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[コラム]賃金ピーク制にみる世代間共生はしん気楼

登録:2015-09-29 22:23 修正:2015-09-30 06:14

 今、韓国のすべてのKTX(高速鉄道)の座席や街頭にはためく垂れ幕、郵便局の待機画面など、いたるところに「労働改革は私たちの娘や息子の仕事です」といういわゆる“労働改革”のスローガンがあふれている。 これを見たら、成果も出せないのに青年たちに席を譲らない利己的な既成世代になった気がする。

 本当にあきれたスローガンだと思ったが、冷静になって考えてみることにした。政府や韓国経営者総協会(経総)が賃金ピーク制の対象としている被雇用者は、主に公企業や財閥大企業に勤める50代以上の正社員だ。 企業家団体はこれらの雇用硬直性が過度に高いとかなり以前から主張してきたが、来年60歳定年導入を実施すれば企業の負担がさらに大きくなると訴えてきた。

 現在韓国で大企業の正社員の規模や財閥企業全体の被雇用者も経済活動人口の8%程度である200万人程度に過ぎないので、このうち賃金ピーク制が適用されるであろう50代以上の正社員被雇用者は100万人を超えないだろう。すなわち「子供の働き口を奪い取って」 “絶対安全な雇用”を守っている労働者の数はいくら多く捉えても100万人程度で、これらも60歳定年まで勤める確率は低い。

 ところで、賃金ピーク制を導入したり成果が低い人々を簡単に解雇できるならば企業はその分で青年を雇用するだろうか? そしてそこは果たして良質な働き口であろうか? 最近10年間、財閥企業の雇用規模は一貫して減少したし、財閥企業であるほど非正社員の比率が高いことも明らかになっている。すなわち、この制度を施行しても大企業が削減する人件費は彼らが現在社内に留保した700兆ウォン(約70兆円)以上の留保金の5%にもならないだろうし、そうして増えた仕事も良質な仕事である可能性は殆どない。 現在、韓国の国民所得のうち労働者に支払われる分(労働所得分配率)は、経済協力開発機構(OECD)加盟32カ国中の24位という下位圏に留まっていて、低所得労働者の比率は米国に次ぐ2位に上がっている。 全体所得のうち労働者の取り分がひどく低いので、良質な仕事が増えなければこの政策は消費拡大、経済活性化にも何の役にも立たないだろう。

 年功賃金の慣行が残っている韓国の実情で、正社員を解雇することは容易でない。 しかし、非正社員の雇用柔軟性は過度なほどに高く、労働市場の不安は世界のどの国より高いので、実際には90%の労働者は雇用不安、低賃金、そして職場の不公正に苦しんでいる。 韓国の労働者のうち10年以上の長期勤続者が19.7%に過ぎないという事実、労働者の権利水準が139カ国中でほとんど最下位にあるという事実がそれを物語る。

 結局、企業家団体の念願をほとんどそのまま受け入れた韓国政府は、100万人程度が“享受している”そのわずかな“特権”を公共の敵だとして、“世代間対立”という欺瞞的構図をしつらえた。 雇用労働部や労使政委の合意案を見れば、使用側が将来することは全て“努力”の問題であり、労働側にとっては直ちに首を締める措置だ。 事実この間の正社員の“過保護”は、大企業による上層労働者の抱き込み費用であったし、韓国労働市場の不合理性の結果であった。 李明博(イ・ミョンバク)政権5年間に財閥企業の純資産が何と77.6%も増加した裏面には、大多数の韓国の被雇用者や零細自営業者の雇用不安、生活苦、自殺、破産、そして“奴隷契約”による血涙があったということを記憶しなければならない。

 正社員教授である私は、有能な博士失業者の困難な境遇を考えれば教授職の賃金ピーク制が必要だと考えてきた。 私学財団が高年齢教授の給料削減分を正社員教授の採用に回すという保障をし、年俸調整や新規教授採用過程が合理的で透明に行われ、協約に違反した私学を処罰できるならば、それを受け入れる用意がある。

キム・ドンチュン聖公会大社会科学部教授 //ハンギョレ新聞社

 今、韓国では青年のみならず父の世代、老人世代などすべての世代が不幸で不安だ。 もちろん青年失業は直ちに解決することは難しい。 しかし財閥に対する不適切な課税、技術革新不足、そして零細自営業者に対する“優位者の横暴”を先に論じてこそ国民の共感を得ることができる。

キム・ドンチュン聖公会大社会科学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/710655.html 韓国語原文入力:2015-09-29 18:33
訳J.S(1881字)

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