。朴槿恵前大統領と支持者がまさにそうだ。貧富格差、情報格差、文化格差より認識の格差がはるかに危険だ。事実に対する判断が最初から違えば、共同体の運命がかかったイシューを公論化できない。信念が行き過ぎて盲目と狂気に駆け上がるこの人々を、いったいどのように説得すればよいのだろうか。

ソン・ハンヨン政治チーム先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/814707.html 韓国語原文入力:2017-10-16 18:41
訳J.S(2013字)

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