欧州でロシア人に観光ビザを発給すべきかどうかをめぐる議論が加熱している。凄惨なウクライナ戦争が続くなか、ロシアの「オリガルヒ」(新興財閥)が欧州で豪華な夏休みを過ごすことなどに対する視線が厳しいからだ。
英国紙「フィナンシャル・タイムズ」は28日、匿名の当局者3人の話を引用し、欧州連合(EU)の外相らが30日にチェコのプラハで会合し、ロシア人への観光ビザ発給を制限する問題について論議する予定だと報じた。インタビューに応じた当局者の1人は、「我々(欧州)の都市と港をロシア人が歩きまわるようにしておくことは不適切だ」とし、「この戦争は容認できないというシグナルを、ロシア人に送らなければならない」と述べた。
EUとロシアは2007年にビザ簡素化協定を結んでおり、ロシア人のEU加盟国への入国は容易な方だ。同紙は、EU各国の外相が、このビザ簡素化協定の適用を一時中断する案を支持するものとみられると見通した。EU統計局の資料によると、2019年の1年間のロシア人のEU領域内での滞在日数は、合計3700万日を記録した。
ロシアと国境を接するEUの5つの加盟国であるエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、フィンランドの5カ国は、ロシアが2月末にウクライナを侵攻して以降、ロシア人に対する観光ビザの発給を制限してきた。これらの国々は、さらに一歩踏みだし、EU全体レベルで同じ措置を取らなければならないと主張している。EUとスイス、リヒテンシュタイン、ノルウェー、アイスランドなどは、国境検問を撤廃した「シェンゲン協定」に加盟している。そのため、これらの国を通じてEU内に入ってきたロシア人は、ポーランドなど5カ国にも検問なしに入国できる。結局のところ、自分たちだけがロシア人の入国を制限することで解決される問題ではないという主張だ。
しかし、EUを主導するドイツでは議論で賛否が分かれており、EU全体でロシア人に対する観光ビザの全面発給中断が行われるかどうかは未知数だ。欧州議会のデニス・ダートケ議員(キリスト教民主同盟)は、「欧州で休暇を過ごしながら、何事も起きなかったかのように金を惜しげもなく使うロシア人に我慢できない」と述べ、マンフレート・ヴェーバー議員(キリスト教社会同盟)も「ウクライナからの避難民たちとここで休暇を楽しむロシア人を同時に体験することは耐えがたい」と語った。
一方、オーラフ・ショルツ首相は15日、ノルウェーのオスロで開かれた北欧5カ国とドイツの首脳会議で、ウクライナ戦争は「プーチンの戦争にすぎず、ロシア国民の戦争ではない」としたうえで、観光ビザの全面禁止措置について明確に反対する意向を表明した。ドイツ紙「南ドイツ新聞」も「西側はロシア人が欧州で堂々と休暇を楽しむことにも耐えなければならない。法治国家の概念の中心は、特定集団に対する帰属の有無よりも、一人ひとりを中心に置いてみることだ」と主張した。プーチン政権から抜けだそうとする人たちが、発給が比較的容易な観光ビザでひとまず入国するケースが多い点も、全面禁止が望ましくない理由として挙げられている。
ドイツの人権団体「プロアジール」は、「観光ビザでドイツに入国したロシアの反政権の人たちを知っている。これらの人たちの避難通路が必要だ」と述べた。フィンランドのサンナ・マリン首相は15日、この問題に対するEUレベルの議論が必要だとしたうえで、「これは黒と白の問題ではない。灰色の陰がある」と述べた。