ウクライナ軍がロシア領土に侵入して5日が経過し、ロシアも軍事的対応を本格的に展開している。
ロシア反テロ委員会は9日夕方に声明を出し、ロシア南西部の「ベルゴロドとブリャンスク、クルスク地域において、市民を保護するための反テロ作戦に突入した」と明らかにした。クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事代行もソーシャルメディアに「クルスクでウクライナの破壊工作とテロ危険が強まり、対テロ作戦に入った」と投稿した。
これを受け、治安当局の兵力と軍の兵力は、ウクライナ軍が進撃してきたこれらの地域で全面的な非常権限を持つことになり、移動統制、車両徴発、検問所設置、主要施設に対するセキュリティー措置の強化や通信盗聴などが可能になったと、AFP通信が報じた。
民間人の被害も相次いでいる。ロシア当局者は11日、「わが軍に迎撃されたウクライナ軍のミサイルの残骸が9階建てアパートに落ち、少なくとも13人が負傷した」と述べた。これにともない、これらの地域の地方政府は民間人の疎開にも乗りだしている。地域住民の避難を助ける車両が次々に動員され、首都モスクワに向かう列車も増便して運営されている。名前を明らかにしなかったある女性は、モスクワに到着して「戦争が私たちのところに来た」と語ったと、海外メディアが報じた。ある地方政府の関係者は「7万6000人以上の人たちを安全な地域に移すよう措置を講じた」と述べた。
これに先立ち、ウクライナ軍は6日に国境を越え、ロシア南西部のクルスク地域の攻撃を敢行。ロシア軍は当時、ウクライナ軍兵力1000人あまりが国境を越えて戦車11台、装甲車20台あまりを引き連れて進撃したことから、国家防衛軍の兵力などを動員して撃退作戦を行っていると明らかにしている。
これと関連してウクライナ当局は、公式の言及を避けてきた。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日夕方の演説で初めて、「戦争を敵国の領土に押し出し、軍事行動に出た」ことについて軍指揮部の報告を受けたと言及し、ウクライナ軍兵力のロシア領土進入の事実を遠回しに認めた。ゼレンスキー大統領は、兵士たちの労苦と犠牲に謝意を示した後、「ウクライナは正義を本当に実現できること、そして侵略者らに必要な圧力を加えることができることを立証している」と述べた。
ニューヨーク・タイムズが衛星写真を分析して報道した内容によると、ロシア軍はウクライナ軍兵力の電撃的な進撃を止めるために設けた防衛ラインの準備に成功したとみられる。ところが、ウクライナ軍は国境から10キロメートルほど離れたロシア都市のスジャの大部分の地域を統制しており、ベルゴロド地域の村の数カ所も占領している。
特にスジャは、ロシアから欧州に向かう天然ガスのパイプラインが通る戦略的に重要な要衝だ。また、スジャから北東に70キロメートル離れたところには原子力発電所があり、その周辺で戦闘が繰り広げられる場合、場合によっては大事故につながる可能性もあると懸念される。ロシア当局は「ウクライナ軍の軍事行動は、クルスク原発にとっては直接の脅威」だとして懸念を示した。
これとは別に、ロシア軍はウクライナへの空襲を強化している。10日夕方、ロシア軍がウクライナ東北部の都市ハルキウを砲撃して3人が死亡、翌日にはキーウなどを空爆して22人が死亡した。また、ロシアの同盟国のベラルーシは、ウクライナの侵略に備えるという名目で国境守備の強化に乗りだし、軍事的緊張を引き上げている。
ウクライナがロシア領土への進撃に出た戦略的な理由が何であるかについては、まだ明らかになっていない。専門家らの間からは、ウクライナ軍がロシア軍の兵力分散を狙ったものではないかとする指摘が出ている。ロシアが本土防衛のためにウクライナ戦線に投入している兵力を移動配置すれば、ウクライナ戦線でロシア軍の攻勢に苦しめられているウクライナ軍は一息つけるということだ。また、ロシア領土の占領を、今後行われる可能性がある平和交渉でのテコに活用しようとする意図ではないかという観測も出ている。