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[コラム] 安らかでこそ深く考え遠くが見える

登録:2015-03-18 21:57 修正:2015-03-19 06:28

 1990年代中盤の金泳三(キム・ヨンサム)政権時期、教授が主導する受託研究に助教として関わった。 韓国社会の指導者層に属する人々の考えを尋ね整理する作業だった。その時に私が驚いたのは、相当な社会的地位と富を持っているとみられる多くの面談対象者が、何か剥奪された状態を感じ被害者意識を持っているという事実だった。

 その後、私は韓国社会で金と権力、地位と名声に何の不足もない人々が被害意識と不安感を持っていて、自分とは比較にならないほど厳しい境遇にある人々に対する配慮の気持ちが不足していることを感じた。 もちろん、資本主義市場経済というものは常に不安定なので、大企業オーナーであっても常に危機意識、緊張と不安から抜け出せはしないだろう。 特に多くを持てる人は失うものが多いために、常に不安であり、貧者の攻撃を意識して恐怖感を持つ傾向があり、また彼らの欲望自体が不安を伴うものだ。 しかし、韓国社会の最上層が持っている不安感はやや異なる根源を持っているようだ。 それは自身の権力や富が適法で正当な手順を踏んで得られたものではないところから来る基本的不安感、社会運動陣営が彼らの過去や道徳性を激しく攻撃したことを意識した被害者意識などから来るのではないかと考える。

 中国の古典『大学』には「安らかであってこそ物事を正しく考えることができる」(安而后能慮)という言葉がある。 深刻な対立や戦争状態では深く遠くまで考えることはできず、当面の生存に汲々とすることになる。ところで危機というのは事実主観的なものだ。 権力者自身が清廉潔白でない過去を背負っていて、批判者が自身を道徳的に否認すれば単純な批判者も「敵」に見えるために、彼らを包容するよりは国家安保を振りかざして消そうとするだろう。 過去に日帝に附逆した人々、独裁政権下で権力と富を享受した人々は非常に不安な状態にあったし、そのために権力を握った後に顕著な成果や目標達成に執着したり、自身を批判する学生たちまで敵と見なして弾圧したが、それは結局彼らが強い危機意識と不安感を持っていたためだろう。

 朴槿惠(パク・クネ)政権が統合進歩党を解散請求し、国家情報院と検察を政治の前面に立たせ、いくら欠陥が多くとも大統領に忠誠を捧げる人々を起用したのは、この政権には国家の未来や長期政策を検討する余裕がなく、追い込まれているという話だ。 この政権では大統領任期中に効果が出てこない社会政策、すなわち教育・福祉・労働政策をほとんど展開できないこと、統一を“大当たり”と表現したこと、零細自営業者、非正規労働者、青年失業者など具体的対象の境遇を考慮した政策を出せず、ただ“経済再生”だけを呪文のように繰り返し唱える理由も、全てここに起因するようだ。 先の大統領選挙での不正の過去が全てを飲み込んでいるという話だ。 このような自己防御に汲々とした朴槿惠政権下で、さらに3年耐えなければならない我々は本当にかわいそうな境遇にある。

 権力と富を持つ勢力が、安らかで自信を持っていてこそ政治共同体の未来を深く慮ることができ、遠くを見る政策を構想し実践できる。 政府の政策は支持率の向上と票を貰うための政略の産物ではならず、国民の境遇と国の未来のための熟考の結果でなければならない。 それがない時“従北追い込み”や経済“成長”に執着することになる。

金東椿聖公会大社会科学部教授//ハンギョレ新聞社

 光復(解放)から70年の歳月が流れた。過去70年間の分断と事実上の戦争状態を体験して、韓国は30年、100年先を見通す保守指導者や勢力とほとんど出会えずにきた。 より安らかな心を持つ指導者、自信があり未来を慮る保守勢力が出てくる時になった。 そのためには国民に“従北追い込み”を使う政治家やマスコミを退出させる見識がなければならない。 他人同士の和解を先にしてこそ南北和解と平和統一の道に進むことができ、中国と米国の隙間で知恵を発揮できる。 被害意識と不安感がない“保守”が出てきてこそ、それとライバルになる進歩が作られうる。

金東椿(キム・ドンチュン)聖公会大社会科学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/682637.html 韓国語原文入力:2015/03/17 18:49
訳J.S(1823字)

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