アベノミクスの呪文にかかった日本円の劣勢が続いている。アベノミクス(に対する期待)が本格化する直前に70円台後半だった円ドル為替レートは120円を越えた。日本円の価値がドルに比べ実に50%以上も下落したのだ。
通常、一国の通貨価値が劣勢となるのは否定的な意味を持つ。資金が国外に抜け出て国家の競争力に対する不安が大きくなった結果と見るためだ。だが、今の日本の場合は、かえって円安がアベノミクスの景気回復努力に対する信頼を反映しているものと解釈される。円安によって輸出が増え企業実績が改善される一方、株価の上昇でデフレーション危険も緩和されるという論理だ。こうした円安発の順風は日本のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムの安定でも確認される。一般的にCDSプレミアムは一国の対外信用度を現わす尺度と見なされる。その値が低いほど対外信用度が良いという意味だ。
だが、最近は円安がより一層加速される過程で、日本のCDSプレミアムが急反騰している。今年10月末の大規模な追加通貨浮揚策にもかかわらず、最近の日本の消費税率引き上げ留保および早期総選挙実施などによりアベノミクスに対する信頼が弱まり、政策失敗の憂慮が大きくなっているのだ。こうして見ると最近の円安は以前とは異なり一種の否定的な信号になっていることになる。
だが、日本円は本来安全通貨だ。したがって日本に対する信頼弱化は概して日本からの大規模な資金流出ではなく、むしろ資金流入を招く傾向がある。低金利の日本円資金を借り入れて海外投資(円キャリートレード)をした外国人投資家が日本の金利上昇で損害を受けて関連取り引きを清算したり、日本の金融機関が国内損失を埋めようと海外投資を還収しようとするためだ。
その結果、日本円は対内外不安が高まる度に強まる様相を見せる。実際に低金利と円安を活用した円キャリートレードや日系資金の海外投資が増えてきた。最近の日本の公的年金(GPIF)の海外投資拡大の便りもこうした気流の一助となった。
韓国経済の基礎は丈夫、CDSプレミアム下落
ウォン・ドル為替レート急落の危険が大きくなる
企業論理に重点を置いた高為替レート執着から脱却すべき
金融危機前の政府実験の失敗に反省必要
短期的にはアベノミクスの信頼性の問題で円安がさらに進展する可能性があるが、そろそろ限界に近付いているのではないのか点検が必要だ。すでに日本の内部でも円安による利益と弊害に対する論争が高まっている。円安は輸出大企業の実績を増すだけで、実際の輸出や景気改善効果には制限的であり、中小企業と家計の負担ばかり加重させているためだ。そのうえ日銀の黒田東彦総裁の終盤の攻勢に力づけられ5対4で追加の通貨浮揚策が通過したが、日本銀行内で通貨浮揚策の効力を疑問視されているのも事実だ。早期衆議院選挙まで重なり、経済的論理でなく政治的論理がアベノミクスを支えているでのはないかとの不信感も根強い。
周辺国の立場も、これ以上景気回復のための円安の不可避性に留まってはいない。米国がその例だ。米民主党の対外経済政策を牽引するピーターソン国際経済研究所(PIIE)は最近、円ドル為替レートの適正水準(ファンダメンタル均衡為替レート)を107円に推定したことがある。現実の為替レートと乖離しているが、研究所は日本がまだ人為的な円安あるいは競争的な評価引き下げをしているのではないと評価する。ただ、公的年金の海外投資拡大などを通した円安効果が、実は政府の市場介入と似ていると指摘する。 米日間でも為替レートの葛藤の素地が大きくなっているわけだ。
とにかく、こうした円安の影響で韓国の為替レートも揺れ動いている。3/4分期だけでも1000ウォン線の崩壊が憂慮されたウォン・ドル為替レートが、すでに1100ウォンを軽く跳び越えたためだ。やはり円安の深化にともなう韓国企業の競争力弱化に対する憂慮が反映された結果だ。こうしたなか、日本円対比ウォン為替レート(ウォン円為替レート)管理のための政府介入も続いている。その他に韓国銀行の金利引き下げもウォン・ドル為替レート上昇の一助となったが、これも実は政府の景気浮揚努力に共助したという点で事実上円安の影響、すなわちウォン円同調化と変わりない。
だが、次第に円安の性格が変わり状況が反転する兆しもある。特に円安がアベノミクスの失敗の可能性という日本固有の危険を反映することになり、ウォン円同調化も弱まる可能性が大きい。実際、日本と違い韓国のCDSプレミアムは最近下落傾向を再開しグローバル金融危機以後最低値にまで下がった。韓国経済の比較的良好な基礎条件、すなわち大規模な経常収支黒字や短期借り入れ抑制など外国為替健全性の改善と対外信用度向上を反映している。実際にウォン円為替レートも着実に下落している。一時、ウォン円為替レート950ウォンが政府の介入目標に評価されたが、最近では940ウォン、930ウォンと次第に低くなっている。
したがって今は、むしろウォン・ドル為替レート急落の危険が大きい。もちろん連邦準備制度の出口戦略など対外条件が難しい状況で、ウォン高の勢いが一方的に進行されるのは制限的となり、その途中での変動性危険も大きい。だが、少なくとも円安の衝撃からは次第に抜け出している。それでも韓国の政府や世論は相変らず円安に捕らわれている。企業論理に重点を置いた高為替レートに対する執着はこのためだ。その結果として、自己実現的な危機がもたらされることはないか? グローバル金融危機直前、韓国政府の高為替レートの実験がいかなる結果につながったのか反省する必要がある。
韓国語原文入力:2014.12.08 00:05