ロシアが戦争遂行に必要な兵士確保のため全国に「部分的動員令」を下した。また、2月末の侵攻以降占領したウクライナ東部と南部の4州を編入するための住民投票を強行することを決めた。足りない兵力を速やかに埋め、ウクライナ軍の攻勢を撃退し、現在占領している地域を迅速に領土化して長引く戦争を終わらせようとの意図と解釈される。
プーチン大統領は21日(現地時間)午前9時、テレビで全国中継された対国民演説で、「ロシア連邦が部分的動員令を下すべきだという国防部と合同参謀本部の提案を支持する必要がある。これまでは職業軍人だけを動員したが、21日から予備役など国民を部分的に動員する大統領令に署名した」と明らかにした。さらに、このような決定を下した理由について、「私たちが直面した脅威、すなわち祖国・主権・領土を保護し、解放された領土でわが国民と国民の安全を保障するためのもの」だとし、「軍で服務した人のうち、特定の軍事特技があり、関連経験のある人が(動員対象に)なる」と述べた。セルゲイ・ショイグ国防長官はこの発表直後、「30万人がウクライナで軍事作戦に服務するために追加で召集されるだろう」と述べた。ロシアは2月24日にウクライナに侵攻したが、これを「戦争」ではなく「特別軍事作戦」と呼び、動員令も下さなかった。
プーチン大統領が動員令に対する方針を変えたのは、200日以上続く戦争でロシア軍の人命損失が持ちこたえられない水準に達したためとみられる。米国防総省は8月初め、今回の戦争でロシア軍の死傷者が7万~8万人に達するという推定値を公開した。その後ひと月の間に、ウクライナ軍が東部と南部戦線で大規模な進撃に成功し、ロシア軍の人命被害はさらに大きくなった。
しかし、この決定を「拡大」に向かう選択と解釈するのは早い。プーチン大統領自身がこれを否定している。彼は16日、ウズベキスタンのサマルカンドで行った記者会見で、ウクライナ軍の反撃で「特別軍事作戦」の目標が変更されるのかという質問に対し「計画は調整されない。合同参謀本部がリアルタイムで判断している。我々の主な目標は(ウクライナ東部)ドンバス地域全体を解放することだ」と述べた。さらに同日、インドのナレンドラ・モディ首相と会い「我々は戦争をできるだけ早く終わらせるために最善を尽くしている。しかし、ウクライナのリーダーシップが交渉を放棄し、軍事的手段によって目的を達成することを望んでいる」と述べた。結局、今回の措置はドンバス地域にまで入り込むウクライナの攻勢を阻止することを意図した防御的措置と解釈できる。動員令を下さなければならないほどロシア軍が深刻な窮地に追い込まれているということだ。
ロシアはさらに、占領地域を急いで領土化しようとする姿勢をみせている。ドンバスと南部ヘルソン州、ザポリージャ州など4地域の親ロ分離主義勢力の当局者は、23~27日にロシア編入を決定する住民投票を実施すると20日に一斉に明らかにした。
ロシア軍が任命したザポリージャ州の行政責任者エフゲニー・バリツキー氏は「住民投票はロシア軍が統制する地域で同時に行われる予定だ」とし「選挙が延期されることはないだろう」と述べた。ヘルソン州の責任者のウォロディミル・サルド氏も、ロシアに住民投票の準備を手伝ってほしいと要請したと明らかにした。ドネツク州のデニス・プシーリン氏も「警察と選挙管理委員会が各家庭を訪問し、投票を促している」と述べた。
一部ではロシアの住民投票強行方針に対して、戦争の「新しい局面」を予告するものである可能性があるとの不吉な観測も出ている。住民投票で強制編入した地域をウクライナ軍が奪還しようと攻撃した場合、ロシアがこれを「自国領土に対する攻撃」とみなし、核威嚇など超強硬対応に出る可能性があるためだ。実際、ドミトリー・メドベージェフ国家安保会議副議長は、占領地の強制併合は後戻りできない地政学的変化になるとし「ロシア領土に対する攻撃は犯罪であり、我々は自衛のためのあらゆる手段を動員する」と述べた。自衛のための「すべての手段」とは、核兵器の使用を強く暗示するものだ。
ウクライナは領土の強制編入を認めることはできないと明らかにした。ウォロディミール・ゼレンスキー大統領は20日の定例演説で、「我々の立場は、このような『騒音』によって変わることはない。団結を維持し、祖国を守り、わが領土を解放するうえでいかなる弱点も見せないように」と呼びかけた。米国と欧州連合(EU)の反応も同じだった。米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はこれに対して、ウクライナの主権を侵害し国際法に反する「偽りの投票」だとし「ロシアの試みに明白に反対する」と述べた。ジョセップ・ボレルEU外務・安保政策上級代表も「EUと加盟国はロシアが強行する住民投票の結果を認めない」とし「投票が進められればロシアを対象とした追加措置を考慮する」と反発した。