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[記者手帳]“円安空襲”警報をどう読むべきか

登録:2015-04-30 20:46 修正:2015-05-01 06:39

 人生においては速度より方向が重要だとしても、為替レートの世界は違う。 速度は方向を断然圧倒する。 高み(為替レート水準)より数倍恐ろしいのが雪崩れ現象(急激な切上げ、または切り下げ)だ。 冷酷な国際金融市場の生理は、体力の弱い通貨が雪崩れ現象を起こそうとすると“急変針”攻撃(為替投機)に乗り出したい誘惑に陥る。 自然発生的“復原力”の喪失は、おそらくその通貨が直面する最も不幸な運命だろう。 スペイン銀貨がヨーロッパ全域をカバーする基軸通貨として登場した16世紀以来、多様なバージョンで数えきれない程に繰り返される“外国為替危機”ドラマの基本公式だ。

 近頃、ウォン・円為替レートの急激な下落傾向(円安・ウォン高)に関わる話が増えた。 ウォン(韓国ウォン)に対する日本円の価値が100円当り800ウォン台に下落したのは7年2カ月ぶりだ。無制限に日本円を市場に吐き出すアベノミクスの登場から約3年、日本円に比べ韓国ウォンの価値は70%近く騰がった。自動車・船舶・石油製品など韓国の主力輸出製品の海外市場競争力にとって決して有利でない環境であることだけは間違いない。 あちこちで“円安空襲”警報が騒がしく鳴っている背景だ。

 もちろん韓日両国の経済競合度は以前より大幅に減っている。 海外生産の比重が拡大し、両国共に価格よりはブランドのような非価格競争力の影響を強く受ける成熟段階に進入したためだ。 過度に騒ぐ必要はない。

 それでも最近のウォン・円為替レートの動きの中には、冷静に探ってみるべきいくつかのポイントが隠れている。 まず、短期的には騰落を繰り返すが、傾向的にはウォン・円為替レートの下落が相当期間続く可能性が高い。 日本政府の無制限な金融緩和政策基調が変わらない限り、日本円の構造的劣勢は“定数”に他ならない。 最近、国際信用評価のフィッチが日本の国家信用等級を引き下げたのはこれと無関係ではない。 反面、ウォン高傾向を簡単に戻せるだけの要因は多くない。 韓国経済は現在36カ月連続で経常収支黒字を続けている。 輸出と輸入が同時に減る“不況型黒字”が、むしろ韓国ウォン価値を支えるという逆説的状況だ。すっかり萎んだ内需も、海外消費と輸入を増やしてウォン高を和らげる力にはなれない。

 ことによると一層重要なのは、国際政治秩序の裏面に隠れた力の論理が主要国の通貨価値変動に及ぼす影響力がますます大きくなっている現実かもしれない。 「強いドルと弱い日本円」パッケージは、実際のところ米日新同盟戦略の経済バージョンと解釈するのが正しい。中国を牽制しようとする米国の立場では、米日防衛協力のための指針の改定と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)だけでなく、円安カードというもう一つの“ニンジン”が必要なわけだ。 もちろん米国としてもむやみにドル高傾向を放っておくことはできない。 自国内の非難世論が水面上に浮上するたびに、米国政府は日本を除く他の国々に対する通貨切り上げ圧力を適切に駆使する戦略を展開するだろうと専門家たちは見通す。 先日、米国政府が前例のない強いトーンで韓国政府の“市場介入”を批判する為替レート報告書を出した事実は示唆するところが多い。

チェ・ウソン論説委員 //ハンギョレ新聞社

 通貨の相対価格である為替レートは、結局数字の後方に隠れた国際政治の鏡だ。危機に陥らない力、危機に耐える力は当然ファンダメンタル(基礎体力)だ。 だが、国際政治の地殻変動、微細な亀裂こそがある瞬間に危機の起爆剤になることを、歴史は数多くの事例で証明している。 アジアインフラ投資銀行(AIIB)の事例に見るように、2015年の国際金融舞台は昔のものと新しいものとの間の力比べになる。 円安空襲警報を単に大げさとは言えないのは、経済と外交分野を網羅する現政権のあまりにもみすぼらしい見識と対処能力を確認したためだろう。

チェ・ウソン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/689236.html 韓国語原文入力:2015-04-30 18:25
訳J.S(1760字)

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