MERSで国民は恐慌状態に陥っているというのに、大統領府は無益な喧嘩ばかりしている。国会法改正案を巡る国会や与党との対立に続き、5日にはソウル市のパク・ウォンスン市長の前日の記者会見を批判した。政府と国会、地方自治体が一体となり総力を挙げても足りないこの時期に、こんな対立と葛藤を見せられる国民は悲嘆に暮れるばかりだ。
パク市長の記者会見が適切だったか問う前に、まともな政府ならソウルの大型病院の医師が、メルス症状が疑われるのに1500人もの人が集まる再開発組合の総会に参加した事実の危険性を認識し、直ちに対処することが優先されるはずだ。その場所に集まった人に正確な状況を知らせ、追加感染の可能性を遮断すべきだった。だが、保健福祉部は組合員名簿も入手できず右往左往した。この医師にMERSを感染させた患者は、市外バスに乗って病院の応急室に来たというが、正確な移動経路と同じバスに乗った乗客もよく分からない。伝染病は行き過ぎと思うほど迅速かつ徹底して対応するのが重要なのに、政府の対応はMERSウイルスよりはるかに遅く、そして非体系的だ。
いったいなぜなのか。今政府が抱えている最も大きな問題は、MERSとの戦争を指揮する指令塔がないことにある。MERSと戦う第一線の責任者はムン・ヒョンピョ保健福祉部長官だ。しかしムン長官は相次ぐ判断の誤りと能力不足で、前線に何度も穴を空けてしまい、国民と医療界からの信頼を失った。国務総理は空席だ。副総理でも中心になってすべての部署の力量を動員しなければならないが、現政権はそんなことすらできなかった。
窮極的にMERSのような国家災難水準の伝染病対処は、大統領と大統領府が中心に立って指揮するものだ。そうすることで国民は安心し、政府・民間の力量も効率的に動員することができる。国会の法的・制度的支援を速かに受け、地方自治体と緊密に協調して地域状況を統制することもできる。だが、今まで大統領府は、仕事を後回しにし、状況を見守っているように見えてしまったのが現実だ。
一例として、キム・ソンウ大統領府広報首席は5日、パク市長の記者会見を批判し「ソウル市と福祉部は互いに緊密に協力すべきと考える」と述べた。その“緊密な協力”ができるようにする主体が、他でもない大統領府と大統領であるという事実を忘却したまま、あたかも第三者のように話している。大統領府参謀がこんな暇な話をしていては部署間協力が素早く進行されるはずはなく、対応も体系的であるはずがない。事態収拾のゴールデンタイムに、保健福祉部が患者の動線と接触者の把握だけに数日も浪費しているのは、そのためではないだろうか。
繰り返しになるが、大統領は第一線でMERS対応を陣頭指揮しなければならない。必要ならば中央メルス管理対策本部で直接会議を主宰し、5日に国立中央医療院を訪問したように現場を訪ね、国民を安心させなければならない。信頼を失った長官を前面に立たせたまま、自らは後で見ているだけではMERSとの戦争に勝つことはできない。
韓国語原文入力:2015-06-05 22:25