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ワシントンNATO首脳会議が残したもの【寄稿】

登録:2024-07-24 01:39 修正:2024-07-24 11:24
韓国にとって、自由の十字軍を自任しつつ敵対の領域を広げるのは賢明ではない。陣営同士の対決が極端化し、北朝鮮に加えて中国とロシアが核とミサイルでソウルを狙うことになれば、その対立の最前線に立たされるのは他ならぬ韓国だ。 
 
ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授
北大西洋条約機構(NATO)75周年首脳会議に出席するため米国を訪問した尹錫悦大統領(左から2番目)が10日(現地時間)、ホワイトハウスで開かれた公式歓迎晩さんレセプションでウクライナのゼレンスキー大統領とあいさつしている。左からキム・ゴンヒ女史、尹大統領、ゼレンスキー大統領、オレナ・ゼレンスカ女史、日本の岸田首相=ワシントン/聯合ニュース

 7月10日からの3日間、米国ワシントンで北大西洋条約機構(NATO)加盟32カ国とインド太平洋4カ国(韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド)の首脳が出席するNATO首脳会議が開催された。その直前、米国の国際政治学界の保守から進歩までの60人あまりの代表的な学者が、NATOの首脳たちに公開書簡を送った。攻撃的現実主義を代表するシカゴ大学のジョン・ミアシャイマーとハーバード大学のスティーブン・ウォルト、リベラル国際主義学派の主流の人士であるジョージタウン大学のチャールズ・カプチャンとカーネギー国際平和財団のスティーブン・ワースハイム博士らが署名した公開書簡は、少なからぬ波紋を呼んだ。

 公開書簡の要旨は次の通り。第1に、ウクライナのNATO加盟は賢明ではない。紛争中のウクライナがNATOに加盟すると、NATO条約第5条にもとづいて加盟国の参戦が避けられなくなるが、それは欧州と米国の安保と繁栄を害することになるだろう。第2に、ウクライナ戦争は米国の安保と繁栄を担保にするほど重要な事案ではなく、誤った介入は第3次世界大戦へとつながりうる。第3に、ウクライナがNATOに加盟したとしても、ロシアのウクライナ再侵攻を防止することはできないだろう。むしろロシアの疑念を増幅させ、戦争の悪化やNATO内部の分裂へとつながる可能性もあり、結果的にウクライナにさらに大きな被害をもたらしうる。最後に、NATOの固有の目標は加盟国の領土と安全を守ることであるため、ウクライナをNATO加盟国と認めることなく戦争を終わらせる解決策を見出すべきだ。

 一目で見ても薄情極まりない主張だ。一般的な国際世論にとってももちろんだが、ウクライナにとってはさらにそうだろう。これまで自由の連帯、国際法の厳守、侵略者に対する強力な報復という大義名分を強調してきたNATOの首脳たちに、冷徹な現実と国益にもとづいた実用的代案を模索せよと強く迫るものでもある。戦争疲労症候群に苦しんでいる欧州の諸国民の一般的な感情も、これと大きくは変わらないようにみえるのは確かだ。

 NATO首脳会議が採択した38項目の共同声明には、この公開書簡の主張が一定部分反映されている。声明はウクライナに対する包括的かつ具体的な軍事支援策を示しているが、ウクライナをNATO加盟国として招き入れるとは言及していない。もちろん、加盟国に準ずる様々な恩恵を提供するとしたうえで、これらの支援プログラムは加盟のための不可逆的な橋渡しの役割を果たすことになるだろうと説明してはいるものの、ウクライナのNATO加盟についての全加盟国の合意は実現していない。

 今回の会議でもう一つ目立ったのは、北大西洋の安保と北東アジアの安保は分離しえないという主張だ。ウクライナ戦争がもたらした陣営化と朝ロ密着の圧力のせいだろう。しかし原則論的に言えば、各地域の安保は最大限分離され、その間に高い防火壁が立った方が互いにとって有利だ。さもなくば、ある地域の紛争が他地域へと簡単に飛び火し、世界大戦にまで拡大する恐れがあるからだ。

 さらに、欧州の安保すら自ら解決できていないNATOに、果たして北東アジアへと外延を拡張することなどできるのか。北朝鮮の脅威に目の前で向き合っている韓国が、欧州を軍事的に支援することなどできるのか。ある人は、ウクライナに対する殺傷兵器の支援によって韓国が欧州各国で得るであろう新たな関心と尊敬を語る。しかし南北全面戦争のような極端な状況になった時、欧州諸国がその尊敬と関心のために、地球を半周して意味ある戦力を適切な時期に朝鮮半島に発射しようとするであろうか。

 今回の首脳会議の期間に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は、「普遍的な価値観を共有するNATOとインド太平洋地域のパートナー同士の協力は、世界の自由と繁栄のための時代的要求」だとしつつ、「武力による現状変更の試みを擁護する勢力同士の結託は、すなわち自由世界が構築した平和と繁栄に対する正面からの挑戦」だと批判した。北朝鮮、中国、ロシアをひとまとめにした批判だ。友好国の盛大な宴で述べた美辞麗句だとも考えうるが、最高指導者のすべての発言は直ちに外交的意味を生むということも忘れてはならない。韓国にとって、自由の十字軍を自任しつつ敵対の領域を広げるのは賢明ではない。陣営同士の対決が極端化し、北朝鮮に加えて中国とロシアが核とミサイルでソウルを狙うことになれば、その対立の最前線に立たされるのは他ならぬ韓国だ。

 上記の60人あまりの学者による米学界の公開書簡ははっきりと述べている。国民の命と安全を念頭に置いた実利追求の外交安保政策を目指せということを。世界最強国を自任する米国にとってもそうなら、韓国にとってはさらに示唆するところが大きいだろう。韓国外交が必ず念頭に置くべき冷徹な現実認識と客観的情勢評価の重要性だ。

//ハンギョレ新聞社

ムン・ジョンイン|延世大学名誉教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1150056.html韓国語原文入力:2024-07-22 07:00
訳D.K

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