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[寄稿]朴槿恵大統領が目指すべきは「選挙の女王」でなく「技術の女王」

登録:2015-11-22 23:44 修正:2015-11-29 00:21
最近ソウル大工学部教授26人が出版した『蓄積の時間』 //ハンギョレ新聞社

 「選挙の女王」は朴槿恵(パク・クネ)大統領のニックネームだ。 朴大統領がこの呼び名を好んでいるかは分からないが、ぜひとも恥ずかしがるなり不快に思って欲しい。 選挙と政治的攻防に長けていても、それは国民の幸福の役には立たないのみならず、歴史に残る業績にはなりえないからだ。 朴大統領が自身の大学での専攻に相応しく“技術の女王”に生まれ変わったらどうだろうか? そのような意味で最近ソウル大工学部教授26人が出版した『蓄積の時間』という本の一読を薦めたい。工学者たちの話で構成された硬い本だが、韓国の未来を憂う気持ちで読めば申し分なく興味深く有益な本だと信じるためだ。

 最近、70代の老夫婦が雑貨屋とパン屋の配達など様々な苦労をして、一生かけて貯めた全財産75億ウォン(約7億8千万円)をKIST(カイスト)に寄付したという感動的な“事件”は何を語るのか? 老夫婦が国家の発展に寄与する最上の方法として科学技術人材の養成を選んだという事実が私たちに投げかけるメッセージは何か? 今のままではいけないという迂迴的呼び掛けではないだろうか?

 韓国経済の危機兆候を指摘することから始まる『蓄積の時間』は、韓国の科学技術の発展を妨げる障害要因を実感できるように告発している。 読む人の胸を重く抑え付けるのは、そのような障害要因は解決できるにもかかわらず解決すべき位置にある人々が何の関心も示さずに各自が生き残りのみに没頭しているという事実だ。

 韓国の研究開発(R&D)予算は世界最高水準なのに、一体何を言うかと問い返すかも知れないが、重要なことは格好ではなく実質だ。 政策関係者にこうした方が良いと話しても「米国、日本、ヨーロッパがしないのに、なぜ韓国が行わなければならないのか。 ベンチマーキングする対象がないからだめだ」と断ったという証言がそのような実状をよく物語っている。 一般企業にも優秀な研究開発人材が多くいる先進国とは異なり、韓国は高級科学技術人材の83%が大学と政府の外郭研究所に集まっているので、先進国と同じ方式で国家研究開発政策を運用してはならないのに、このような特殊性は全く考慮されない。 先進国の流行に追従するばかりで韓国の市場や産業現場とはかけ離れた研究を行っている比重があまりに高いということだ。

 教授の採用と昇進に絶対的影響を及ぼす論文もそのような流れに従属し、技術の実用化を考えもせずに産学協力を虚ろなものにしている。「韓国の産業を牽引するような新しいものを開発し世界的な特許を出したとしても、論文がなければ現在の韓国の基準では任用されない」と言うのでは、果たして何のための工学部なのかを問わざるをえない状況に達した。

 韓国の半導体産業が世界的競争力を持つようになった決定的理由は、「最高の人材が怒涛のように流れ込んだこと」だったが、今やそのような時期は過ぎ去り、3大サービス業(医療、金融、法律)が理工系の核心人材をさらっていき、国家的次元での人的資源活用をねじ曲げるという深刻な問題点を示している。 最も優秀な人材が集まる医大や大学病院は、研究開発を遂行する環境が全くできていないし、その最高級の人材は創意的でないことばかりに没頭している。

 このような問題点を説得力をもって指摘した『蓄積の時間』は、「技術者を優待した国家が産業社会の主導権を握った」という常識を再確認させ、韓国社会全般の覚醒を促している。 大企業が中小企業の発展を阻害している現実で、ソウル大工学部は大企業ではなく中小企業を中心に産業現場の問題を解決することによって評価されなければならないなどの提言も印象的だ。 全国的に各地域の工学部が地域の実情に合わせてこのような本を出してはどうだろうか?

カン・ジュンマン全北大新聞放送学科教授 //ハンギョレ新聞社

 技術の蓄積に関心がなく、技術はアウトソーシングすれば良いと考えるなど「技術の価値を理解する経営者がいない」という指摘は、政府と政界の場合には、これ以上言ってもどうにもならないという悲観的な考えを呼び起こすが、“技術の女王”が積極的に取り組むならば変わりうる問題ではないだろうか。 朴大統領の国家的課題認識において科学技術が最上位に跳ね上がること期待する。

カン・ジュンマン全北大新聞放送学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/718520.html 韓国語原文入力:2015-11-22 18:45
訳J.S(1874字)

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