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[コラム] 風船ビラと産経に見る南北の“尊厳”

登録:2014-10-15 19:40 修正:2014-10-16 07:24
「表現の自由」を口実にビラ散布をほう助してきた朴槿恵政権
「7時間の疑惑」提起は司法処理に続いてサイバー検閲まで

クァク・ビョンチャン先任論説委員が朴槿恵大統領に送る手紙77

北朝鮮脱出者の団体である自由北韓連合と北韓人民解放戦線の会員らが9月21日、京畿道坡州市(パジュシ)烏頭山(オドゥサン)の統一展望台駐車場でビラ20万枚と1ドル札1千枚、DVD,USBなどが吊り下げた風船10個を北に向けて飛ばした。 坡州/イ・ジョンア記者//ハンギョレ新聞社

 南北の銃撃戦を惹起した北朝鮮向けビラの内容は、ほとんどが北の“最高尊厳”を冒とくする内容です。 金正恩労働党第1書記を打倒すれば食糧難も解決され自由と平和が来るという体制転覆を扇動する内容や、金書記とその夫人リ・ソルチュの確認されもしない“猟色行為”などです。 北の立場としては本当に口にできない話でしょう。 最高尊厳に対する冒とくを体制転覆の威嚇と見なす北では、こういう“デマ”散布行為に対しては即決処刑することにしています。 見たり聞いたりしても申告せずに、その場ですぐに対応しなかった人もそれに近い罪と見なされます。

 そのような刑法体系や刑罰権行使の方式を、国際社会や南側では強く批判してきました。 国連人権委員会ではことある毎に決議案を採択し、北のこのような基本権侵害を中止するよう促しました。 北の挑発威嚇と南北対話の断絶の危険にもかかわらず、南側もそのような国際社会の決議と動きに参加してきました。 国際社会が北の人権状況に対して最も核心的に憂慮し、正常化を要求している事項はまさに“表現の自由の保障”です。 政治犯、すなわち最高尊厳と体制を批判し反対する人々に対する拘禁、拷問と処刑を中止しろということでした。 しかし、北はこの問題に関する限りまさに“絶壁”でした。 針で刺しても入る穴一つない不動の姿勢でした。

 これに対して朴槿恵政府は誰よりも攻撃的でした。 分断後の南北は相手方の最高権力者を誹謗謀略するビラを無差別に散布しました。 ビラは銃声なき銃弾であり、爆発音なき爆弾でした。 金大中政権以後に中止されたビラや放送を通した誹謗冒とくが復活したのは李明博政権になってからでした。 しかし、李明博政権も対話を推進して二回も北朝鮮向けビラの散布を制止しました。 実際、ビラ散布は接戦地域の住民たちに対する現存し緊迫した威嚇だったので、これを口実にして北朝鮮脱出者の団体らが主張する“表現の自由”を規制したのです。 しかし、朴槿恵政権は一度もビラ散布を制止しませんでした。「‘憲法上、規制できない表現の自由」に該当するとして、憲法上の基本権を持ち出しました。 さらに一歩進んで、これら団体に対する間接的な支援によりビラ散布を事実上ほう助しました。

 6・25戦争(朝鮮戦争)以来、初めてと言われるビラを原因とした南北の銃撃戦はその結果でした。 数日前には対空機関銃10発、40発、そして個人火器数十発が飛び交いましたが、今後のビラ散布がどんな結果を招くかは誰にも断言はできません。 北側は最高尊厳の冒とく、すなわち体制崩壊威嚇と見なし、彼らが言ってきた通りにするでしょう。 銃撃戦以来、北は繰り返し“ビラ撃滅作戦”を通知しています。 これまでビラ散布原点打撃、原点焦土化などを警告していたうえに、数日前に銃撃戦まで起こったために尋常でない状況です。 最高尊厳に対する批判(表現の自由)は、このように北側を激烈に刺激しています。

