ドナルド・トランプ米大統領が28日と29日二日連続で、在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備費用(10億ドル)を韓国が負担すべきと主張した。「THAADの配備および運営・維持費用は米国が負担し、韓国は敷地・基盤施設を提供する」という両国の合意事項は全く考慮されなかった。キム・グァンジン大統領府国家安保室長は30日、ホワイトハウスのハーバート・マクマスター国家安保補佐官と電話協議を行い、THAADの費用は米国が負担するという両国の合意を再確認したと明らかにした。
政府は一応安堵している雰囲気だ。しかし、国民は全く安心していない。マクマスター補佐官はトランプ大統領の発言が「同盟国の費用分担に対する米国国民の輿望を念頭に置いたもの」だと釈明した。米国国内の政治的要因によっては再び持ち出されるかもしれないという風に聞こえる。
ワシントンポストはこれを「狂人戦略(madman strategy)」と呼んだ。狂人であるかのように振る舞って相手に怯えさせ、今後の交渉で有利な地位を占めるための戦略ということだ。米国は来年の防衛費分担金交渉でトランプ大統領の発言を踏み台にして、韓国を強く圧迫できる位置に付いた。THAADの配備及び運用コストが分担金の増額を通じて、韓国政府に転嫁される可能性が高い。増加と大規模化の一路を辿っている韓米合同演習の費用やカールビンソン空母など米国戦略兵器の朝鮮半島への出動費用、米国産兵器の購買額なども、増額を圧迫する項目である。
キム・グァンジン国家安保室長は昨年7月の国会運営委員会全体会議で、THAAD配備費用が防衛費分担金の形で含まれる可能性はないのかという正義党のノ・フェチャン議員の質問に対し、「項目に入れば、含まれるかもしれない」と発言しており、今のような状況を予想できなかったわけでもない。当初、年末に予定されたTHAADが手続きを無視してまで急いで奇襲配備されたのは、キム室長が今年1月と3月に2回も米国を訪問して早期配備を強く要求したことと関連しているものと見られる。韓国が急いでTHAAD早期配備を要求したことが、トランプ大統領が韓国に費用を請求できる口実を提供したのではなかろうか。特に、キム室長のTHAAD早期配備要求が国会の朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾案可決の直後だったことから、安保の争点を浮き彫りにして弾劾世論の反転を狙ったのではないかという疑念を抱かせる。政府は昨年7月8日、「大統領の決心」だとして、いきなりTHAADの配備を発表した。大統領は弾劾されており、キム室長は1週間後には大統領府を後にする。残ったのは慶尚北道星州(ソンジュ)に奇襲配備されたTHAADとトランプ大統領が突然突き出した「10億ドルの請求書」だけだ。誰が責任を負うべきか。また、いったい何が起こっていたのか。キム室長が独自でTHAAD早期配備の強行を主導したのか、当時大統領の業務が停止されていた朴前大統領の指示はなかったのかなども、明らかにしなければならない。必要ならば、国会聴聞会も開かなければならない。きちんとした対策を立てるためにも、まず真相を究明すべきだ。