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[寄稿]慰安婦問題の合意に拘束力はあるのか

登録:2016-01-05 03:21 修正:2016-01-05 22:22
ユン・ビョンセ外交部長官(右)と岸田文雄・日本外相が12月28日午後、ソウル世宗路の外交部庁舎で各自が発言する形式で日本政府の責任認定など慰安婦被害者問題の解決方案と関連した共同記者会見を行っている =キム・ポンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 つい最近まで「強制従軍慰安婦」問題で朴槿恵(パク・クネ)大統領に押され気味だった安倍首相が繰り出したカウンターパンチ1発で、韓国政府と国民の両方が呆気に取られた状態だ。比較的落ち着いて着々と事を進めている日本とは異なり、韓国はこの合意で蜂の巣を突かれたような大騒ぎだ。政府はうまくいった合意だとし、野党は外交の惨事と主張する状況で、合意が口頭で発表された直後から、日本のマスコミからは裏合意を疑わせる様々な報道が相次いで出ている。今回の合意の中で最も重要な争点の一つは、韓国政府と国民が今後例外なく合意内容を遵守すべきかどうかだ。両国外相が口頭で発表した合意内容に「最終的」「不可逆的」という強い文言が含まれているからだ。安倍首相も「ここまでやった上で約束を破ったら、韓国は国際社会から葬られる」と脅かしたという。このため今後、この合意が韓国の足枷になるのではないかと懸念する声が上がっている。

 結論から言うと、強制従軍慰安婦と関連した今回の韓日合意には法的な拘束力がない。今回の合意は、国際法上の“条約”ではないからだ。1969年ウィーン条約法条約第2条によると、条約とは、様々な名称にもかかわらず、「書面で作成され、国際法によって規律される国家間の合意」を意味する。そしてそれは、国際法上の規定された締結の手続きと形式を備えなければならない。すなわち、両国間であれ多国間であれ、正本が文書で作成され交換されるべきであり、国家元首の承認を得なければならない。そして、憲法第60条に該当する条約の場合は、国会の批准と同意を得なければならず、国連憲章第102条に従い、国連に寄託しなければならない。だが、今回の韓日合意は文書化された正本が存在せず、両国の外相が口頭で発表しただけで、その内容さえも異なっている。条約の正本に必ず含まれるべき合意の目的や紛争の解決方法、退会規定などに不備があるのは言うまでもない。したがって、条約として成立するには、国際法上の基礎要件さえも整っていない。

 条約ではなく、合意では主権国家を拘束できない。今回の合意は、両国政府の間で特定の事案に対する立場の調整を口頭で明らかにした程度のレベルであるため、私たちの国益に著しく反する場合、今後、韓国政府や国民は、この合意に従う必要はない。どうせ情報操作で不合理な合意さえも蔑にしたのは、安倍首相自身だ。日本のマスコミが内閣調査局や外務省が流した情報を得て報道したことは言うまでもない。突き詰めれば、この情報操作の企画と脚本は安倍首相によるものだ。戦争中に国の緻密な企画に応じて数十万の女性を拉致、監禁、暴行、強姦、殺害した人類最悪の国家犯罪に対して、道義的な遺憾を表明しただけで、10億円で今後のすべての責任から逃れようと主張する安倍首相と日本政府が、「合意は守らなければならない」(Pacta Sunt Servanda)という国際法の大原則を掲げ、韓国政府を圧迫できるだろうか。その強引さに愕然とせざるを得ない。

イ・ヨンジュン東国大学法学部教授//ハンギョレ新聞社

 しかし、このような日本の外交的な計算に気づかず、被害者の同意も得られないまま、突然嘆かわしい合意を推進した韓国政府の外交当局者と、合意の国際法的性格をじっくり確かめようともせず、政治的スローガンだけで政府を圧迫しようとする政界も、今回の対日外交の失敗の責任を免れない。このようなことがある度に、果たして李完用(<イ・ワンヨン>日露戦争後に大韓帝国の外交権を日本帝国に渡す内容の日韓交渉条約の調印に賛成し、これを批准した人物)が私たちと全く異なる完全な悪人だっただろうかという疑問を抱くようになる。彼も、当時の朝鮮で誰よりも国際情勢について優れた識見を持っており、流ちょうな英語を駆使した、優れた外交官だった。プライドと信念を捨てる瞬間、誰でも乙巳五賊(国賊)になるということを、肝に銘じておかなければならない。

イ・ヨンジュン東国大学法学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2016-01-04 18:36

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/724614.html 訳H.J

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