 偶然にも南側でもほぼ同じ時期に起きていることでした。 北がビラに向けて銃撃を加える二日前、南側では大統領の私生活疑惑を報道した日本の『産経新聞』加藤達也前ソウル支局長を起訴しました。 不法か否かは裁判所が最終判断を下すでしょうが、政府による処罰はすでに下された状態です。 起訴前には刑事被疑者として出入国が禁止されました。 今は起訴されたので刑事被告人として相当な水準の公民権あるいは基本権の制約を受けることになります。

 事実、当時の加藤支局長が報道したことは、北朝鮮向けビラに書かれている“北の最高尊厳の猟色行為”に比較すれば雀の涙です。 北朝鮮向けビラについて韓国政府は“表現の自由”に該当するとして規制できないと言いました。 そのうえ「朴槿恵大統領の消えた7時間と朴大統領の私生活疑惑」の拡散は、大統領が自ら招来した側面も少なくありません。 セウォル号事故後、多くの人々が疑問を提起し、その行跡に対する解明を要求しました。 しかし大統領は一言も答えませんでした。 秘書室長が「(大統領府の)境内にいた」と言ったのがすべてでした。 民主社会では公私を離れて国民の要求があれば公開するのが道理で原則であるのに、大統領はじっと握りつぶしてきました。自由で民主的な社会ならばそのような報道が出てくるのは当然のことでした。

読売新聞をはじめとする日本の主な新聞が、朴槿恵大統領の名誉を傷つけた疑いで加藤達也産経新聞前ソウル支局長が韓国検察によって不拘束起訴されたというニュースを9日付け紙面に載せた。 2014.10.9 /東京=連合ニュース

 それについて大統領府は「口にはできない冒とく」として、表現の自由の限界を越えたと規定しました。 そして、最後まで民刑事上の処罰を推進すると言いました。 大統領の意向がそうなのだから検察になにができますか。 服従しなければ査察され、出世街道が塞がれ、強制的に裸にして追い出されるしかないのにです。 結局、この政府は自分たちの“尊厳”に対する疑惑提起に対しては、表現の自由を認めませんでした。 国際社会と言論が一斉に韓国政府非難に乗り出したのは、そのような理由からでした。 北の“尊厳”に対する口にできない冒とくは表現の自由に該当すると言って黙認しておきながら、自分たちには許容しないというのでは、さらに悪く見えるかもしれません。

 もちろん南側では“最高尊厳”とは言いません。 しかし、キム・ギチュン秘書室長が呼んだ“上の方”という言い方があります。 大統領という呼称もあるのに、どうして上の方なのですか。 職責にまで神がかり的な権威を付与したから、そんな風に呼んだのでしょう。 英語圏では常に「ミスターオバマ」あるいは「ミスタープレジデント」と呼んだり書いたりします。

 表現はどうであれ、南側は加藤前支局長の起訴を通じて“上の方に対する冒とく”の原点を打撃しました。 活字媒体(ビラも活字媒体です)に対する打撃だけでありません。 さらに続けてサイバー空間に対する打撃も公言しました。 活字媒体より一層多くの情報と私的な対話が行き交うものの、統制が困難なサイバー空間に対する査察と処罰を公言することによって、韓国の“表現の自由”を“マッコリ反共法時代”に戻してしまっているのです。 それが全て「冒とくが度を越した」という大統領の厳粛な一言で始まりました。

 北がビラの原点に向かって、ジープをも転覆させる対空機関銃を撃ちまくったのと、南側政府が“人身拘束”という銃を誹謗と冒とくの原点に向かって撃つと言ったのと、その性格には違いがありません。 私には到底理解できません。 今、この政府は維新体制と第5共和国の亡霊を呼び起こすだけでも足りず、北側に似つつあります。 自分が寡聞なためですか、不勉強のためですか、あるいは生まれつきそうなんでしょうか。

クァク・ビョンチャン先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/659671.html 韓国語原文入力:2014/10/15 09:59
訳J.S(3212字)

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