昨年春、米国ワシントンのシンクタンクで働いているミサイル防衛(MD)の専門家に会った。米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備問題について意見を交換していた途中、彼は役に立つかどうかわからないと言いながら、1枚のメモを差し出した。専門家の間で密かに伝わっていたこのメモで、米国防総省と防衛産業界が大騒ぎになっているということだった。メモは、陸海軍参謀総長が共同で作成し、当時のチャック・ヘーゲル国防長官に報告したもので、2人の4つ星将軍が署名したことから「8スター(8つ星将軍)メモ」と呼ばれるという。
メモの要旨はこうだった。2人の将軍は現場の司令官の評価結果をもとに、「潜在的な敵国の弾道ミサイルの脅威が日増しに強くなっており、米国のMD能力を上回っている」と診断した。また、米国のMD戦略は「現在の財政環境では持続不可能」とした上で、「今が米国本土と地域(東アジアやヨーロッパなど)MDの優先事項に対応する長期的なアプローチを開発する機会」だと進言した。これは、MDを実際に運用する現場の軍司令官たちが、現在のMDでは敵国の攻撃を防ぐに限界があるということを率直に表わしたものだ。
これまで米国防総省周辺では、MDの限界として、大きく分けて性能とコストの二つを挙げてきた。MDは「飛んでくる弾丸を、弾丸を撃って当てること」であるだけに、技術的な困難を伴う。代表的なのが欺瞞弾(Decoys)の識別だ。詐欺弾は敵が本物の弾頭と同様の弾頭でMDのレーダーやセンサーを妨害する戦術のことをいう。古くから限界として指摘されてきこの問題は、まだ米国が解決できていない難題だ。
また、国防予算を削減しなければならない米国防総省としては、天文学的な資金が必要とされるMDの開発と生産に、いつまでも資金を投入し続けることはできない。特に敵国は、米国とは異なり、比較的低コストで弾道ミサイルを生産できるという点が致命的な弱点となっている。ロシアの場合、米国のこのような限界を把握し、弾道ミサイルをより多く生産することで、米国のMDを圧倒する対応戦略を取っている。
ワシントンでは、司令官たちのこのような問題提起に、国防総省とミサイル防衛局(MDA)がいかに対応するかが焦眉の関心事だった。それに合わせたかのように、戦略国際問題研究所(CSIS)で昨年1月、ジェームズ・シリング・ミサイル防衛長官を招待してセミナーを開催した。彼は二つの注目すべき発言を行った。第一に、彼は欺瞞弾のような敵の妨害装置の識別問題を「MDネットワーク全般にとって重要な課題」と規定し、「これはTHAADのような武器システムでも課題となっている」と明らかにした。まだこれといった解決策が見つからないということだ。第二に、彼は「私たちは、財政的な懸念の中で、MDプロジェクトを完遂しなければならない」とした上で、「誰かに(THAADなど)ミサイル迎撃機を購入してもらう必要がある」と述べた。予算の制約の中で、MDの開発と生産を続けるためには、THAADなどを販売し、財源を確保しなければならないということだ。
これと関連し韓国の国防部が先月12日、記者懇談会でTHAADと関連し、明らかにした内容のうち、次の二点が注目を集めた。第一は、詐欺弾の識別はレーダーの基本で、当然(識別が)可能であるという回答だった。第二は、THAADが在韓米軍によって配備されるため、韓国の費用負担はあまりなく、THAADを今後購入する予定もないということだった。
しかし、ワシントンの気流からして、このような回答は、事実上、国民を欺くものだ。米国のミサイル防衛局でも課題と認めている欺瞞弾の識別問題について、韓国の国防部は何も問題がないと言い張っているのだ。また、“甲”(優位に立つ人)の位置にある米国が、予算上の困難を経験しているのに、米国のお金だけで韓国にTHAADを配備し運用するという主張は、常識的にも納得できないものだ。
韓国語原文入力::2016-03-23 19:33